雇用契約書の「有期・無期」食い違いは違法リスク?判断ポイントと注意点|社労士 日隈 久美子の視点
試用期間の運用と契約期間の説明が、労使トラブルに直結する場面を確認する
この記事への視点を提供する社労士
- 社会保険労務士 日隈 久美子 (とどろき社会保険労務士法人/東京都豊島区)
雇用契約の「期間」の扱いをめぐって争いになった裁判について紹介します。採用時の説明や書面の整理が、どのように受け止められたかが読み取れる内容です。まずは引用記事をご覧ください。
雇用期間満了終了を認める――東京労働局
東京都内の税理士法人で働いていた労働者が、無期労働契約の成立を主張し、期間満了による本採用拒否は違法と訴えた裁判で、東京地方裁判所(小川弘持裁判官)は契約を有期と判断し、期間満了での終了を認めた。両者が交わした契約書には「期間の定めなし」と「期間の定めあり」が併記されていたが、無期の記載は消し忘れと評価している。ハローワークの求人票には「期間の定めなし」と表記しており、事前の説明なく有期の契約書を作成するとは考え難いと指摘。採用面接の場で労働者に説明し、合意を得ていたとした。
記事提供:労働新聞社
- 記事提供企業 -
今回の事案は、契約書の記載ミスがあった一方で、採用時の説明や合意の経緯が判断に影響しています。採用の入口でのやり取りがどう扱われたのかを踏まえて、整理します。
雇用契約書の記載ミスが招く契約期間トラブルとその備え
この事案の焦点は本採用の可否だけでなく、採用時点で「契約期間をどう定め、どう説明していたか」という入口の整理にあります。
引用記事では、契約書に「期間の定めなし」と「期間の定めあり」が併記され、無期の記載は「消し忘れ」と評価されました。形式としては万全とはいえない状態です。それでも有期契約と認められたのは、面接時の説明や当事者間のやり取りを通じ、一定期間の契約であるとの理解が一貫していたと見られたためです。書面の揺らぎを、採用過程全体の経緯が補った構図といえます。
もっとも、このような事情が常に認められるとは限りません。たとえば、求人票には「期間の定めなし」と記載し、面接でも特に触れず、契約書の条項だけが有期となっていた場合、労働者が無期を前提に理解していたとしても不自然ではありません。更新の有無や満了時の扱いを具体的に示さないまま契約を締結すれば、後になって「説明を受けていない」との主張が生じやすくなります。そのとき争われるのは本採用の判断ではなく、契約の出発点そのものです。
実務では、こうした記載や説明の揺れは珍しくありません。雇用契約書のひな形に無期・有期の文言が併存したまま交付されたり、チェック欄の選択が曖昧なままになっていたりすることがあります。求人票は初期設定のまま「期間の定めなし」と表示され、面接では「まずは様子見」と伝え、入社時の書面には有期条項が入る―情報が別々に更新されることで、結果的に整合が崩れてしまう例も見受けられます。
採用担当者が複数いる場合には、説明の仕方にばらつきが生じ、「更新があるのか」「満了で終わるのか」が曖昧なまま進むこともあります。問題になるのは悪意の有無よりも、入口で理解を揃えきれなかった点です。後から経緯を積み上げて説明することはできますが、その負担は小さくありません。
本来、契約期間の定めとその内容が明確に示され、募集から契約書まで同じ結論で貫かれていれば、多くは裁判に至る前に収まるはずの問題です。裁判で勝ったかどうかよりも、争いの余地を残さないことの方が重要です。
整えられた契約書と、それに沿った一貫した説明があれば、意義を差し挟む余地は小さくなります。事後に防御するのではなく、事前に疑義が生じない状態をつくっておくこと。それが実務における備えの要点といえます。

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