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更新日:2026 / 04 / 20
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同一労働同一賃金の運用リスクと基本給の見直し|社労士 久保田 慎平の視点

パート・有期雇用の雇用区分と賃金体系をどう整えるかを確認する

この記事への視点を提供する社労士

    社会保険労務士 久保田慎平(社会保険労務士法人GOAL/神奈川県川崎市川崎区)

この記事を読んで分かること

  • 自主点検票で基本給6割未満が確認項目とされた意味を、行政の着眼点として押さえられる
  • 雇用区分が曖昧なままでは、賃金体系と現場運用の整合を取りにくいことが分かる
  • 基本給の差を見直す際に、配置・評価・昇給で何を整理すべきかが見えてくる

同一労働同一賃金への対応では、パート・有期雇用の基本給をどのような考え方で決めているかが、企業にとって避けて通りにくい論点になります。
とくに基本給は、どのような雇用区分を置き、その区分ごとにどのような役割や責任を想定しているかが表れやすい項目です。
厚労省が自主点検票で「パート・有期の基本給は正社員の6割未満である」かを確認させている点は、その水準の置き方が具体的な確認対象になっていることを示しています。

同一労働同一賃金 遵守徹底へ集団指導強める

厚生労働省が令和4年12月から進めている同一労働同一賃金の遵守の徹底に関する取組みについて、7年9月から集団指導を強化していることが本紙の情報公開請求により分かった。昨年7月に運用変更にかかる通知を出している。具体的には、労働基準監督署、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)と職業安定部が開く説明会で、チェック方式の自主点検票を配布。さらなる徹底を企業に要請するとした。自主点検票には、基本給について「パート・有期の基本給は正社員の6割未満である」かをマークする欄がある。
記事提供:労働新聞社

- 記事提供企業 -

 

自主点検票に基本給6割未満という確認項目が置かれたことで、同一労働同一賃金への対応が、抽象的な制度説明ではなく、基本給の水準を具体的に確認する段階に入っていることが見えてきます。
今回の動きは、基本給の差そのものを見るというより、その差を支える雇用区分や賃金体系の考え方まで説明できるかを企業に求めるものとして受け止める必要があるでしょう。
その前提に立つと、行政がなぜ集団指導を強めているのか、企業がどこで説明に行き詰まりやすいのかがつながってきます。

基本給の水準から雇用区分と賃金体系の整合を見る

厚労省が集団指導を強め、自主点検票で「パート・有期の基本給は正社員の6割未満である」かを確認させている点からは、同一労働同一賃金について、基本給の差をこれまでより具体的に点検しようとする姿勢がうかがえます。6割未満という項目は、その数字だけで適否を決めるものではないとしても、少なくとも行政が、基本給の水準から不合理な待遇差の有無をうかがい、必要に応じてさらに確認を深める入口として見ていることを示していると考えられます。

ここで問題になるのは、金額そのものより、なぜその差を設けているのかを企業が説明できるかという点です。正社員とパート・有期雇用で基本給に差を置くのであれば、雇用区分ごとに期待する役割、責任、配置、異動の範囲が賃金体系と結び付いていなければ、差の根拠は弱くなります。そうした整理がないまま差だけが残ると、不合理な待遇差ではないと説明することが難しくなります。

実務でずれが生じやすいのは、制度上は雇用区分を分けていても、現場では区分に見合った役割の違いが薄れ、結果として基本給の差だけが残る場合です。その背景には、非正規だから処遇は低めでもよいという従来の感覚が残りやすいこともありますが、より大きいのは、区分ごとの役割や責任が運用の中で曖昧になりやすいことです。その状態で基本給に大きな差が残っていると、区分に応じた処遇なのか、単に雇用形態で差を置いているだけなのかが見えにくくなります。その迷いは、配置を変える場面、評価面談で期待役割を伝える場面、昇給額を決める場面で表れやすくなります。

難しいのは、賃金表を整えただけでは、この問題は収まらないことです。雇用区分ごとの役割や責任を制度上は分けていても、現場で管理職が同じ水準の仕事を任せていれば、その区分に対応した賃金体系は運用の中で支えを失います。制度では補助的業務と置いていても、実際には納期管理や対外対応まで担っていれば、現場から見える役割はすでに別のものになっているからです。

 こうした設計と運用のずれがあると、契約更新や賃金改定の場面で、なぜその区分にその基本給を置いているのかを説明しにくくなります。人事制度の考え方が管理職の業務配分や評価の仕方まで共有されていなければ、処遇差の前提そのものが日々の運用の中で崩れやすくなります。

行政が集団指導を強めているのも、制度を設けただけでは不合理な待遇差の是正が進みにくいからでしょう。同一労働同一賃金は、就業規則や賃金表を整えれば終わる話ではなく、その考え方が管理職を含めて共有され、実際の配置や評価にも反映されていなければ形だけになりやすい面があります。取締まり強化が必要になるのも、こうしたずれを企業の自主的な見直しだけに委ねても、従来の処遇感覚が残りやすいからだと見ることができます。

 基本給の差を見直す際には、金額水準だけでなく、その差を支える雇用区分、役割、責任の違いが社内で共有されているかまで確かめる必要があります。そうでないと、賃金体系を整えても、現場では以前の感覚のまま仕事を任せ、評価し、結果として説明しにくい差が残ります。

企業がまず意識したいのは、正規・非正規という呼び方で分けることではなく、それぞれの雇用区分で何を期待し、どこまでの責任を担ってもらうのかを明確にすることです。その違いが基本給の決め方にどう結び付くのかを整理し、管理職を含めて共有しておくことが、賃金体系を見直す出発点になります。自主点検票への対応を一時的な確認で終わらせず、不合理な待遇差を生みにくい運用へつなげるには、雇用区分ごとの役割や責任の違いが、基本給の決め方と結び付いた形で社内に共有されていることが重要になりそうです。

執筆者

久保田 慎平

神奈川県

社会保険労務士法人GOAL
【プロフィール】
1983年8月横浜生まれ、横浜育ち。2011年4月に都内の社会保険労務士事務所へ入職、4年間の実務経験後、2015年4月独立開業。2018年9月に行政書士法人GOALと合流し、社会保険労務士法人GOALを設立。

東京・神奈川・埼玉・千葉の中小企業を中心に企業型DC(確定拠出年金)導入支援や人材の採用・定着支援、クラウドシステム導入支援、労務トラブル防止、企業研修による人材育成に力を入れている。就業規則の関与実績約300件以上、商工会議所や金融機関等のセミナー講師、執筆も実績多数。


【略歴】
2011年 4月 社会保険労務士事務所エスパシオ入職
2014年11月 社会保険労務士試験合格
2015年 4月 社会保険労務士事務所人事労務アシスト設立(独立開業)
2018年 9月 社会保険労務士法人GOAL設立(法人化)

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