能力評価制度はどう運用すべきか―発揮能力評価にみる人事制度運用の考え方|社労士 矢萩大輔の視点
評価制度を「形だけ」にしないための運用設計のポイント
この記事への視点を提供する社労士
- 社会保険労務士 矢萩 大輔 (有限会社 人事・労務/東京都台東区)
以下では、ある自動運転技術開発企業が導入している人事評価制度の取組みについて紹介します。個人の能力伸長をどのように制度化し、評価に反映させているのか、その内容を確認していきます。
能力伸長へ「取組み計画」設定――ティアフォー
タクシーやバスなどの自動運転に関する技術開発を行っている㈱ティアフォー(東京都品川区、加藤真平代表取締役執行役員CEO)では、個々人が期初にスキルや対人力など4つの観点ごとにアクションプランを策定し、それぞれの能力発揮度合いを確認する「発揮能力評価」を運用している。当期の「取組み計画」であるプランに基づいて個人の能力の伸長を見極め、基本給の改定や昇格審査に活用する。評価対象には、担当分野の専門的知識に加えて、プロジェクト単位で開発を行う際に必要なコミュニケーション力なども含まれる。一次評価では「プロジェクトリード」の意見も取り入れ、スキルなどの発揮度合いがどの等級レベルに相当するか判定してもらう。
記事提供:労働新聞社
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人事制度の中でも「評価」は、企業の考え方や価値観が色濃く反映される領域です。今回の事例を手がかりに、制度の設計と現場運用の関係を整理してみます。
能力評価は、制度設計より運用の積み重ねで決まる
今回の記事は、人事制度の中でも「能力評価」という仕組みを、どのように現場に根付かせているかを示す事例といえます。単に評価項目を設定するのではなく、期初に各自が行動計画を立て、その実行状況をもとに能力の発揮度合いを確認する点に特徴があります。評価を結果だけでなく、プロセスと結び付けている点は、制度を“使う”ことを前提に設計されている印象を受けます。
このような仕組みは、人事制度を「会社のルール」として示すだけでなく、「日々の行動の指針」として機能させる狙いがあると考えられます。評価項目に専門知識だけでなく、コミュニケーション力などの対人面が含まれている点も、プロジェクト型の働き方を前提とした人材像が共有されていることを示しています。制度そのものが、企業としてどのような能力を重視しているかを語っているともいえます。
一方で、能力の「発揮度合い」を日常業務の中でどのように測るかは、実務上の難しさを伴います。数値化しやすい成果と異なり、対人力やリーダーシップといった要素は、評価者の視点や関係性によって見え方が変わりやすい側面があります。そこで一次評価にプロジェクトリードの意見を取り入れている点は、現場の実態を反映させる工夫といえるでしょう。
ただ、こうした仕組みが機能するためには、会社全体で「等級」や「役割」「求める人材像」が共有されていることが前提になります。評価基準の背景にある考え方が十分に浸透していなければ、同じ行動を見ても評価が分かれる可能性があります。制度が整っていても、運用する人の理解にばらつきがあれば、評価の納得感は得にくくなります。
また、評価を昇給や昇格と結び付ける以上、社員にとっては将来のキャリアに直結する要素となります。だからこそ、「何を目指せばよいのか」「どのような行動が期待されているのか」を日常的に対話しながらすり合わせていくことが重要になります。制度は一度作れば終わりではなく、運用の中で見直され、磨かれていくものだからです。
人事制度は、企業の価値観を形にした仕組みともいえます。どの能力を評価し、どのような成長を促したいのか。その方向性を、制度と日常のコミュニケーションの両面から整えていくことが、結果として制度の実効性を高めることにつながるのではないでしょうか。
