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更新日:2026 / 02 / 18
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固定残業代の運用が招く労務リスクと労働時間管理の落とし穴|社労士 日隈久美子の視点

残業代不払いに至る背景から考える、制度理解と現場運用のズレ

この記事への視点を提供する社労士

    社会保険労務士 日隈 久美子 (とどろき社会保険労務士法人/東京都豊島区)

固定残業代をめぐるトラブルは、制度そのものよりも、その理解や運用のあり方が問われる場面が少なくありません。
以下は、残業代の一部不払いを理由に書類送検された事例を伝える記事です。

残業代の一部不払いで送検――千葉労基署

千葉労働基準監督署(工藤仁美署長)は、労働者11人に対して残業代の一部を支払わなかったとして、臨床検査業の㈱昭和メディカルサイエンス(東京都町田市)と同社総務課責任者を労働基準法第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)違反の疑いで千葉地検に書類送検した。同社は固定残業代として「特別手当」などを1人当たり月10万~15万円ほど支給していたが、残業が多く、法定の額を下回っていた。基本給も最低賃金未満だったが、手当については「労使双方の認識から割増賃金と判断した」(同労基署)としている。

記事提供:労働新聞社

- 記事提供企業 -

このニュースは、賃金未払いの問題としてだけでなく、固定残業代を前提とした労働時間管理が、現場でどのように扱われていたのかを考える材料にもなります。
制度と実際の働き方との関係を整理する視点から、社労士の立場で見ていきます。

固定残業代は「制度」ではなく「運用」で評価される

固定残業代には、毎月の残業代計算を簡単にできるというメリットがあります。
あらかじめ一定時間分の時間外労働を賃金に含めることで、事務処理の負担を抑えられる点は、実務の現場でも導入理由として挙げられやすいところです。

ただし、この制度は、前提となる管理が伴ってこそ成り立つ仕組みでもあります。
この記事を労働時間管理の視点で見ると、残業代を支払っていたかどうか以前に、固定残業代をどのような前提で運用していたのかが問われているように感じます。制度を設けていることと、制度が適切に機能していることは、必ずしも一致しません。
報道では、「特別手当」などを固定残業代として支給していたものの、実際の残業時間が多く、結果として法定の割増賃金額を下回っていたとされています。

固定残業代として認められるためには、
・通常の賃金と区別されていること
・何時間分の残業に当たるのかが分かること
・その時間を超えた場合には追加で支払うこと
といった前提がそろっている必要があります。

実務の現場では、固定残業代を導入したことで安心してしまい、日々の労働時間をどう把握しているかという視点が弱くなることがあります。たとえば、勤怠の記録が形式的になっていたり、実際の残業時間をもとにした確認が十分に行われていなかったりするケースです。この状態では、想定していた残業時間を超えているかどうかを判断しにくくなります。

そして「毎月決まった額を払っているから問題はない」という感覚が広がり、追加の支払いが必要かどうかを見直す機会が後回しになりがちです。こうした運用が続くと、法令上の問題として表面化するだけでなく、現場では長時間労働が当たり前になっていることに気づきにくくなります。

こうした運用は、法令面のリスクだけでなく、職場の空気にも影響します。残業が増えても賃金が変わらない状況が続けば、「どれだけ頑張っても評価されない」という感覚につながり、従業員のモチベーション低下を招くことがあります。
また、長時間労働が常態化していることに気づきにくくなり、過重労働のリスクが見えにくくなる点も見過ごせません。

固定残業代は、残業時間の管理を不要にする制度ではありません。むしろ、実際の労働時間を把握したうえで初めて、制度として成立する仕組みだといえます。労使双方の認識にズレがあるまま運用されると、今回のように労務リスクとして表面化する可能性が高まります。

この事例から確認しておきたいのは、固定残業代を採用しているかどうかではなく、その制度が、実際の働き方や労働時間の実態と結びついた形で運用されているかという点です。いまの運用が、労働時間と賃金の関係を説明できる状態になっているかどうか。その確認が、労働時間管理を考える上での基本になるように思われます。

執筆者

日隈 久美子

東京都

とどろき社会保険労務士法人
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