社内通貨(コイン制度)をどう使うか―助け合いを続ける職場づくりの視点|社労士 矢萩大輔の視点
社内通貨(コイン制度)を用いた部署間連携の仕組み
この記事への視点を提供する社労士
- 社会保険労務士 矢萩 大輔 (有限会社 人事・労務/東京都台東区)
ここでは、部署間で業務を受発注し、報酬を社内通貨(コイン)として扱う制度について取り上げます。まずは、以下の引用記事で制度の概要をご確認ください。
社内業務委託 繁閑差利用し他部署をヘルプ――タカミヤ
足場の開発・販売・レンタルなどの事業を営む㈱タカミヤ(髙宮一雅代表取締役会長兼社長)は、地域的・季節的要因から生じる部署間の繁閑差に対応するため、互いに業務を受発注し、報酬として賞与に上乗せ支給を行う「コイン制度」に取り組んでいる。利用範囲は顧客対応などのルーティン業務に留まらず、他部署が韓国語への翻訳やプロモーション動画の制作を支援した実績も…。社内システム上で“個人の特技”をデータベース化して保有スキルの有効活用を図り、業務の効率化を実現している。
記事提供:労働新聞社
- 記事提供企業 -
では、このコイン制度を、単なる人手調整の仕組みとしてではなく、職場の関係性という観点から見たとき、どのような点に目を向けるべきでしょうか。社労士の立場から、制度の有効性を踏まえつつ、助け合いを「続くもの」にするための視点を整理します。
社内通貨(コイン制度)をどう使うか―助け合いを続けるための視点
部署間の繁閑差に対応するため、業務を受発注という形に置き換え、報酬を社内通貨としてのコインと扱い、賞与に反映する。この記事で紹介されている制度は、応援を法定通貨(円)では換算しにくい文化の仕組みに乗せ、実務として成立させている点で、非常に実利的でよく整理された取組みだといえます。顧客対応などのルーティン業務に加え、翻訳や動画制作といった特技を活かした支援にも広がっていることから、繁忙・閑散をならしながら、組織に人の手を柔軟に行き来させる工夫として機能している様子がうかがえます。
実務の視点で見ると、この制度の強みは、応援を善意に委ねず、秩序の中に余白をつくり構造として回している点にあります。忙しい部署は頼みやすく、余力のある部署は力を出しやすい。さらに、その貢献が賞与という形で一定の区切りを持って返ってくることで、助け合いが一過性で終わりにくく、循環する仕組みができています。繁閑差を抱える組織にとって、現実的で効果的な流れを生み出し、組織を機械的に見るのではなく、血が通う生命的なエネルギーが流れる場への変容を促します。
一方で、社内通貨という仕組みを用いる上で、目を向けておきたいのが、やり取りの「中身」が職場の中でどう扱われているかです。
地域通貨が、換金性よりも、地域の中での助け合いや関係性の循環を大切にしてきたように、社内での業務の受発注についても、結果だけでなく、その過程に目が向く状態の流れが促進されるかどうかで、制度が単なる仕組みとして使われるのか、助け合いを支える土台として機能するのかが分かれてきます。
この点で重要なのは、やり取りされた支援を点数や成果として測られるようにするのではなく、どんな助け方が役に立ったのか、どこに工夫があったのかが、定期的に対話を促すきっかけとなるかどうかです。
たとえば、月ごとにやり取りを振り返り、「あの支援は助かった」「この関わり方が効いた」と共有する場があるだけで、支援はその場限りの応援ではなく、次に活かされる経験として残っていきます。数値だけを見て終わらせず、やり取りの中身に目を向けることで、助け合いは取引色を強め過ぎることなく、互いに返し合う関係として職場の文化となり、まわり続けていきます。
社内システムによる「文化」の見える化は、こうした関係を実務の中で支える土台になります。誰が何をできるのかが分かることで、支援は偶然ではなく、必要に応じて生まれる。社内通貨は、振り返りや共有と組み合わさったときに、単なる報酬の仕組みを超え、社会関係資本、心理的資本という金銭的資本を越えた助け合いの文化を育んでいく土台になります。支援が数字だけで終わっていないか、助け合いの経験として職場に残っているかを丁寧に見ていくことが、制度を考えるうえでの重要な視点になるでしょう。
