人事制度改定で職能給を廃止する判断は妥当か―等級別定額制への移行と運用の難しさ|社労士 村松貴通の視点
職能給廃止と等級別定額制の導入で確認しておきたい運用上の論点
この記事への視点を提供する社労士
- 社会保険労務士 村松 貴通 (社会保険労務士法人村松事務所/静岡県浜松市浜名区)
以下に紹介するのは、定期昇給を廃止して、等級別定額制へと移行する企業の報道です。まずは記事をご確認ください。
職能給 定昇廃止し等級別定額――清水建設・4月に制度改定
清水建設㈱(東京都中央区、新村達也取締役社長)は今年4月の人事制度改定で、標準評価を取っていれば毎年職能給が上がっていく仕組み(定期昇給)を廃止し、役割給と同じ等級別定額制に改める。年功序列からの脱却を図るとともに、昇格への意欲を高める狙いだ。併せて、基本給に占める役割給の割合を職能給より高め、洗替え式の評価給を新設。ポスト不足によって本人の能力にふさわしい役割を会社が用意できなかった場合でも、成果を発揮することで報酬を上げられるようにする。
記事提供:労働新聞社
- 記事提供企業 -
賃金制度の見直しは、単なる給与テーブルの変更ではなく、組織として何を評価し、どのように処遇へ結びつけるかという考え方の転換でもあります。今回の改定も、その点を踏まえて読み解く必要があります。
等級別定額制への移行が映し出す制度設計と運用の距離
この記事からは、定期昇給を前提に能力の蓄積を反映してきた職能給から、役割や成果をより直接的に処遇へ反映させる体系へと軸足を移そうとする動きがうかがえます。昇格や成果と報酬との連動を強めることで、年功的な上昇カーブを見直そうとする意図も読み取れます。
そのうえで考えておきたいのは、職能と役割を実務上どのように切り分けるのかという点です。能力の伸長を評価するのか、担っているポストや責任の大きさを評価するのか。評価面談や査定の場面で両者の基準が交錯すると、等級の意味づけが揺らぎやすくなります。
たとえば、役割が変わらない中で成果のみが強調される場合、従来の職能給との違いを管理職が言葉で説明できなければ、社員側には処遇決定の根拠が見えにくくなります。制度の設計意図が共有されないままでは、「何を目指せばよいのか」が曖昧になり、納得感を損なう可能性もあります。
また、ポスト不足の状況でも成果によって報酬を上げられる仕組みは、機会を広げる側面を持ちます。一方で、同じ部署内で役職に就いている者とそうでない者が近い水準で評価される場合や、横断的なプロジェクトでの貢献をどう扱うかなど、上下・部門間の関係性に微妙な影響を及ぼすことも考えられます。評価の透明性が十分でなければ、比較や推測が先行しやすくなります。
こうした点を踏まえると、新たな賃金体系が形として整っていても、日々の評価面談や昇格判断の場面で旧来の感覚が残れば、運用は徐々にずれていきます。そのずれが積み重なると、制度は存在していても、実際の判断は属人的になるという事態も起こり得ます。
人事制度改定は、一度決めて終わるものではありません。運用を通じて課題を把握し、評価基準や説明の仕方を調整していくことが現実的です。その際、自社は何を重視して職能給を廃止し、等級別定額制へ移行したのかを、評価面談や昇格審議の場面で具体的に確認できているか。そこに立ち返り続けられるかどうかが、制度を機能させる分かれ目になるといえそうです。

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