高卒初任給引き上げと賃金制度のリスク|社労士 村松 貴通の視点
高卒採用強化の施策が、評価・昇進制度の運用に及ぼす影響を確認する
この記事への視点を提供する社労士
- 社会保険労務士 村松貴通(社会保険労務士法人村松事務所/静岡県浜松市浜名区)
この記事を読んで分かること
- 高卒初任給の引き上げが採用戦略だけでなく昇給・昇格制度の設計判断にどう影響するかが分かる
- 大卒と高卒の初任給差を縮めた場合に生じやすい社内の納得感の揺れと人材定着への影響を整理できる
- 賃金改定を単発施策で終わらせず評価制度や昇進制度まで含めて考える必要性に気づける
採用面接や初任給の提示は、企業の採用戦略や人材確保の姿勢が最も表れる場面の一つです。とくに近年は高卒初任給の水準が採用競争に影響するケースも増えています。
まずは、浜松銘菓「うなぎパイ」で知られる春華堂が打ち出した高卒初任給22万円超の方針を取り上げた記事を見ていきます。
製造・販売職 地元採用強化へ高卒22万円超
浜松銘菓の「うなぎパイ」を製造・販売する㈲春華堂(静岡県浜松市、山崎貴裕代表取締役社長)は、2027年4月入社の高卒初任給を3万5100円引き上げ、22万5100円とする。同じく店舗・工場勤務が主となる大卒一般職の初任給は1万5000円アップの23万5000円とし、高卒との差を9900円まで縮める。大学進学で地元を離れてしまうとそのまま戻らないケースが多いことを踏まえ、高卒の地元採用を強化する。地元拠点のパート時給も一律100円アップする。
記事提供:労働新聞社
- 記事提供企業 -
今回の記事では、高卒初任給を22万円台まで引き上げ、大卒初任給との差を1万円未満に縮めた点が注目されています。高卒採用の強化という狙いがある一方で、初任給の水準は昇給や評価制度とも密接に関わります。
この賃金設定が企業の人材マネジメントにどのような意味を持つのか、実務の観点から整理してみます。
初任給引き上げを採用施策で終わらせないための賃金制度の視点
浜松市の菓子メーカー春華堂が、高卒初任給を22万円台へ引き上げたというニュースは、採用競争の強まりを象徴する動きともいえます。とくに大卒との初任給差を1万円未満まで縮めた点は、単なる賃金改定というより、地元での人材確保を意識した採用戦略として見ることができます。
こうした施策を見ると、企業としての思い切った判断や心意気が感じられる場面でもあります。ただ、初任給の差を縮める判断は、入社後の昇給や評価の運用にも影響するため、採用時の給与水準だけで制度の全体像を判断することは難しい面があります。
一般に、学歴による初任給差を縮める施策は、若年層の採用では一定の効果を持つと考えられます。一方で企業の賃金制度では、入社後の評価や昇進の考え方がその後の処遇を左右します。もし昇進や昇格の仕組みが従来のままであれば、初任給の差は縮まっても、その後のキャリアや処遇の差が残る可能性があります。
さらに実務では、賃金制度の変更は別の場面にも影響を及ぼします。たとえば、大卒社員がこれまで前提としてきた給与差が変わることで、社内の納得感や評価の受け止め方に変化が生じる場合があります。採用段階の賃金設定が、面談や評価の場面での期待や不満に結びつくこともあり、制度運用の難しさが表れやすい部分です。
このように見ると、初任給の引き上げは採用施策としては分かりやすい一方で、賃金制度全体の整合性が問われる取り組みでもあります。評価制度や昇進の仕組みとどのように接続させるかを整理しておかないと、制度の意図が社内で十分に伝わらない可能性もあります。
その意味では、初任給の水準だけでなく、評価や昇進の仕組みまで含めて賃金制度を考える視点が重要になってきます。さらに経営としては、賃金だけを個別に動かすのではなく、採用、人材育成、定着までを含めた全体の流れの中で位置づけて考えることが大切です。採用のための給与改定が、その後の人材育成や処遇とどのようにつながっていくのか。企業としてどの前提で制度を設計しているのかを説明できる状態になっているかが、改めて確認される場面といえるかもしれません。

御社の成長フェーズに合わせてベストな労務支援をしております。
村松事務所では、事務手続きからコンサルティングまで、企業の維持・拡大に必要な人事労務を支援する多彩なサービスをご用意。課題解決フェーズ、成長・拡大フェーズなど、御社のフェーズに合わせて最適なサービスのご提供が可能です。
いつでも御社の一番の理解者・パートナーとして事業をサポートさせていただきます。