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更新日:2026 / 02 / 26
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労災かくしと虚偽報告が招く企業リスク|社労士 立川久代の視点

労災かくしはなぜ労働者と役員双方の送検に至るのか―報告義務違反と組織のコンプライアンスを確認する

この記事への視点を提供する社労士

    社会保険労務士 立川 久代 (社会保険労務士法人アクア事務所t/千葉県木更津市)

以下は、労働安全衛生法違反の疑いで送検された事案です。まずは事実関係を確認し、その後に企業実務の視点から論点を整理します。

労災かくし 教唆した労働者を送検――関労基署

岐阜・関労働基準監督署(脚ノ勝署長)は、自身が被災し4日以上の休業を要した労働災害について、発生場所を偽るよう教唆したとして、電気通信工事業の㈱福電事業(岐阜県美濃加茂市)の労働者を労働安全衛生法第100条(報告等)など違反の疑いで岐阜地検御嵩支部に書類送検した。同労働者が上司の専務取締役にねつ造を依頼しなければ虚偽報告はなかったと結論付け、立件に踏み切っている。同労働者に労働者死傷病報告の提出権限はなかった。実行行為者の専務取締役と、同社も送検している。

記事提供:労働新聞社

- 記事提供企業 -

この事案は、安全衛生の問題であると同時に、企業のコンプライアンス体制が問われた出来事ともいえます。事故そのものよりも、その後の報告対応が企業リスクを拡大させた点に注目する必要があります。

権限の有無を超えて広がるコンプライアンス責任

労災かくしは、事故を報告しない場合だけでなく、発生状況や内容を偽る虚偽報告も含みます。
労働安全衛生法第100条は、休業4日以上の労働災害について会社に報告義務を課しており、虚偽報告は同法第120条により50万円以下の罰金の対象となり得ます。悪質と判断されれば書類送検に至ります。

今回の特徴は、報告提出の権限を持たない労働者が教唆したとされ、そのうえで専務取締役が虚偽報告に関与し、法人とともに送検されている点です。形式的な役割分担があっても、違法な判断に関与すれば個人も責任を問われるという構図が浮き彫りになっています。

これは、コンプライアンスが「担当者任せ」では成立しないことを示しています。最終的な報告主体は会社であり、役員が関与した以上、その判断は組織の意思として扱われます。

実務の現場では、親会社や取引先に迷惑をかけたくないという思いが働くことがあります。事故件数が評価や受注に影響する環境であれば、影響を小さく見せたいという判断が生まれることも否定できません。しかし、ここに制度と運用の乖離が生じます。

本来は、事故の事実を正確に報告し、再発防止につなげることが法令の趣旨です。それにもかかわらず、対外的な影響を優先する判断がなされれば、コンプライアンスの軸がずれます。
今回、専務取締役が納得のうえで虚偽報告に関与したとされる点は、個人の逸脱というよりも、組織の価値観が反映された結果とも読めます。

労災報告は、安全対策の出発点です。発生状況が正確でなければ、原因分析も再発防止策も実効性を持ちません。虚偽報告は、法令違反という側面だけでなく、安全管理の基礎情報をゆがめる行為です。その結果、現場の危険が十分に共有されず、同様の事故が再発する可能性も残ります。

短期的な不利益を避けるための判断が、結果として刑事責任や信用低下という形で企業リスクを拡大させる可能性があります。この構図は、コンプライアンスが単なる規程遵守ではなく、日々の判断の積み重ねであることを示しています。労働者と役員の双方が送検されたという事実は、事故対応が立場や肩書きで切り分けられるものではないことを物語っています。

自社では、「会社のため」という言葉が、法令よりも上位に置かれていないか。その点を確認することが、労災かくしを防ぐうえでの出発点になるのではないでしょうか。

執筆者

立川 久代

千葉県

社会保険労務士法人アクア事務所t
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