介護事業場の就業規則未届リスクをどう見るか|社労士 三井 敏彦の視点
立ち上げ期に見落としやすい労務管理と運用判断のずれ
この記事への視点を提供する社労士
- 社会保険労務士 三井敏彦 (社会保険労務士 山田事務所/石川県金沢市)
この記事を読んで分かること
- 就業規則の未整備が、介護事業場の法令順守だけでなく事業継続の判断に響く理由が分かる
- 有給休暇や慶弔休暇の扱いが曖昧だと、現場の説明や承認判断で迷いが生じる点を整理できる
- 10人未満の事業場でも労務ルールを言葉にすることが、退職防止にどうつながるかが見えてくる
今回取り上げるのは、神奈川労働局が新設の介護事業場に対して実施した自主点検結果に関する報道です。現場の多忙さの裏側で、就業規則の作成・届出といった法令対応がどの程度追いついていない可能性があるのかが読み取れます。まずは引用記事をご覧ください。
新規介護事業場 2割が就業規則未届の疑い
神奈川労働局(児屋野文男局長)が取りまとめた新設の介護事業場に対する自主点検結果によると、就業規則の作成および届出義務が生じる常時10人以上規模の事業場のうち、約2割に行っていない疑いがあることが明らかになった。同労働局は、新規の介護事業場では自治体への対応に追われ、労務管理まで手が回っていない可能性を危惧する。法令遵守に向け、このほど県内の自治体や業界団体12者に対し、文書要請を行っている。
記事提供:労働新聞社
- 記事提供企業 -
就業規則は、職場のルールを決める文書であると同時に、常時10人以上の事業場では作成・届出が求められるものです。新規の介護事業場の場合、自治体対応や現場立ち上げに追われる一方で、労務コンプライアンスの整備が後手に回りやすい面があります。ここからは、就業規則が整わないことで現場で何が起きやすいのか、どこに判断の難しさが出るのかを整理します。
就業規則未届を、立ち上げ期の運用リスクとして見る
新規の介護事業場で就業規則の未届が疑われる、という記事は、現場感としては「手続きが追いついていない」「届出まで手が回っていない」出来事として受け止められがちです。
けれども、介護は行政から指定を受け、介護報酬を得てサービスを提供する事業であり、労働法令の違反が事業運営の信用や継続性に影響し得る点を、まず押さえておきたいところです。
この記事から読み取れるのは、現場が忙しいほど「後で整えるつもり」が積み重なり、結果として届出にたどり着かない構図です。採用、利用者受け入れ、記録、家族対応など、目の前の運用が優先されるのは自然です。一方で就業規則が不在、または未整備の状態だと、日々の小さな例外対応が積もったときに、職場の空気が荒れやすくなります。
たとえば有給休暇の申請時期ひとつを取っても、「あの人は事後でも承認されたのに」という感覚が残ると、説明の根拠が揺らぎます。慶弔休暇や休職の有無も同じで、制度そのものより「誰にどう適用したか」が記憶に残り、言った言わないの衝突に近づきます。休暇や休職の扱いに共通ルールが見えないと、管理職の承認判断や面談での説明が難しくなり、不公平感が職場に残りやすくなります。介護現場では少人数で回していることも多く、ひとりの退職や関係悪化が、そのままシフトやサービス提供に響くことがあるため、火種が大きくなりやすい面があります。
また、ハラスメント対応は「方針」と「窓口」が整っていないほど、相談が出たときに初動が属人的になります。職員間の言動だけでなく、利用者や家族からの怒声・威圧的な言動があった場合も、どの段階で組織として対応に切り替えるか、現場だけでは判断が揺れやすくなります。何を問題として扱い、誰が受け止め、どこまで記録し共有するのか。ここが曖昧だと、現場は消耗し、離職につながる誤解も生まれます。
では、どこから向き合うか。常時10人以上であれば、就業規則の作成と届出を前提に、外部専門家の力も借りながら、まずは「基準を言葉にする」ことが近道になりやすいといえます。9人以下であっても、休暇、服務、相談の入口など揉めやすい点から簡易ルールを置いておくことが、退職防止と現場の納得感の下支えになります。
就業規則は、作った瞬間に現場が静かになるものではありません。それでも、忙しさの中で例外が続くときほど、あとから振り返れる形で判断基準を残しているかどうかが、事業の継続性を支える要素になっていくように思われます。

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