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更新日:2026 / 05 / 18
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研修費用返還で確認したい労基法16条と業務性の判断|社労士 村松 貴通の視点

会社負担の研修費用を、人材育成と自己研鑽の間でどう捉えるか

この記事への視点を提供する社労士

    社会保険労務士 村松貴通(社会保険労務士法人村松事務所/静岡県浜松市浜名区)

この記事を読んで分かること

  • 研修費用返還と労基法16条の関係を整理できる
  • 業務に直結しない研修を、業務性の判断でどう捉えるかが見えてくる
  • 就業規則や誓約書を整える際に、会社が確認すべき前提が分かる

会社が従業員の留学や研修費用を負担すること自体は、人材育成の一つの形です。
一方で、その費用について返還規定を設ける場合には、労基法16条の趣旨や「業務性」の捉え方との関係を確認する必要があります。
以下では、「労基法16条における業務性判断」に関する記事ハイライトを紹介します。

「労基法16条における業務性判断」山田省三中央大学名誉教授(弁護士)
(『労働法律旬報』2026年5月上旬号(2103号)巻頭言 ハイライト)

本稿は、使用者が労働契約の不履行に対して違約金や損害賠償を定めることを禁じた労働基準法16条について、とくに海外留学費用の返還規定をめぐる「業務性」の判断基準を考察しています。
従来の裁判例では、留学が「業務」に該当しなければ返還規定は同条に違反しないとされる傾向にあります。しかし山田教授は、留学が労働者の自由意思にもとづき、MBA取得や人脈形成など個人に資する側面が強いとしても、企業の将来を担う人材育成という側面を考慮すれば「業務性」を狭く解することに疑問を呈しています。
労働者の退職の自由や経済的安定を守るという同条の趣旨に立ち返り、債務不存在確認訴訟とは異なる独自の意義を再考すべきだと提言しています。
記事提供:旬報社

- 記事提供企業 -

記事参照元はこちら:労働法律旬報No.2103 2026年5月上旬号

 

記事では、海外留学費用の返還規定をめぐり、「業務性」の判断基準が取り上げられています。ここでいう業務性は、研修や留学が本人のためだけの学びだったのか、会社の業務や人材育成とも結びついていたのかを考える入口になります。

研修費用返還を「業務性」の線引きから考える

会社が留学や研修費用を負担した場合、その費用負担は単なる金銭支出ではなく、従業員の成長を期待した取り組みとして位置づけられます。返還規定を設ける場合に確認したいのは、その取り組みが本人の自己研鑽としてだけ扱われるのか、会社の業務や人材育成とも結びつくものなのかという点です。

記事ハイライトでは、海外留学費用の返還規定をめぐり、留学が「業務」に当たるかどうかが整理されています。従来の裁判例では、留学が業務に該当しなければ返還規定は同条に違反しないとされる傾向がある一方、山田教授は、企業の将来を担う人材育成という側面を踏まえ、「業務性」を狭く解することに疑問を示しています。

研修費用返還を考える際、会社が費用を負担したという事実だけで結論が出るわけではありません。労基法16条との関係では、その研修や留学が労働契約上の業務とどのようにつながっていたのか、また返還の定めが労働者の退職の自由にどのような影響を及ぼすのかを確認する必要があります。

会社としては、自社で活躍してもらうことを期待して費用を負担した以上、退職する従業員に対して返還を求めたいと考えることもあるでしょう。ただ、返還を求められるかどうかは、教育投資を回収したいという気持ちだけでは決まりません。

ここで大切になるのが、教育の意味合いです。業務に直接結びつく研修でなくても、従業員の知識、視野、人脈、判断力が広がれば、結果として会社の業務に役立つことがあります。本人の自己研鑽の側面があるからといって、会社の人材育成としての意味合いが直ちに消えるわけではありません。

認識のずれが生じやすいのは、会社が「本業に直結しない研修なら返還を求めやすい」と考える一方で、従業員は当初、会社の業務に活かすつもりで学び始めていることがある点です。その後、身につけたスキルやノウハウをもとに転職や起業を考えることがあっても、それだけで受講時の意図を単純に否定できるものではありません。

もちろん、従業員が初めから会社を欺くつもりで研修を受けていたような事情があれば、会社として断固たる対応を検討することもあるでしょう。ただ、多くの場合、受講時には会社も本人も、その学びを業務に活かすことを前提にしています。

こうした受講時の位置づけを後から確認できるようにするには、就業規則や誓約書を整える際に、返還条項の文言だけでなく、その研修を会社がどのような育成機会と捉えていたかを確認しておくことが大切です。受講前に何を説明し、本人がどの前提で同意し、会社がどのような業務上の活用を期待していたのかが曖昧なままだと、業務性の線引きも不安定になります。

社員教育は、会社の成長に必要な取り組みです。本業に直結する研修だけでなく、周辺的な学びから従業員が成長することもあります。そのような人材を育成できたことは、会社にとって誇ってよい成果でもあります。

研修費用の返還を求める可能性がある制度では、返還条項を整えるだけでなく、その教育を会社としてどう位置づけていたのかを後から確認できることが大切です。受講前の説明や、会社が期待していた業務上の活用まで含めて整理されているかが、業務性を考えるうえでの大きな手がかりになります。

執筆者

村松 貴通

静岡県

社会保険労務士法人村松事務所
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