労働者派遣の許可更新で資産要件が不足したら?期限内申請につなげた事例|社労士 大河 健二の解決事例
<編集協力:社労士ナビ編集部>
解決した社労士
- 社会保険労務士 大河 健二 氏(大河社会保険労務士事務所/岡山県岡山市)
※本記事は、実際の対応事例をもとに、企業等が特定されないよう一部内容を調整しています。
この記事を読んで分かること
- 労働者派遣事業の許可更新で確認される資産要件
- 直近の年度決算で要件を満たさない場合の対応方法
- 更新期限に間に合わせるための準備時期と専門家の連携方法
直近決算で資産要件が不足しても、更新できないとは限らない
労働者派遣事業の許可更新では、直近の決算で資産要件を満たしていなくても、直ちに更新できないと決まるわけではありません。
まずは、不足している要件と申請期限を確認し、更新に向けて利用できる資料や対応方法を早めに整理することが重要です。
本事例では、月次決算書と監査証明を準備し、労働局と事前調整を進めることで、期限内の申請につなげました。
対象企業の情報
- 所在都道府県:岡山県
- 業種:建設業
- 従業員規模:10名
- 組織の特徴:建設業であるが、顧客の要望で労働者派遣許可を取得
労働者派遣事業の更新で確認される資産要件
労働者派遣事業の許可更新では、最近の事業年度の決算書類をもとに、事業を安定的に継続できる財産的基礎があるか審査されます。
通常の資産要件は、1事業所の場合、次の3点をすべて満たすことです。
- 基準資産額が2,000万円以上
- 基準資産額が負債総額の7分の1以上
- 自己名義の現金・預金額が1,500万円以上
基準資産額は、総資産額から繰延資産、営業権・のれん、負債総額を差し引いて計算します。事業所が複数ある場合は、基準額に事業所数を乗じて判断されます。
決算後に現金・預金の不足が判明
岡山県で建設業を営むこの企業は、顧客からの要望を受けて労働者派遣事業の許可を取得していました。
あるとき、行政から許可更新の案内が届き、申請に必要な書類を確認したところ、直近の決算書上、現金・預金額が資産要件を満たしていないことが分かりました。背景には、許可更新の時期と資産要件が、経営陣、顧問税理士、顧問社労士の間で十分に共有されていなかったことがありました。
また、資材不足への対応として、決算期末の直前に資材を先行して仕入れていたため、一時的に現金が大きく減少していました。通常の事業運営上は必要な支出でしたが、労働者派遣事業の許可更新に必要な現金・預金額までは考慮できていませんでした。
企業は、銀行融資を受けて預金残高を増やすことも検討しました。しかし、借入れをすると現金・預金だけでなく負債も増えるため、基準資産額や負債総額との割合を含めて問題がないのか、社内では判断できない状態でした。インターネットで調べると「監査証明が必要」といった情報も見つかりましたが、誰に依頼し、どのような決算書を作成し、どの順番で手続きを進めればよいのかが分からず、私へ相談が寄せられました。
まず三つの資産要件と申請期限を確認
私が最初に確認したのは、許可の有効期限と更新申請の期限、直近の貸借対照表、現金・預金額、負債総額、基準資産額でした。現金・預金額だけが不足しているように見えても、資金をどのような方法で確保するかによって、負債総額との関係や基準資産額も変わります。そのため、一つの数値だけでなく、三つの資産要件をまとめて再計算することが必要でした。
あわせて、直近の年度決算で資産要件を満たせない場合に、中間決算書または月次決算書による再審査が可能かを確認しました。厚生労働省の手続マニュアルでは、資産額や現金・預金額の増加を申し立てる場合、公認会計士または監査法人による監査証明を受けた中間決算書・月次決算書のほか、許可更新では合意された手続業務を実施した決算書を用いる方法が示されています。
月次決算と監査証明を軸に関係者が連携
私は企業に対し、資金面を整えた後の月次決算書について、次の二つの方法が考えられることを説明しました。
一つは、公認会計士または監査法人による監査証明を受ける方法です。
もう一つは、許可更新の場合に利用できる、公認会計士または監査法人によるAUPの実施結果報告書を添付する方法です。
いずれの場合も、単に預金残高証明書を提出するだけではなく、資産と負債の状況を反映した中間決算書または月次決算書を作成し、その内容について専門家の確認を受ける必要があります。
そこで私は、労働者派遣事業の監査証明やAUPに対応した実績のある公認会計士と連携しました。同時に、都道府県労働局の需給調整担当部署へ事前相談を行い、監査証明以外の申請書類を先に確認してもらうとともに、月次決算書と監査証明を提出できる予定時期を伝えました。
労働局への事前確認と公認会計士への依頼を並行して進めたことにより、監査証明の完成を待ってから他の書類を準備するのではなく、限られた期間を有効に使うことができました。
申請期限内に更新書類を提出
公認会計士との連携により、資産状況を反映した月次決算書に対する監査証明が発行されました。労働局とは事前に申請書類や提出スケジュールを調整していたため、監査証明が完成した後、速やかに必要書類をそろえ、許可更新の申請期限内に提出することができました。
また、今回の対応を一時的な手続で終わらせず、次回以降の5年ごとの更新に備え、経営陣、税理士、社労士が更新時期と資産状況を確認する体制を設けました。今後は、決算前に資産要件への影響を確認し、仕入れや設備投資、借入れなどの判断を行うこととしています。
社労士が考える三つの実務ポイント
1.更新期限だけでなく、決算時期から逆算する
労働者派遣事業の新規許可の有効期間は3年で、最初の更新後は5年ごとの更新となります。更新申請は、有効期間満了日の3か月前までに行う必要があります。ただし、資産要件に不足がある場合は、資金面の調整、月次決算書の作成、公認会計士による監査などが必要になります。法定期限の直前から動くのではなく、少なくとも4か月前を目安に準備を始めることが重要です。
2.預金残高だけを見て判断しない
現金・預金額が不足している場合、銀行から借り入れれば解決できるように見えることがあります。しかし、借入れによって負債も増えるため、基準資産額が負債総額の7分の1以上という要件を含め、三つの要件を再計算しなければなりません。資金調達の方法を決める前に、税理士や公認会計士と数値を確認する必要があります。
3.許可更新の時期を専門家間で共有する
税理士は決算や税務申告、社労士は派遣事業の許可や労務管理など、それぞれ異なる立場から企業を支援しています。一方の専門家だけが更新時期や資産要件を把握していても、決算前の資金判断に反映されない場合があります。経営陣、税理士、社労士が更新時期と必要な要件を共有する仕組みを設けておくことが、直前の資産不足を防ぐうえで有効です。
よくある質問
直近の決算書で資産要件を満たさないと、許可更新はできませんか?
直近の年度決算で要件を満たしていないだけで、直ちに更新できないと決まるわけではありません。資産状況を整えたうえで、公認会計士または監査法人による監査証明を受けた中間決算書・月次決算書を提出し、改めて審査を受ける方法があります。
許可更新の場合は、AUPによる実施結果報告書を利用できる場合もあります。具体的な提出書類や進め方は、管轄の労働局へ事前に確認する必要があります。
銀行融資で現金・預金を増やせば資産要件を満たせますか?
融資だけで三つの資産要件をすべて満たせるとは限りません。借入れによって現金・預金は増えますが、同時に負債総額も増えます。基準資産額や負債総額との割合への影響を計算したうえで、資金調達方法を判断する必要があります。
まとめ:許可更新は決算前から準備する
今回の事例では、資産要件の不足そのものに加え、許可の更新時期と必要な資産要件が、経営陣、税理士、社労士の間で十分に共有されていなかったことが、対応を難しくした要因でした。
申請期限が近づいてから不足が分かると、資金面の調整だけでなく、月次決算書の作成や監査証明の取得も短期間で進めなければなりません。
労働者派遣事業の許可を持つ企業は、許可期限だけを見るのではなく、決算前の段階で資産要件と今後の支出予定を確認し、関係する専門家と情報を共有しておくことが重要です。
早めに状況を把握できれば、要件不足が判明した場合にも、利用できる手続を検討し、必要な準備を進める時間を確保しやすくなります。
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