工場閉鎖で従業員対応をどう進める?受注履行と再就職支援を両立した事例|社労士 岸本 貴久の解決事例
<編集協力:社労士ナビ編集部>
解決した社労士
- 社会保険労務士 岸本 貴久 氏(BSP社会保険労務士法人/東京都千代田区)
※本記事は、実際の対応事例をもとに、企業等が特定されないよう一部内容を調整しています。
この記事を読んで分かること
- 工場閉鎖に伴う多数の離職で、雇用への対応と事業運営をどのように整理するか
- 従業員の再就職を支援する際に、企業が考えておきたい実務上の視点
- 閉鎖までの業務と従業員対応を並行して進めるための考え方
工場閉鎖では、従業員対応と残る業務を一体で整理する
工場閉鎖に伴って多数の従業員が離職する場合、解雇などの手続きだけを進めればよいとは限りません。閉鎖までに残っている業務、従業員への説明、再就職の可能性など、複数の課題を同時に考える必要があります。
特に、取引先への納品など期限のある業務が残っている場合には、従業員が一斉に離職すると事業の遂行そのものに影響しかねません。一方、再就職先が限られる地域では、従業員の今後の生活にも十分な配慮が必要です。
そのため、法的な手続き、閉鎖までの業務運営、従業員への対応を切り分けず、全体のスケジュールと人員配置を見ながら進めることが重要です。
対象企業の情報
- 所在都道府県:福島県
- 業種:製造業(大手メーカー下請け)
- 従業員規模:約80名
- 組織の特徴:地方に根差した工場で、長年勤続の工員が多い。再就職先が限られる地域で、地域企業同士のつながりが強い。
約80名の雇用と、閉鎖までの受注業務をどう両立するか
相談を受けたのは、福島県で大手メーカーの下請けとして操業していた工場です。工場を閉鎖することになり、約80名の工員の雇用をどのように考えるべきかという大きな課題を抱えていました。
地域には再就職先が多くありません。長年勤めてきた工員も多かったため、会社には「従業員を放り出すような形にはしたくない」という強い思いがありました。
同時に、大手メーカーから受けていた仕事を最後まで履行する必要もありました。納期の遅れは許されず、受注業務を完了できなければ債務不履行につながるリスクもあります。工場閉鎖が急に決まったなかで、受注業務を続けながら段階的に人員を減らし、さらに解雇に関する対応と再就職支援を並行して進めなければならない状況でした。
社長は工場閉鎖が決まった後、自ら再就職先を探し始めていました。ただ、地域の企業からどこまで協力を得られるかは分かりません。従業員への説明会を開くべきか迷い、説明によって反発が生じたり、予定より早く従業員が離れて受注業務が止まったりすることへの懸念もありました。
また、どの順番で従業員を送り出せば業務への影響を抑えられるのか判断できず、解雇に関する手続きや書面の整備にも不安が残っていました。対応が現場任せになったことで工員の不安も高まり、社長自身も精神的に追い詰められていました。
会社だけで、雇用、再就職、受注業務、手続きのすべてを同時に整理することが難しくなり、相談に至ったのです。
まず閉鎖時期と納期を照らし合わせ、対応の土台を整理
この事例で最初に必要だったのは、従業員をいつ退職させるかだけを考えることではありませんでした。工場の閉鎖スケジュールと、残っている受注業務の納期を照らし合わせることから始めました。
受注業務を最後まで履行するには、閉鎖までの各段階で一定の人員が必要です。その一方で、再就職の機会を確保するには、従業員を送り出す時期についても考えなければなりません。業務上必要な人員と、従業員の退職・再就職の時期を同じ時間軸で捉えることが、対応を組み立てる前提になりました。
あわせて、解雇に関する手続きについて法的な要件を整理し、従業員への説明、個別面談、書面交付をどのような流れで行うかも確認しました。
さらに、再就職先が限られる地域であることも重要な判断材料でした。社内の手続きだけで完結させるのではなく、地域企業とのつながりを生かしながら再就職支援を進める必要がありました。
受注業務、従業員への説明、再就職支援を並行して進めた
閉鎖までの業務に合わせて段階的な人員計画を作成
まず、工場閉鎖のスケジュールと大手メーカーから受けている仕事の納期を照合し、段階的に人員を減らしていく計画を作成しました。
単に退職時期を決めるのではなく、受注業務の進捗を見ながら人員配置を調整します。必要な業務を完了する前に人員が不足すれば納期に影響する一方、すべての従業員を閉鎖直前まで残すことが、再就職の面で適切とは限りません。
そこで、受注業務の進捗と人員配置を連動させ、納品を続けながら順次従業員を送り出せる体制を整えました。
説明会・個別面談・書面交付の流れを整備
次に、解雇に関する手続きを整理するとともに、説明会、個別面談、書面交付までの流れを整えました。
工場閉鎖が決まった状況では、従業員にとって「いつまで働くのか」「その後はどうなるのか」が分からないこと自体が大きな不安につながります。そのため、退職までの働き方と、その後の再就職までの流れについて丁寧に説明しました。
手続きを整えることだけでなく、会社がどのように考え、どのような順序で対応するのかを従業員に伝えることも重視しました。従業員の協力を得ながら残る業務を完了するためにも、誠実な説明を重ねる必要があったからです。
地域企業と連携し、再就職先の確保を支援
再就職支援については、会社だけで探すのではなく、企業側と協力会社で進め方を共有し、受け入れ先となる企業の確保を支援しました。
この地域では再就職先そのものが限られていました。そのため、地域企業同士のつながりを生かしながら、従業員が次の職場へ移れる環境を整えていきました。
こうした再就職支援も、工場閉鎖とは別の取り組みとして進めたわけではありません。受注業務の進捗や人員配置を見ながら、従業員が順番に次の職場へ移れるよう全体を調整していきました。
納品を完了し、全員が新たな職場へ移行
一連の対応によって、大手メーカーから受けていた仕事はすべて期限内に納品することができました。これにより、債務不履行による損害賠償も回避できました。
同時に、工員は受注業務の進捗に応じて順番に再就職先へ移っていき、最終的には全員が新しい職場へ移行することができました。
解雇をめぐるトラブルも発生せず、工場閉鎖までの対応を円満に終えることができました。また、社長が従業員に対して誠実に向き合い、工員も残る業務に協力したことで、地域企業との関係も強まりました。
工場閉鎖時の従業員対応で押さえておきたい実務ポイント
「解雇手続き」だけの問題として考えない
工場閉鎖では、従業員の退職に関する手続きが大きな論点になります。ただし、今回のように閉鎖まで受注業務が残っていたり、地域的に再就職が難しかったりする場合には、それだけを切り離して考えることはできません。
受注履行、従業員の離職、再就職支援を一つの計画の中で整理する視点が必要です。
法的な対応と現場運営をスケジュールでつなぐ
法的な手続きを適切に行うことと、工場を最後まで動かすことは別々の問題に見えますが、実際には従業員がいつまで働くのかという点で密接につながっています。
閉鎖日だけを見るのではなく、残る業務の納期や進捗、人員配置、従業員への説明時期などを整理しながら、全体のスケジュールを組み立てることが重要です。
地域との連携と丁寧な説明も重要な判断要素になる
再就職先が少ない地域では、社内だけで対応を完結させるのが難しい場合があります。今回の事例では、地域企業とのつながりが従業員の再就職を支える重要な要素になりました。
また、閉鎖まで業務を続けるためには従業員の協力も欠かせません。会社が状況を誠実に説明し、一人ひとりに丁寧に対応することは、従業員との協力関係を保ちながら対応を進めるうえでも重要です。
よくある質問
工場閉鎖で従業員が離職する場合、解雇手続きだけを考えればよいですか?
手続きだけで対応が完結するとは限りません。
閉鎖まで業務が残っている場合には、その業務をどのような人員体制で終えるのかも同時に考える必要があります。また、従業員への影響が大きい場合には、説明の進め方や再就職支援なども含めて全体を整理することが重要です。
工場閉鎖まで受注業務が残っている場合、人員整理はどのように考えればよいですか?
まず、閉鎖までに完了させる業務と納期を整理し、それに必要な人員と従業員対応のスケジュールを照らし合わせることが重要です。
必要な人員や適切な進め方は、業務内容や従業員の状況などによって異なります。今回の事例では、受注業務の進捗に応じて人員配置を調整しながら、段階的に再就職先へ移れるよう対応しました。
まとめ
多数の従業員が関わる工場閉鎖では、閉鎖日や解雇に関する手続きだけではなく、残っている業務、従業員の雇用への影響、再就職の環境を早い段階から一体として整理することが重要です。
今回の事例では、工場閉鎖までの受注業務と納期を確認し、人員配置や従業員への説明、再就職支援を同じスケジュールの中で調整したことが、受注履行と従業員の次の職場への移行を両立することにつながりました。
特に、地域に再就職先が少ない場合や、閉鎖まで重要な業務が残っている場合には、「いつ閉鎖するか」だけでなく、何をいつまでに終えるのか、そのために誰がいつまで働くのか、従業員にどの段階で何を説明するのかを早めに整理しておくことが大切です。
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