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更新日:2026 / 05 / 08
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人材交流の制度運用で確認したい注意点|社労士 矢萩 大輔の視点

組織開発として人材交流を進めるときに、目的と現場運用のどこを確認するか

この記事への視点を提供する社労士

    社会保険労務士 矢萩大輔(有限会社 人事・労務/東京都台東区)

この記事を読んで分かること

  • 短期出張が育成機会の広がりにどう関わるかが分かる
  • 人材交流で持ち帰る経験を、どう仕事につなげるかが分かる
  • 交流制度を見直す際に、現場との対話で何を確認すべきかが見えてくる

拠点が複数ある企業では、拠点ごとに設備や仕事の進め方が違うため、育成の機会や身に付く経験にも差が出やすくなります。そうした差を埋めるうえで、人材交流は育成策であると同時に、組織の中で知識や経験をどう回していくかという運用にも関わります。共英製鋼の「おむすび」は、短期出張によって配転を伴わない“人材交流”を進めている事例です。

短期出張で知識・スキル共有

共英製鋼㈱(坂本尚吾代表取締役社長)は、拠点や部署の垣根を越えて交流を図る施策「おむすび」を展開している。過去に5社が合併した経緯から拠点間で設備面などに差があるなか、短期的に人材を派遣することで知識・スキルの共有を推進するもの。生産技術職は事業所採用で基本的には転勤がないところ、設備の自動制御技術を学ぶために他拠点へ出張するなど、課題解決に取り組んでいる。個人による発案も歓迎しており、スキル拡大を望む事業所拠点のIT担当者が、3カ月間、本社のシステム運営業務に従事したケースも…。若手・中堅層や転勤のない生産技術層の「見たい!知りたい!学びたい!欲求の実現」を通じて、配転を伴わない“人材交流”を加速している。
記事提供:労働新聞社

- 記事提供企業 -

 

「おむすび」のような人材交流は、短期出張や本社のシステム運営業務といった個別施策として見るだけでは足りません。転勤のない生産技術職に別拠点の経験をどう重ねるかという点には、育成と組織運営の考え方が表れます。ここでは、人材交流の仕組みそのものより、現場との対話を通じて何を共有し、どう運用につなげるかを整理します。

人材交流を現場で活かすには、目的と役割をどう共有するか

共英製鋼の事例は、短期出張による知識共有として読むことができますが、それだけではこの取組みの意味は十分に見えてきません。拠点ごとに設備や経験の蓄積が違う企業では、交流の機会を設けること自体よりも、そこで得た経験を自職場の仕事にどう戻し、ほかのメンバーにもどう広げるかまで考えておかないと、育成策としても組織の取組みとしても定着しにくいからです。

今回の記事で目を引くのは、配転を伴わずに人材交流を進めている点です。転勤を前提としない生産技術職でも、短期出張で他拠点の仕事を経験できれば、配置を変えなくても育成の幅を広げることができます。これは異動の有無だけの話ではなく、若手や中堅層にどんな経験を積んでもらうかを考える人材配置や育成の場面にも関わってきます。

もっとも、制度をつくれば自然に交流が広がるわけではありません。人事部が制度を設計しても、現場でその目的が十分に共有されていなければ、送り出せる部署とそうでない部署に分かれやすくなります。そうなると、管理職には人員調整の負担ばかりが重く感じられ、育成や連携のための施策だという意味が薄れやすくなります。

記事では個人の発案も歓迎しているとありますが、この点は運用上かなり大切です。現場で出た「見たい」「学びたい」という声を基点にすると、交流の内容が本人の希望だけでなく、拠点や部署が抱える課題とも結び付きやすくなります。そうすると、送り出す側は何を学んで戻ってきてほしいかを考えやすくなり、受け入れる側も、どの業務を経験してもらうか、誰が教えるか、どこまで任せるかを決めやすくなります。こうした擦り合わせができていると、交流後の面談や配置の場面でも、経験をどの仕事に活かすかを具体的に確認しやすくなります。

一方で、部門間の行き来がもともと少ない職場では、人材交流の制度があっても動きが広がりにくいことがあります。日常的なやり取りが少ない職場では、他部署の業務状況や人員の余裕が見えにくく、送り出した後に現場が回るのか、受け入れ先で十分に経験を積めるのかをイメージしにくいためです。また、人材交流が何のための取組みなのかが職場で十分に理解されていなければ、交流で得た経験も共有の対象として扱われにくく、本人だけの学びで止まりやすくなります。結果として、組織全体の連携を深める取組みとしては定着せず、一部の人に限られた施策として受け取られるおそれがあります。

そのため企業が最初に意識したいのは、立派な制度を先に整えることより、現場で生じている声や小さな違和感を丁寧に聴き、その内容を対話の中で確かめながら制度の目的を言葉にしていくことだといえます。現場との対話を通じて、何のための人材交流なのか、誰にどの経験を積んでもらいたいのかが整理されていけば、自社の組織や仕事の流れに合った運用に近づけやすくなります。そのうえで、制度の名前や見せ方にも少し工夫があると、社内でも話題にしやすくなり、目的や使い方も日常の中で共有されやすくなります。

短期出張という手法そのものよりも、その経験を職場の中でどう受け止め、次の仕事にどうつなげるかに目を向けると、この事例の意味はよりはっきりしてきます。人材交流を組織開発として活かせるかどうかは、制度があるかどうかだけでは決まりません。現場で上がる声を起点に、管理職や関係部署が対話を重ねながら、目的と役割を日々の運用にどう落とし込むかまで共有できているかが、実際の使われ方を分けることになるように思われます。

執筆者

矢萩 大輔

東京都

有限会社 人事・労務
私達のコンサルティング手法は、人事制度・キャリアの専門技術と30年間で出会った500社を超える社長さんやリーダーの方々の体験、そして人生の成功哲学の3つをベースに編み出した社員満足(ES)を高める弊社だけのオリジナルプログラムです。また、350社以上の導入実績を誇る人事制度・賃金制度設計ソフト「賃金士」は産学共同で開発し、企画・開発した従業員満足(ES)診断ソフト「人財士」は第34回日本経営システム学会でも発表されました。ES(従業員満足)トレーナー制度や社内ルールクリエイターなど組織活性化のための新しい施策の普及活動を目指し高く評価されています。

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