
キャリアアップ助成金とは?対象企業・支給額・申請手続きまで徹底解説【2025年最新】
キャリアアップ助成金とは、非正規雇用労働者の正社員化や処遇改善に取り組む事業主に対して助成する公的な制度です。
とくに人手不足が続く中小企業にとっては、非正規人材の定着や戦力化を進めるうえで、キャリアアップ助成金の制度を活用することは大きな支援となります。
一方で、「制度の内容が複雑でよく分からない」「申請までにどのような準備が必要か不安」と感じている企業担当者の方も少なくありません。
計画書の届出、就業規則や賃金制度の整備、申請書類の作成など、正しく制度を活用するには一定の専門知識と準備が必要です。
本記事では、キャリアアップ助成金の全体像から、2025年時点での各コースにおける企業への支給額、申請の流れ、申請時の注意点までをわかりやすく整理しています。
「自社が対象かどうか」「どのコースが利用できるか」「申請準備は何から始めればよいか」といった実務上の疑問を解消できる内容となっています。
記事を最後までお読みいただき、キャリアアップ助成金の制度活用にぜひお役立てください。
キャリアアップ助成金とは?
キャリアアップ助成金とは、非正規雇用労働者の正社員化や処遇改善に取り組む事業主に対して助成する制度です。
※非正規雇用労働者とは、たとえば、有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者のことを指します(以降、まとめて「非正規雇用労働者」といいます)。
制度の目的は、「非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップを促進すること」にあります。企業側にとっても、非正規人材の意欲向上・能力開発・定着促進を通じて、生産性の向上や優秀な人材の確保が期待できる点は大きなメリットです。
キャリアアップ助成金は、事前に提出したキャリアアップ計画書に基づいて取り組みを実施し、その後、対象労働者に6か月分の賃金を支給した日の翌日から起算して、2か月以内が申請期限となります。
助成金の制度活用の全体像は、以下のとおりです。
- キャリアアップ計画書の作成・届出
各コースの開始前に「キャリアアップ計画書」を労働局もしくはハローワークへ提出します。 - 改善措置の実施
就業規則の改定や就業規則に基づく正社員化、処遇改善の取り組みなどを計画通り行います。 - 助成金の申請
措置を実施し、対象労働者に対して所定期間の雇用や賃金支払いが確認された後、必要書類を添えて助成金の支給申請を行います。
キャリアアップ助成金の具体的な申請の流れについては、後述の「キャリアアップ助成金の申請の流れと必要書類」で詳しく解説します。
キャリアアップ助成金の支給対象となる事業主(企業)
企業がキャリアアップ助成金を受給するためには、すべてのコースに共通する支給要件を満たしている必要があります。さらに、申請するコースごとの支給要件も満たす必要があります(※各コースの支給要件は後述)。
ここでは、「全コースに共通する支給要件」と「助成金の対象外となる事業主」、さらに「中小企業事業主の定義」についてご紹介します。
全コースに共通する支給要件
企業がキャリアアップ助成金を受給するには、以下のすべての要件を満たすことが条件です。
【共通要件】(全コース共通)
- 雇用保険適用事業所の事業主であること
キャリアアップ助成金の申請には、事業所が雇用保険の適用事業所であることが前提条件となります。 - キャリアアップ管理者を事業所ごとに任命していること
雇用保険適用事業所ごとに、「キャリアアップ管理者」を置いている必要があります。
※キャリアアップ管理者は、他の事業所との兼任や労働者代表の兼任はできません。 - キャリアアップ計画を作成し、提出を行っていること
対象となる労働者に対して、キャリアアップ計画書を作成し、所轄の労働局長あてに事前に提出をしておく必要があります。
この提出は、改善措置の実施前に完了していることが条件です。 - 労働条件や賃金支払いに関する記録が整備されていること
対象労働者の労働条件、勤務状況および賃金の支払い状況などを把握できる帳簿や記録があり、賃金の算出方法も明確に示せる状態である必要があります。 - キャリアアップ計画期間内に、計画に記載した措置を行っていること
提出済みのキャリアアップ計画に基づき、正社員化や処遇改善を実施し、申請時点で該当コースの支給要件をすべて満たしていることが求められます。
出典:厚生労働省|キャリアアップ助成金のご案内 (令和7年度) P4
助成金を受給できない事業主
ただし、次のいずれかに該当する場合、キャリアアップ助成金を受給できませんのでご注意ください。
【助成金を受給できない事業主】
- 労働保険料の未納がある事業主(前年度以前の保険年度分)
- 支給申請日の前日から過去1年間に、労働関係法令に違反した事業主
- 性風俗関連営業、接待を伴う飲食業等の事業主
- 暴力団関係者または関係団体とつながりのある事業主
- 暴力的破壊活動に関与した、またはその恐れのある団体等に属している事業主
- 支給申請日または支給決定日の時点で倒産している事業主
- 支給申請日または支給決定時に、雇用保険適用事業所ではない事業主
(例:雇用保険の被保険者が0人となっている、事業所の統廃合や廃止、雇用保険の非該当承認を受けている場合など)
出典:厚生労働省|キャリアアップ助成金のご案内 (令和7年度) P4
キャリアアップ助成金を申請する際は、全コースに共通する基本的な支給要件に加えて、各コースに定められた個別の要件も満たしていることが条件です。
各コースの具体的な支給要件については、後述の「キャリアアップ助成金のコース一覧と支給額」にて詳しく解説しています。
なお、キャリアアップ助成金の対象となる労働者の条件は、コースごとに異なります。
それぞれの適用要件については、「キャリアアップ助成金のコース一覧と支給額」より該当コースの解説記事をご参照ください。
キャリアアップ助成金における「中小企業」とは
キャリアアップ助成金では、企業の規模により支給額が異なるため、自社が「中小企業事業主」に該当するかどうかを正確に把握することが重要です。
支給申請時点における資本金の額または出資の総額、もしくは常時雇用する労働者数のいずれかが基準となり、以下の表のいずれかに当てはまる企業は中小企業として扱われます。
業種 | 中小企業者(下記のいずれかを満たすこと) | |
資本金の額・出資の総額 | 常時雇用する労働者の数※ | |
小売業(飲食店を含む) | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
その他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
出典:厚生労働省|キャリアアップ助成金のご案内 (令和7年度) P4
※資本金等のない事業主の場合は、常時雇用する労働者数のみで判定されます。
※常時雇用する労働者
「常時雇用する労働者」とは、次の2つの条件を満たす者を指します。
- 2か月を超えて継続的に雇用される者(または雇用期間の定めがない者および2か月超の雇用期間の定めがある者)
- 週の所定労働時間が当該事業主に雇用される通常の労働者と概ね同じである者
例:週40時間が通常の所定労働時間であれば、週おおむね40時間勤務している労働者が該当します。
キャリアアップ助成金の支給額は「中小企業」と「大企業」で異なるため、上記の判断基準をもとに自社がどちらに該当するのかを確認しておきましょう。
キャリアアップ助成金のコース一覧と支給額【2025年度】
キャリアアップ助成金のコースには、「正社員化支援」と「処遇改善支援」の大きく分けて2種類があります。
以下にて、2025年度(令和7年度)時点でのキャリアアップ助成金のコースと内容を一覧にまとめています。
キャリアアップ助成金のコース一覧【2025年度】
種類 | コース名 | 助成内容 |
正社員化支援 | 正社員化コース | 非正規雇用労働者を正規雇用労働者に転換等をした場合に支給される助成金です。 |
障害者正社員化コース | 障害のある非正規雇用労働者を正規雇用労働者、無期雇用労働者に転換した場合、または無期雇用労働者を正規雇用労働者転換した場合に支給される助成金です。 | |
処遇改善支援 | 賃金規定等改定コース | 非正規雇用労働者の基本給の賃金規定等を3%以上増額改定し、適用させた場合に支給される助成金です。 |
賃金改定等共通化コース | 雇用するすべての非正規雇用労働者に、正規雇用労働者と共通の職務等に応じた賃金規定等を新たに作成し、適用した場合に支給される助成金です。 | |
賞与・退職金制度導入コース | すべての非正規雇用労働者に関して、 賞与・退職金制度を新たに設け、支給または積立てを実施した場合に支給される助成金です。 | |
社会保険適用時処遇改善コース | 雇用する短時間労働者に対して、社会保険の新規加入に伴う処遇改善を行った場合等に支給される助成金です。 | |
短時間労働者労働時間延長支援コース(2025年新設) | 短時間労働者の労働時間を延長し、社会保険に加入させたうえで収入を増やす取り組みを行った場合に支給される助成金です。 |
以下、それぞれのコースについて解説します。
※支給額や条件は変更される可能性があるため、申請時には厚生労働省またはハローワークで最新情報をご確認ください。
正社員化コース
正社員化コースは、非正規雇用労働者を正社員化した事業主に助成金が支給される制度です。
ここでいう「正社員化」には、勤務地限定・職務限定・短時間正社員を含む正規雇用への転換や、派遣労働者を直接正規雇用として採用するケースが含まれます。
【正社員化コースの助成金の支給額】
キャリアアップ助成金の支給額は、企業の規模によって異なります。
2025年度時点での正社員化コースの支給額(1人あたり)は、以下のとおりです。
中小企業 | 大企業 | |||
重点支援対象者※1 | 左記以外 | 重点支援対象者 | 左記以外 | |
有期雇用→正社員 | 80万円 | 40万円 | 60万円 | 30万円 |
無期雇用※2→正社員 | 40万円 | 20万円 | 30万円 | 15万円 |
出典:厚生労働省|キャリアアップ助成金のご案内(令和7年度)|P.1
※1:重点支援対象者
重点支援対象者とは、以下の1~3のいずれかに該当する労働者を指します。
- 雇入れから3年以上継続して就業している有期雇用労働者
- 雇入れから3年未満で、以下の2つの条件を両方満たす有期雇用労働者
a.過去5年間に正規雇用労働者として働いた期間が通算1年以下
b.過去1年間、正規雇用労働者として雇用されていない - 以下のいずれかに該当する者
a.派遣労働者(派遣先で正社員として直接雇用する場合)
b.母子家庭の母等または父子家庭の父
c.人材開発支援助成金の特定の訓練修了者
※2:無期雇用労働者
雇用期間が通算5年を超える有期雇用労働者は、「無期雇用労働者」とみなされます。
キャリアアップ助成金(正社員化コース)には、助成金の基本支給額に加え、新たに正社員制度を整備して転換を実施した場合に上乗せされる「加算措置」も設けられています。
加算の条件や金額、コース独自の要件については、以下の正社員化コースの解説記事をご参照ください。
〉キャリアアップ助成金(正社員化コース)支給額・条件・申請方法まとめ【2025年版】
障害者正社員化コース
障害者正社員化コースは、障害のある労働者の雇用促進と職場定着を目的として、 次のいずれかの措置を継続的に講じた事業主に対して助成される制度です。
- 有期雇用労働者を、正規雇用労働者(多様な正社員を含む)または無期雇用労働者に転換すること
- 無期雇用労働者を、正規雇用労働者に転換すること
【障害者正社員化コースの助成金の支給額】
2025年度時点での障害者正社員化コースの支給額(1人あたり)は、以下のとおりです。
1. 重度身体障害者、重度知的障害者および精神障害者の場合 |
||
中小企業 | 大企業 | |
2.重度身体障害者、重度知的障害者および精神障害者以外の場合 |
||
有期雇用→正社員 | 120万円 | 90万円 |
有期雇用→無期雇用 | 60万円 | 45万円 |
無期雇用→正規雇用 | 60万円 | 45万円 |
有期雇用→正規雇用 | 90万円 | 67.5万円 |
有期雇用→無期雇用 | 45万円 | 33万円 |
無期雇用→正規雇用 | 45万円 | 33万円 |
出典:厚生労働省|キャリアアップ助成金のご案内(令和7年度)|P.1
障害者正社員化コースを受給するには、キャリアアップ助成金の基本要件に加えて、障害者正社員化コースの個別の要件をすべて満たすことが求められます。
詳しい要件内容は、厚生労働省のキャリアアップ助成金(障害者正社員化コース)のご案内をご覧ください。
賃金規定等改定コース
賃金規定等改定コースは、有期雇用労働者などの基本給を、賃金規定等を改定して3%以上増額し、その規定を実際に適用した事業主に対して助成される制度です。
「賃金規定等」とは、就業規則や労働協約において賃金額の定めがあるものをいいます。
【賃金規定等改定コースの助成金の支給額】
2025年度時点での賃金規定等改定コースの支給額(1人あたり)は、以下のとおりです。
中小企業 | 大企業 | |
3%以上4%未満 | 4万円 | 2.6万円 |
4%以上5%未満 | 5万円 | 3.3万円 |
5%以上6%未満 | 6.5万円 | 4.3万円 |
6%以上 | 7万円 | 4.6万円 |
出典:厚生労働省|キャリアアップ助成金のご案内(令和7年度)|P.1
キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)には、助成金の基本支給額に加え、職務評価の手法を活用した賃金規定の増額改定を実施した場合等に上乗せされる「加算措置」も設けられています。
賃金の増額改定後、6か月分の賃金を支給した日の翌日から2か月の間に、支給申請が可能です。
対象となる労働者や事業者の要件等、詳しい内容は、厚生労働省の「キャリアアップ助成金のご案内(令和7年度版)」からご参照いただけます。
賃金規定等共通化コース
就業規則または労働協約に基づき、すべての有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者(以下、「有期雇用労働者等」といいます。)に対して正規雇用労働者と共通の職務等に応じた賃金規定等を新たに作成し、適用した事業主に対して助成する制度です。
具体的には、「賃金テーブル規程」などを作成し、正規雇用労働者と有期雇用労働者等の賃金を、等級や号俸ごとに1対1で対応させた形で共通化することをいいます。
【賃金規定等共通化コースの助成金の支給額】
2025年度時点での賃金規定等共通化コースの支給額(1事業所あたり)は、以下のとおりです。
中小企業 | 大企業 | |
1事業所あたり | 60万円 | 45万円 |
出典:厚生労働省|キャリアアップ助成金のご案内(令和7年度)|P.1
申請は、賃金規定共通化後6か月分の賃金の支給日翌日から2か月以内に行う必要があります。
正規雇用労働者と有期雇用労働者等に共通の職務等に応じた賃金規定等を新たに設け、6か月以上継続して適用していること等が条件となります。
詳しい要件等は、以下の記事をご参照ください。
>キャリアアップ助成金(賃金規定等共通化コース)とは?共通化の具体例や注意点を解説!
賞与・退職金制度導入コース
賞与・退職金制度導入コースは、就業規則または労働協約に基づき、すべての有期雇用労働者等に対して新たに賞与または退職金制度を設け、実際に支給や積立てを行った事業主を支援する制度です。
【賞与・退職金制度導入コースの助成金の支給額】
2025年度時点での賞与・退職金制度導入コースの支給額(1事業所あたり)は、以下のとおりです。
中小企業 | 大企業 | |
賞与または退職金制度いずれかを導入 | 40万円 | 30万円 |
賞与および退職金制度を同時に導入 | 56万8,000円 | 42万6,000円 |
出典:厚生労働省|キャリアアップ助成金のご案内(令和7年度)|P.48
「賞与・退職金制度導入コース」の助成金を受給するには、賞与については6か月分相当として5万円以上、退職金については6か月分または6か月分相当として1万8,000円以上を積み立てた事業主であることが条件の1つです。
これらの制度は、すべての有期雇用労働者等に適用されている必要があります。
そのほかの受給要件等については、厚生労働省の「キャリアアップ助成金のご案内(令和7年度)」からご参照いただけます。
社会保険適用時処遇改善コース
社会保険適用時処遇改善コースでは、雇用する短時間労働者に対して、以下のいずれかの取り組みを行った場合に助成される制度です。
- 社会保険の被保険者要件を新たに満たし、その被保険者となった際に、賃金総額を増加させる取り組み(手当支給・賃上げ・労働時間延長など)を行った場合
- 週の所定労働時間を4時間以上延長するなどの措置により、社会保険の被保険者要件を満たし、その被保険者となった場合
社会保険適用時処遇改善コースは、社会保険に加入させただけでは助成の対象にはならず、賃上げや手当支給などの「処遇改善」をあわせて行う必要があります。
【社会保険適用時処遇改善コースの助成金の支給額】
2025年度時点での社会保険適用時処遇改善コースの支給額(1人あたり)は、以下のとおりです。
中小企業 | 大企業 | |
手当等支給メニュー | 50万円 | 37.5万円 |
労働時間延長メニュー | 30万円 | 22.5万円 |
併用メニュー※ | 50万円 | 37.5万円 |
出典:厚生労働省|キャリアアップ助成金のご案内(令和7年度)|P.1
※併用メニューは、手当等支給メニューと労働時間延長メニューの双方を段階的に実施した場合に、それぞれの取り組みに応じて助成が受けられる制度です。
「手当等支給メニュー」や「併用メニュー」は、段階的に支給される助成金です。延長時間が4時間未満の場合には、基本給を一定の賃金引き上げ率分引き上げている必要があります。
なお、同一の労働者については、併用メニューによる場合を除き、2つ以上のメニューを受給することはできません。
各メニューにおける支給のタイミングや要件の詳細については、以下の記事をご参照ください。
>記事:キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)とは|社会保険加入に活用できる制度を解説
短時間労働者労働時間延長支援コース(2025年新設)
短時間労働者労働時間延長支援コースは、2025年に暫定的に新設されたコースで、社会保険の適用拡大に伴い、年収130万円程度で働く短時間労働者を対象とした助成制度です。
週所定労働時間を延長し、社会保険に加入させたうえで、手取り収入が減らないよう処遇を改善した事業主に対して助成されます。
【短時間労働者労働時間延長支援コースの助成金の支給額】
2025年度時点での短時間労働者労働時間延長支援コースの支給額(1人あたり)は、以下のとおりです。
■1年目
要件 | 1人あたりの支給額 | |||
所定労働時間の延長 | 賃金の増加 | 小規模企業 | 中小企業 | 大企業 |
5時間以上 | – | 50万円 | 40万円 | 30万円 |
4時間以上5時間未満 | 5%以上 | |||
3時間以上4時間未満 | 10%以上 | |||
2時間以上3時間未満 | 15%以上 |
■2年目
要件 | 1人あたりの支給額 | |||
所定労働時間の延長 | 賃金の増加 | 小規模企業 | 中小企業 | 大企業 |
労働時間を更に2時間以上延長 | – | 25万円 | 20万円 | 15万円 |
労働時間の 延長なし |
基本給を更に5%以上など※ |
※基本給を更に5%以上増加または昇給、賞与もしくは退職金制度の適用
出典:厚生労働省|キャリアアップ助成金 短時間労働者労働時間延長支援コース
既存の「社会保険適用時処遇改善コース」の労働時間延長メニューと比べて、主に以下の点で拡充されています。
- 労働時間の延長要件が「週5時間以上」または「週4時間以上かつ5%以上の賃上げ」に強化されていること
- 中小企業への助成額が30万円から40万円に引き上げられたこと
- 小規模企業にはさらに手厚く、1人あたり50万円が支給されること
- 2年目の継続的な取り組みも支援対象となり、最大75万円までの助成が受けられること
時限的措置ではあるものの、より高い処遇改善と職場定着を後押しする内容となっています。とくに、短時間労働者の社会保険の加入促進を進めたい中小企業にとって、活用価値の高い制度です。
受給要件や申請手続きの詳細については、厚生労働省の「短時間労働者労働時間延長支援コース」の資料からご参照いただけます。
キャリアアップ計画書の作成と申請の流れ
キャリアアップ助成金は、事前準備から支給申請までの手続きが厳格に定められています。以下の手順で進める必要があります。
1. キャリアアップ計画書の作成・提出
制度を活用するためには、まず「キャリアアップ計画書」を作成し、実施日の前日までに所轄の労働局またはハローワークへ提出を行う必要があります。
キャリアアップ計画書とは:
有期雇用労働者のキャリアアップを効果的に進めるために、対象者・目標・期間・実施内容などの全体像を事前にまとめた行動プランです。企業が取り組む方向性やステップを明確にし、計画的に制度を活用するための指針となります。 |
このキャリアアップ計画書には、対象労働者や実施する改善措置の内容・時期などを記載します。
【キャリアアップ計画書の記入方法】キャリアアップ計画書の記入例は、厚生労働省資料の記入例よりご確認いただけます。 【提出方法】計画書の提出(支給申請)は、窓口への持参、郵送、電子申請のいずれかで可能です。ただし、郵送の場合は、申請先への到着日が支給申請期間内である必要があります。余裕を持って申請を行いましょう。 |
なお、2025年度からはこの手続きが「認定方式」から「届出方式」に簡素化されましたが、提出は必須なことには注意が必要です。
2.必要に応じて就業規則・賃金規定の整備
対象となる改善措置(正社員化・賃金改定・制度導入など)を就業規則や賃金規定に明示し、労働者に周知しておく必要があります。
制度の導入日や支給内容などが明文化されていなければ、支給対象となりません。
3.取り組みの実施
キャリアアップ計画に基づき、労働者の正社員化や賃金改定、制度導入などの措置を実施します。
4.賃金支払いと支給申請
措置実施後、原則として6か月間の継続雇用・賃金支払いを行った後にキャリアアップ助成金の支給申請を行います。
申請は、取り組み後6か月分の賃金を支払った日の翌日から起算して2か月以内が期限です。
必要書類は、これら書類に不備があると申請が通らないため、事前に社労士などの専門家にチェックを依頼することをおすすめします。
【必要書類】各コースの支給申請に必要な書類内容は、厚生労働省のパンフレット「令和7年度版キャリアアップ助成金のご案内」の各コース詳細ページよりご参照いただけます。 キャリアアップ助成金の支給申請に必要な書類は、厚生労働省ホームページ「申請様式ダウンロード(キャリアアップ助成金)」よりダウンロード可能です。 |
キャリアアップ計画書は届出のみに変更|作成時の注意点
従来は、申請するコースごとに「キャリアアップ計画書」を作成し、各コースの取り組み実施日の前日までに所轄の労働局長による認定を受ける必要がありました。
しかし、2025年4月よりキャリアアップ計画書の認定手続きが廃止され、届出のみで手続きが完了するようになっています。
ただし、手続きが簡素化されたことで、届出を行ったあとに提出日や記載内容、関連書類の保管に不備があると申請が却下されるリスクも高まります。
助成金を確実に受給するには、制度に精通した社労士などの専門家のサポートを受けながら計画内容の精査を行い、計画書の作成をすすめることをおすすめします。
キャリアアップ助成金を不正受給したらどうなる?申請時の注意点とは
キャリアアップ助成金の申請にあたって、不正受給が発覚した場合は、企業にとって大きなリスクとなります。
以下、キャリアアップ助成金の不正受給が起こった場合の処罰と、申請時の注意点を解説します。
不正受給した場合の処罰とペナルティ
たとえ悪意がなかった場合でも、受給した助成金の全額返還に加えて、年3%の延滞金や返還額の20%に相当する違約金の支払いを求められることがあります。また、ケースによっては刑事告発の対象となる可能性も否定できません。
不正受給が確認された企業は、その後5年間、雇用関係助成金を利用できなくなり、企業名が公表されることもあります。
申請手続きを代理人に依頼している場合でも、申請書に事業主の署名・押印がある時点で「内容を確認した」と見なされ、責任を問われる可能性があります。
申請時の注意点
助成金の申請時には、支給要件を正確に把握し、事実に基づく記載・添付資料を提出することが重要です。
申請時の書類が審査対象となるため、添付資料の差し替えは原則不可です。事実と異なる記載がないか事前に確認しましょう。
申請に必要な書類や帳簿類(出勤簿、賃金台帳、就業規則など)は支給決定から5年間の保存が義務づけられています。また、労働局による調査には、雇用保険法に基づいて協力が義務づけられています。
不正受給を防ぐためにも、申請前に制度を正確に理解し、社労士などの専門家に相談しながら、適正な手続きと書類管理を徹底しましょう。
まとめ|キャリアアップ助成金は社労士と連携して賢く活用を
本記事では、キャリアアップ助成金の全体像から、対象企業の条件、2025年度の最新制度・各コース別の支給内容、申請手続き、不正受給のリスクまで幅広く解説しました。
キャリアアップ助成金は、非正規雇用労働者の正社員化や処遇改善を支援する制度であり、単なる資金補助にとどまらず、人材定着や職場環境の向上といった企業の経営基盤強化にもつながります。
特に、2025年度から加わった新設コースは、短時間労働者の社会保険加入に取り組む中小企業にとって、有効な支援策となるでしょう。
一方で、助成金の受給には計画書の届出・就業規則の整備・正確な書類管理などが求められ、企業単独では対応が難しいケースも少なくありません。
そのため、キャリアアップ助成金の申請や運用を進める際には、社労士との連携が安心です。
キャリアアップ助成金について社労士に相談する
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