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助成金・補助金
更新日:2025 / 08 / 29
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キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)とは|社会保険加入に活用できる制度を解説

近年、短時間労働者への社会保険の適用が拡大しており、2024年10月からは従業員数51人以上の企業にも適用義務が拡大されました。2027年以降は更に段階的に、社会保険の適用対象の広がりが見込まれています。

一方で、いわゆる「年収106万円の壁」を理由に、労働者が手取りの減少を避けるために就業調整を行うケースも少なくありません。

こうした背景を受け、労働者が社会保険加入をためらわずに働ける環境づくりを支援するために創設されたのが「キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)」です。

この制度を活用すれば、社会保険適用後も労働者の手取りが減らないよう、企業が賃金加算や手当支給などの処遇改善を行った場合に、助成金の受け取りが可能です。短時間労働者の社会保険加入を進める企業にとって、活用すべき有効な制度といえます。

本記事では、社会保険適用時処遇改善コースの概要やメニュー別の支給条件、申請の流れに加え、社会保険適用促進手当まで、実務に役立つ情報をわかりやすく解説しています。

社会保険加入と処遇改善の両立に向けて、ぜひ制度活用にお役立てください。

キャリアアップ助成金の対象となる企業の要件、「中小企業」に区分される企業の要件や各コースの概要など、全体像を知りたい方は以下の記事もあわせてご参考ください。

キャリアアップ助成金とは?対象企業・支給額・申請手続きまで徹底解説【2025年最新】

キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)とは

「キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)」とは、雇用する短時間労働者を対象に、社会保険の適用とあわせて処遇改善を行う企業を支援する制度です。

対象となるのは、以下のいずれかの場合です。

  • 社会保険の被保険者要件を新たに満たし、その被保険者となった際に、賃金総額を増加させる取り組み(手当支給・賃上げ・労働時間延長など)を行った場合
  • 週の所定労働時間を4時間以上延長するなどの措置により、社会保険の被保険者要件を満たし、その被保険者となった場合

このような取り組みを行った企業には、対象労働者1人当たり最大50万円の助成金が国から支給されます。

本制度の概要をより理解するために、ここでは、社会保険適用時処遇改善コースの目的と時限措置としての位置づけについて解説します。

社会保険適用時処遇改善コースの目的と背景

社会保険適用時処遇改善コースの目的は、短時間労働者の「年収の壁」による働き控えをなくし、安心して働き続けられる環境を整えることです。

企業が、賃上げ・手当の支給・労働時間の延長などに取り組むことで収入の底上げや就業継続を後押しし、働き方の選択肢拡大が期待されています。

2026(令和8)年3月31日までの時限措置

社会保険適用時処遇改善コースは、2023(令和5)年10月1日から2026(令和8)年3月31日までの「時限措置」として実施されています。

本コースの支給対象となるのは、この期間内に新たに社会保険の加入対象となった労働者のみです。

この時限措置は、いわゆる「106万円の壁」による働き控えへの対応策として設けられたものであり、期間の延長は予定されていません。

社会保険適用時処遇改善コースの3つのメニューと支給額

キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)には、企業が労働者の事情や就業形態に応じて柔軟に取り組めるよう、3つのメニューが用意されています。

  1. 手当等支給メニュー
  2. 労働時間延長メニュー
  3. 併用メニュー

助成は、対象労働者1人につき、いずれか1つのメニューのみ適用されます。

ここでは、それぞれのメニューの概要と支給要件、支給額について詳しく解説します。

手当等支給メニュー

手当等支給メニューは、企業が短時間労働者を新たに社会保険に加入させた際、社会保険適用促進手当の支給や賃上げなどで労働者の賃金総額を増加させた場合に助成する制度です。

対象となる取り組みは1年ごと3段階に分かれており、支給額は以下のとおりです。

年度 要件 中小企業の1人当たりの助成額
1年目 ①賃金(標準報酬月額・標準賞与額)の15%以上を労働者に追加支給すること 6か月ごとに、10万円×2回
(大企業:7.5万円×2回)
2年目 ②①と同様に賃金の15%以上の追加支給とともに、3年目以降に以下③の取り組みが実施されること 6か月ごとに、10万円×2回
(大企業:7.5万円×2回)
3年目 ③賃金(基本給)の18%以上を増額(労働時間の延長との組み合わせも可) 6か月で、10万円
(大企業:7.5万円)

出典:厚生労働省|キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)

6か月分を1期とし、最大5期分、必要な取り組みを6か月継続するごとに支給申請が可能です。

なお、③の要件を1年早めて、1年目に①の取組、2年目に③の取組を行った場合、2年目には②と③の分をあわせた助成額が支給されます(中小企業:30万円、大企業:22.5万円)。

労働時間延長メニュー

労働時間延長メニューは、企業が短時間労働者を新たに社会保険に加入させた際、所定労働時間を延長し、社会保険の適用要件(週の所定労働時間が20時間以上)を満たすようにした場合に助成される制度です。

延長時間によって、以下のとおり助成額が設定されています。

延長時間の区分 賃金の引き上げ率※ 中小企業の1人当たり助成額
①週4時間以上 6か月で30万円
(大企業:22.5万円)
②週3時間以上~4時間未満 5%以上
③週2時間以上~3時間未満 10%以上
④週1時間以上~2時間未満 15%以上

※延長時間の区分(②~④)に対して必要な基本給の引き上げ率

出典:厚生労働省|キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)

延長時間は、延長前6か月の「週当たりの平均実労働時間」と延長後6か月の「週所定労働時間」を比較し、その差分で該当の区分を判断します。

併用メニュー

併用メニューは、1年目に「手当等支給メニュー」を実施し、2年目に「労働時間延長メニュー」を実施する場合に助成される制度です。

以下の要件を順に満たした場合、それぞれの支給額が合算されます。

年度 要件 1人当たり助成額
1年目
(手当等支給メニュー)
賃金(標準報酬月額・標準賞与額)の15%以上を労働者に追加支給すること 6か月ごとに、10万円×2回
(大企業:7.5万円×2回)
2年目
(労働時間延長メニュー)
所定労働時間の
延長
賃金の増額 6か月で、30万円
(大企業:22.5万円)
①週4時間以上
②週3時間以上~4時間未満 5%以上
③週2時間以上~3時間未満 10%以上
④週1時間以上~2時間未満 15%以上

出典:厚生労働省|キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)

制度を活用する際は、取り組み内容や支給要件をしっかり把握し、自社の方針に沿ったメニュー選びが大切です。

社会保険適用促進手当とは?

社会保険適用促進手当とは、企業が短時間労働者の社会保険加入を後押しするために支給する手当です。労働者の手取りの減少を抑える目的で、社会保険料の本人負担分を企業が補うかたちで支給されます。

この手当は、以下のいずれの要件も満たす労働者に対して支給された場合、本人負担分の社会保険料相当額を上限として、最大2年間、標準報酬月額・標準賞与額の算定対象から除外されます。

  • 2026(令和8)年3月31日までに、新たに社会保険に加入した短時間労働者である
  • 標準報酬月額が10.4万円以下である

この制度により、保険料は発生するものの、手当分が保険料の計算対象から除外されるため、企業・労働者双方の負担軽減につながります。

また、この手当は、キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)の対象にもなっており、一定の条件を満たせば助成金の受給が可能です。

キャリアアップ助成金との関係

社会保険適用促進手当は手当等支給メニュー①・②」での取り組みに該当する場合、キャリアアップ助成金の支給対象となります。

たとえば、標準報酬月額または標準賞与額に対して15%以上の賃金を上乗せしたケースなどが該当します。

ただし、2023(令和5)年9月30日以前から社会保険に加入していた労働者は、この助成金の対象外です(※対象は2023(令和5)年10月1日~2026(令和8)年3月31日までに新規加入した場合のみ)。

労働基準法上の取扱いに注意

社会保険適用促進手当は、標準報酬月額・標準賞与額の算定対象にはなりませんが、「賃金の一部」とみなされます。そのため、社会保険適用促進手当を支給する場合は労働基準法に基づき、就業規則(賃金規程)への明記が必要です。

規定する場合の例や、最低賃金や割増賃金、平均賃金に関する取扱いについては厚生労働省のパンフレットに詳しく記載されています。

制度を適切に活用するためにも、法令上のルールを事前にチェックしておくことが大切です。

社会保険適用時処遇改善コースの対象となる事業主(企業)

キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)の支給対象となるには、制度全体に共通する基本要件と、メニューごとの追加要件の両方を満たす必要があります。

ここでは、キャリアアップ助成金共通の要件と、各メニューの要件をそれぞれ解説します。

全コース共通の支給要件

全コース共通の企業側が満たすべき支給要件は以下のとおりです。

  1. 雇用保険適用事業所であること
  2. 雇用保険適用事業所ごとに、キャリアアップ管理者(キャリアアップに関する知識や経験をもつ者)を配置していること
    ※他の事業所や労働者代表との兼任はできません。
  3. 雇用保険適用事業所ごとにキャリアアップ計画を作成し、管轄の労働局長に提出済みであること
  4. 実施するコースの対象労働者について、労働条件・勤務状況・賃金支払い状況を確認できる書類を備えており、賃金の計算根拠が明示できること
  5. キャリアアップ計画に基づいて、計画期間内に正社員化や処遇改善の取り組みを行い、申請時点ですべての支給要件を満たしていること

出典:厚生労働省|キャリアアップ助成金のご案内(令和7年度)P4

助成金を申請するには、雇用保険の適用事業所であることや、キャリアアップ計画の作成・提出、賃金計算の根拠となる書類の整備など、基本的な準備が必要です。

全コースに共通する支給要件については、こちらの記事で詳しく解説しています。

キャリアアップ助成金とは?対象企業・支給額・申請手続きまで徹底解説【2025年最新】

社会保険適用時処遇改善コース|メニュー共通の支給要件

キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)のメニュー3つに共通する要件は以下のとおりです。

  1. 新たに社会保険の被保険者となった対象労働者について、各メニューで定められた支給対象期間(6か月単位)以上継続して雇用し、その雇用期間※に対応する賃金を支払っていること
    ※勤務日数が11日未満の月は基本的に除外されますが、当該月も本人負担分の保険料を支給している場合は含めることができます。
  2. 新たに社会保険の被保険者となった対象労働者について、社会保険の適用前と比べて、基本給および定額で支給している諸手当を減額していないこと
  3. 新たに社会保険の被保険者となった対象労働者について、社会保険の被保険者要件を満たした日以降、すべての期間において、雇用保険および社会保険の被保険者として適用していること
  4. 新たに社会保険の被保険者となった対象労働者について、社会保険の加入状況を雇用契約書などに正しく明記し、本人に交付していること

出典:厚生労働省|キャリアアップ助成金のご案内(令和7年度)P55

共通の要件では、新たに社会保険の被保険者となった労働者に対し、適切な雇用管理や賃金支払い、契約書などの整備がなされていることが求められます。

手当等支給メニューの場合

手当等支給メニューを活用する場合、共通の支給項目に加えて、以下のような要件をすべて満たす必要があります。

  1.  雇用する有期雇用労働者等について、基本給の増額・労働時間の延長・社会保険の適用拡大に関する措置を講じた結果、新たに社会保険の被保険者要件を満たし、被保険者としたこと
    ※雇用期間の延長や学生身分の変更のみで要件を満たす場合は対象外です。
  2.  ①で被保険者とした労働者について、労働者負担分の社会保険料相当額以上の金額を、一時的な手当(例:社会保険適用促進手当)や恒常的な手当、または基本給として新たに支給していること
    ※手当は 支給期間(6か月)ごとの支払いが必要です。一括支給は原則対象外です。
  3.  ②の措置後、対象労働者に対して「基本給等の増額」または「週所定労働時間の延長」あるいはその両方を実施し、「第1期支給対象期(最初の6か月)における基本給の総支給額等」と比べて18%以上増額した賃金を、該当する支給対象期に支給していること。

【用語解説】

「有期雇用労働者等」とは、以下のいずれかに該当する労働者を指します。

  • 有期雇用労働者(雇用契約の期間が決まっている労働者)
  • 無期雇用労働者(雇用契約期間の定めがなく、正社員と同様の労働条件が適用されていない労働者)

「基本給等」とは、基本給および恒常的に支給する手当(例:社会保険適用促進手当を定額支給に切り替えたもの等)を指します。

出典:厚生労働省|キャリアアップ助成金のご案内(令和7年度)P55

社会保険の加入を後押しするために、手当などで手取り減を補い、その後、賃金や労働時間の見直しで処遇改善に取り組む企業が対象です。

労働時間延長メニューの場合

労働時間延長メニューを活用する場合、企業は以下の要件をすべて満たす必要があります。

  1.  雇用する有期雇用労働者等に対して、週所定労働時間を4時間以上延長、または1時間以上4時間未満延長し、加えて所定の増額率(5~15%以上)で基本給を引き上げたこと
  2.  基本給の増額や労働時間の延長、社会保険の適用拡大によって、対象労働者が新たに社会保険の被保険者になった場合、適用日の1か月前の日から起算して3か月が経過する日の前日までの間に①の措置を実施していること
    または①の措置によって、新たに社会保険の被保険者要件を満たした対象労働者を被保険者としたこと

出典:厚生労働省|キャリアアップ助成金のご案内(令和7年度)P55

労働時間の延長と賃金引き上げによって、社会保険の加入や処遇改善につなげている企業が対象です。

併用メニューの場合

併用メニューでは、①と②の要件は「手当等支給メニュー」と同じですが、③のみ内容が異なります。

  1.  雇用する有期雇用労働者等について、基本給の増額・労働時間の延長・社会保険の適用拡大に関する措置を講じた結果、新たに社会保険の被保険者要件を満たし、被保険者としたこと
    ※雇用期間の延長や学生身分の変更のみで要件を満たす場合は対象外です。
  2. ①で被保険者とした労働者について、労働者負担分の社会保険料相当額以上の金額を、一時的な手当(例:社会保険適用促進手当)や恒常的な手当、または基本給として新たに支給していること
    ※手当は 支給期間(6か月)ごとの支払いが必要です。一括支給は原則対象外です。
  3. ②の措置を2期分実施したうえで、第3期に「労働時間延長メニュー」の①の措置を実施していること

出典:厚生労働省|キャリアアップ助成金のご案内(令和7年度)P55

手当の支給に加え、労働時間の延長に取り組んだ企業が対象です。

社会保険の適用拡大についてはこちらの記事で詳しく解説しています。

【【2025年最新】“パート扶養がなくなる”は誤解?年収の壁一覧とポイント整理

社会保険適用時処遇改善コースの対象となる労働者

キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)の対象労働者となるには、以下の①~⑤のすべてに該当する必要があります。

  1. 週所定労働時間を延長した日、または新たに社会保険の被保険者とした日のいずれか早い日の6か月前から継続して雇用されている、有期雇用労働者等であること
  2. 以下(1)~(7)のいずれかに該当すること
    ※メニューや申請のタイミング(期)によって条件が異なります。【手当等支給メニュー・併用メニュー(第1期・第2期)】
    (1)第1期または第2期に、本人負担分の社会保険料または標準報酬月額・賞与額の15%のいずれか低い額以上の一時的手当の支給を受けた者
    【手当等支給メニュー(第3期(第5期の前倒し)】
    (2)(1)に該当し、第1期と比べて基本給等が18%以上増額された賃金を第3期に受けた者
    【手当等支給メニュー(第3期・第4期・第5期)】
    (3)(1)に該当し、第3期または第4期に(1)と同様の一時的手当の支給を受けた者
    (4)(3)に該当し、第1期と比べて18%以上増額された基本給等の総支給額を第5期に受けた者
    【併用メニュー(第3期)】
    (5)(1)に該当し、第3期に週所定労働時間の延長(1時間以上)および基本給の増額が行われた者
    【労働時間延長メニュー】
    (6)新たに社会保険に加入する前の1か月前から3か月後までの間に、週所定労働時間を延長(1時間以上)かつ基本給の増額が行われた者
    (7)労働時間の延長および基本給の増額を行った結果、社会保険の被保険者要件を満たした者
  3. 社会保険の適用日の前日から過去6か月間、被保険者要件を満たしておらず、かつ、過去2年以内に当該事業所で社会保険に加入していないこと
  4. 手当支給や労働時間延長等の措置を行った事業主や役員の3親等以内の親族でないこと
  5. 支給申請日時点で離職※していないこと
    ※自己都合退職、本人の責めに帰すべき重大な理由による解雇、天災等による事業継続困難を除く

出典:厚生労働省|キャリアアップ助成金のご案内(令和7年度)P54

対象要件の判定には、雇用履歴・処遇記録・手当支給履歴などの書類管理が重要です。

事前に社内での確認体制を整え、スムーズな助成金申請に備えましょう。

社会保険適用時処遇改善コースの基準日と支給対象期間とは

キャリアアップ助成金の受給においては、「いつから」「どの期間が対象か」を理解しておくことが非常に重要です。

ここでは、一般的なコース別の支給対象期の起点(基準日)や支給対象期の数え方を整理します。

手当等支給メニューの場合

【基準日】

社会保険の被保険者とした日の属する月の賃金締切日から起算した賃金算定期間の1日目(例:社会保険加入日が9月中なら、9月1日が基準日)

【支給対象期】

  • 第1期:基準日から起算して6か月
  • 第2期:第1期の翌日から6か月
  • 第3期:第2期の翌日から6か月

一時的手当の支給を2年間継続し、3年目に基本給等を18%以上増額した場合は、さらに2期分の支給対象期が追加されます。

  • 第4期:第3期の翌日から6か月
  • 第5期:第4期の翌日から6か月

併用メニューの場合

【基準日】

手当等支給メニューと同様、社会保険に適用した月の賃金算定期間の1日目

【支給対象期】

  • 第1期:基準日から6か月
  • 第2期:第1期の翌日から6か月
  • 第3期:第2期の翌日から6か月

労働時間延長メニューの場合

労働時間延長メニューでは、週所定労働時間を延長した日を起点として、以降6か月間が支給対象期となります(=1期分のみ支給)。

支給対象期の誤認は助成金不支給の原因にもなり得ます。社内で基準日・期の開始日・措置実施日を正確に管理する体制づくりが重要です。

措置後1か月目分の賃金から手当等の支給を開始できない場合の第1期支給対象期の取扱いについては、厚生労働省のパンフレット「厚生労働省|キャリアアップ助成金のご案内(令和7年度)P56」を参照ください。

社会保険適用時処遇改善コースの手続きの流れと申請期間

ここでは、社会保険適用時処遇改善コースを申請して受給するまでの流れと、その申請期間について解説します。

申請手続きの流れ

社会保険適用時処遇改善コースでは、各メニュー共通で以下の流れに沿って申請を行います。

【1.キャリアアップ計画の作成・提出】

まず、企業はキャリア管理者を配置し、労働組合などの意見を聴取のうえ「キャリアアップ計画」を作成します。

キャリアアップ計画書とは:

有期雇用労働者のキャリアアップを効果的に進めるために、対象者・目標・期間・実施内容などの全体像を事前にまとめた行動プランです。企業が取り組む方向性やステップを明確にし、計画的に制度を活用するための指針となります。

完成したキャリアアップ計画書は、社会保険適用時処遇改善コース(各メニュー)の実施前日までに、所轄の労務局またはハローワークへ提出(窓口・郵送・電子申請)します。

キャリアアップ計画書の作成方法はこちらの記事をご確認ください。

キャリアアップ助成金とは?対象企業・支給額・申請手続きまで徹底解説【2025年最新】

【2.対象労働者への措置実施】

キャリアアップ計画に基づき、対象となる有期雇用労働者等を社会保険に加入させ、選択したメニュー(手当支給や労働時間延長、基本給の増額など)に沿って処遇改善を行います。

【3.6か月分の賃金支払いと支給申請】

該当の支給対象期(6か月)における処遇改善措置や賃金支払いの内容を証明する書類を整備し、支給申請書類とあわせて提出します。

その後は、メニューごとに決められた支給対象期にあわせて申請を進めます。

【4.支給決定】

提出内容を労働局が審査し、要件をすべて満たしていると判断された場合、助成金の支給が決定されます。

申請期間

原則として、6か月分の賃金支給が完了したその翌日から起算して2か月以内に支給申請を行います。

なお、手当等支給メニュー・併用メニューでは、6か月以降も半年ごとに支給申請を行います。支給対象期と申請期限を確認し、遅れのないよう対応しましょう。

社会保険適用時処遇改善コースの申請に必要な書類(メニュー別)

出典:厚生労働省|社会保険適用時処遇改善コース内訳(様式第3号・別添様式6)

ここでは、キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)の申請に必要な書類を、メニューごとに整理して紹介します。

手当等支給メニュー

手当等支給メニューを選択した場合の申請書類は、以下のとおりです。

【申請書類】

  • キャリアアップ助成金支給申請書(様式第3号)
  • 社会保険適用時処遇改善コース内訳(様式第3号・別添様式6)
  • 支給要件確認申立書(共通要領様式第1号)
  • 支払方法・受取人住所届(※初回または振込口座変更時に提出)

【添付書類(必須)】

  • 雇用契約書または労働条件通知書の写し
  • 賃金台帳の写し
    ※賃金台帳で出勤日数・労働時間数が確認できない場合は、出勤簿やタイムカードの写しを併せて提出

(以下は、恒常的な手当を支給するタイミングによる)

  • 2年目から支給する場合:
    2回目の支給申請時に、一時的な手当を「恒常的な手当」として就業規則などに明記した場合は、その改定後の就業規則等の写しを提出
  • 3年目から支給する場合:
    4回目の支給申請時に、同様に就業規則等の写しを提出

【添付書類(該当がある場合)】

  • (代理人の場合)委任状
  • (常時雇用する労働者の数で中小企業事業主であることを証明する場合)事業所確認票
  • (特定適用事業所である場合)特定適用事業所該当通知書の写し
  • (任意特定適用事業所である場合)任意特定適用事業所該当通知書の写し

労働時間延長メニュー

労働時間延長メニューを選択した場合の申請書類は、以下のとおりです。

【申請書類】

  • キャリアアップ助成金支給申請書(様式第3号)
  • 社会保険適用時処遇改善コース内訳(様式第3号・別添様式6)
  • 支給要件確認申立書(共通要領様式第1号)
  • 支払方法・受取人住所届(※初回または振込口座変更時に提出)

【添付書類(必須)】

  • 雇用契約書または労働条件通知書の写し
  • 賃金台帳の写し
    ※賃金台帳で出勤日数・労働時間数が確認できない場合は、出勤簿やタイムカードの写しを併せて提出

【添付書類(該当がある場合)】

  • (代理人の場合)委任状
  • (常時雇用する労働者の数で中小企業事業主であることを証明する場合)事業所確認票
  • (特定適用事業所である場合)特定適用事業所該当通知書の写し
  • (任意特定適用事業所である場合)任意特定適用事業所該当通知書の写し

併用メニュー

併用メニューを選択した場合の申請書類は、以下のとおりです。

1年目「手当等支給メニュー」

【申請書類】

  • キャリアアップ助成金支給申請書(様式第3号)
  • 社会保険適用時処遇改善コース内訳(様式第3号・別添様式6)
  • 支給要件確認申立書(共通要領様式第1号)
  • 支払方法・受取人住所届(※初回または振込口座変更時に提出)

【添付書類(必須)】

  • 雇用契約書または労働条件通知書の写し
  • 賃金台帳の写し
    ※賃金台帳で出勤日数・労働時間数が確認できない場合は、出勤簿やタイムカードの写しを併せて提出

【添付書類(該当がある場合)】

  • (代理人の場合)委任状
  • (常時雇用する労働者の数で中小企業事業主であることを証明する場合)事業所確認票
  • (特定適用事業所である場合)特定適用事業所該当通知書の写し
  • (任意特定適用事業所である場合)任意特定適用事業所該当通知書の写し

2年目「労働時間延長メニュー」

【申請書類・添付書類】

各様式は、厚生労働省ホームページ「申請様式ダウンロード(キャリアアップ助成金)」からダウンロード可能です(支給申請書の記入例)。

※書式は変更になる場合があるため、ダウンロードの際は必ず最新の様式であるかご確認ください。

また、申請書類の詳細については厚生労働省のパンフレット「令和7年度版キャリアアップ助成金のご案内」(P.57)をご確認ください。

記入漏れや記載不備があると、助成金が受給できない場合があります。

提出前に各様式の記入ルールや添付書類の要件をしっかり確認し、不安がある場合は社労士などの専門家に相談すると安心です。

社会保険適用時処遇改善コース|よくある質問

ここでは、社会保険適用時処遇改善コースに関して、実務担当者からよく寄せられる質問を解説します。

Q.1|新規に雇い入れる非正規雇用労働者や内定後1日も勤務していない労働者も対象になりますか。

A.いいえ、対象にはなりません。

社会保険適用時処遇改善コースの対象者となるには、社会保険の適用日前日から起算して、継続して6か月以上、非正規雇用労働者として雇用されていることが必要です。

「6か月以上の継続雇用」には、実労働が伴っている必要があります。雇入れから6か月未満、内定のみ、未就労の労働者は助成対象になりません。

Q.2|社会保険適用時処遇改善コースでは、助成金はいくら支給されますか。

A.選択するメニューや取り組み年数に応じて支給額は異なります。

以下は、中小企業での取り組みに対する助成額の例です。

メニュー 支給額
※対象労働者1人当たり
支給内訳
手当等支給メニュー
(3年間で取り組んだ場合)
50万円 1年目:20万
2年目:20万
3年目:10万
手当等支給メニュー
(2年間で取り組んだ場合)
50万円 1年目:20万
2年目:30万
労働時間延長メニュー 30万円 1回のみ支給
併用メニュー
(1年目:手当、2年目:延長)
50万円 1年目:20万
2年目:30万

なお、助成金の支給には、それぞれ定められた要件をすべて満たしている必要があります。

各メニューの助成額については、本記事内の「社会保険適用時処遇改善コースの3つのメニューと支給額」にて解説しています。

まとめ|社会保険加入の促進と処遇改善には助成金を活用しましょう

本記事では、「キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)」について、制度の概要から支給条件、各メニューの内容、申請までの流れを詳しく解説しました。

この制度は、短時間労働者の社会保険加入と手取り減少の不安を解消しながら、企業による処遇改善の取り組みを後押しするものです。

一時的な補助金ではなく、離職防止・人材定着・労働条件の明確化といった長期的な安定経営にも寄与する制度といえるでしょう。

ただし、助成金の活用には、計画届の提出や就業規則の整備に加え、労働者ごとのメニュー選択や支給時期の管理など、煩雑な実務対応が必要です。

また、1人につき1メニューのみ選択可能であるため、対象者が多い場合は計画的な運用が求められます。対応に不安がある場合は、社会保険労務士など専門家と連携しながら進めると安心です。

キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)について社労士に相談する

社労士を探す際には、全国6,000以上の事務所(全国の依頼可能な社労士の20%)の社労士が登録する、中小企業福祉事業団の「社労士ナビ」をご活用ください。

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初回相談が無料の社労士も多いため、事務所のスタンスや人柄をしっかり見極めた上で依頼しましょう。

執筆者

中小企業福祉事業団 編集部

 
日本最大級の民間社労士団体として、社労士を介して中小企業を支援する活動を行っています。本サイト「社労士ナビ」は、課題を抱える中小企業が、課題を解決できる社労士を探して、巡り合えるように構築しました。「社労士ナビ」が中小企業の人事・労務課題を解決する一助になれば幸いです。

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