【最新】「同一労働同一賃金ガイドライン」見直しの詳細と企業実務への影響(2025年11月公示)
2025年11月21日、非正規雇用労働者の不合理な待遇改善をさらに推し進めるために、厚生労働省による「同一労働同一賃金ガイドライン」の見直し案が公示されました。
同一労働同一賃金は、パートタイム・有期雇用労働法等により2020年4月1日から(中小企業は2021年4月1日から)適用されていますが、まだ、非正規雇用労働者が正社員でないという理由だけで不合理な待遇差を受けている現実があります。
深刻な労働力不足に直面している現代において、非正規雇用労働者の待遇改善は、単なる法遵守だけでなく、優秀な人材の確保と定着を図るための重要な経営戦略の一つといえます。
今回の見直し案は、これまでの不合理な待遇差による裁判例を反映して、どのような待遇差が「不合理」にあたるのかをより明確化したものです。
本記事では、同一労働同一賃金ガイドライン見直し案の背景や具体的な変更と、企業が直面する実務上の影響、更にはどのような対応を取ればよいかについて詳しく解説します。
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同一労働同一賃金ガイドラインとは

同一労働同一賃金とは、同じ企業内で働くいわゆる正社員と非正規雇用労働者が不合理な待遇差を無くすための取り組みで、2019年4月から順次施行された「働き方改革関連法」の一環として導入されました。
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その同一労働同一賃金の指針となるものが、厚生労働省が作成した「同一労働同一賃金ガイドライン」(正式名称:短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針)です。
同一労働同一賃金ガイドラインの見直しの背景

2025年11月公示の同一労働同一賃金ガイドライン見直し案の背景に基づき、施行後数年が経過して企業実務の運用上の課題や問題点が顕在化してきたことが原因です。
また、同一労働同一賃金ガイドライン施行以降、同一労働同一賃金に関わる重要な最高裁判決が相次ぎました。
これらの判決では、賞与、退職金、各種手当についての不合理性が判断されたのです。
特に、日本郵便事件などの裁判例では、住居手当、扶養手当、休暇などの福利厚生や生活補助的な性質を持つ待遇について、正社員と非正規雇用労働者で差を設けることの合理性が厳格に問われました。
従来のガイドラインではこうした最新の司法判断が十分に反映されていないため、企業の現場ではどこまで対応すればよいかという判断がわかりませんでした。
しかし、従来の同一労働同一賃金ガイドラインではこれらの最新の判決内容を十分に反映しきれていなかったため、裁判例との乖離の解消という意味でも見直しが行われています。
また、従来の同一労働同一賃金ガイドラインでは、抽象的な記載が多く企業ごとに同一労働同一賃金の判断基準にばらつきがあったため、より明確な記載が必要となったのです。
今回の同一労働同一賃金ガイドラインの見直しにより、企業は個々の手当の支給目的にまで踏み込んで、緻密な制度設計と説明責任を求められることになります。
同一労働同一賃金ガイドラインの主な変更点

2025年11月21日に厚生労働省により公示された同一労働同一賃金ガイドラインの見直しは、非正規雇用労働者と正社員との不合理な待遇差の解消を目的としたものです。
今回の見直し案では、今まではガイドライン上に十分に示されていなかった待遇について、具体的な判断基準が明記されました。
具体的に記載された待遇は、退職手当、家族手当、住宅手当、無事故手当、夏季冬季休暇、賞与、病気休職・休暇です。
他の変更点としては、無期雇用フルタイム労働者(無期契約労働者のほか、勤務地限定正社員、職務限定正社員、短時間正社員も該当する)の記載、正社員待遇の引き下げに対する規制強化、待遇に関する説明義務の改善などです。
ここでは、同一労働同一賃金ガイドラインの主な変更点について、一つ一つ見ていきます。
待遇に関する変更点の明文化
今回の同一労働同一賃金ガイドラインの見直し案の中心となるのが、各種手当や休暇、賞与などの待遇について、具体的にどのような場合に不合理な待遇差になるかを示した点です。
裁判例で示されてきた待遇項目ごとの変更のポイントを、一つ一つ見ていきます。
賞与
賞与については、今回の同一労働同一賃金ガイドラインの見直しにより以下の点が追加されています。
賞与とは、労務の対価の後払い、功労報償、生活費の補助、労働者の労働意欲の向上などの様々な性質および目的が含まれるものです。
賞与のこのような性質や目的が正社員と同様に短時間・有期雇用労働者、派遣労働者にも当てはまるにもかかわらず、正社員と同様の賞与を支給しなければ不合理と判断されます。
ただし、正社員よりも基本給を高く支給しているなどの事情がある場合は、この限りではありません。
賞与については、長澤運輸事件最高裁判決を踏まえて追記されました。
この判決は、賞与に関して不合理と認められる待遇の相違を具体的に判示したものではありません。
しかし、賞与の性質や目的などについては言及していて、この内容を留意すべき事項として記載したものです。
退職手当
これまで退職金は、労務の対価の後払いや、功労報償等を前提として、短時間・有期雇用労働者、派遣労働者には支給しなくても不合理にはならないとされていました。
しかし、今回の同一労働同一賃金ガイドラインの見直し案により、以下の点が追加されています。
業務内容や責任の範囲などが正社員と同様な短時間・有期雇用労働者、派遣労働者に対して、退職手当を支給しないことは不合理と判断されます。
ただし、正社員よりも基本給を高く支給しているなどの事情がある場合は、この限りではありません。
退職手当については、メトロコマース事件最高裁判決を踏まえて追記されました。
この判決は、退職手当に関して不合理と認められる待遇の相違を具体的に判示したものではありません。
しかし、退職手当の性質や目的などについては言及していて、この内容を留意すべき事項として記載したものです。
家族手当
家族手当とは、従業員の生活費を補助する属人的な手当です。
労働契約の更新を何度も繰り返しているなど、継続的な勤務が見込まれる短時間・有期雇用労働者、派遣労働者には、正社員と同一の家族手当を支給しなければならないとガイドラインに追記されました。
また、日本郵便(大阪)事件最高裁判決を踏まえて、以下の問題とならない例、問題となる例が同一労働同一賃金ガイドラインに追記されました。
問題とならない例
- 正社員には家族手当を支給しているが、労働契約の更新を繰り返していないなど継続的な勤務が見込まれない短時間・有期雇用労働者、派遣労働者には家族手当を支給していない場合。
問題となる例
- 正社員には家族手当を支給しているが、労働契約の更新を繰り返しているなど継続的な勤務が見込まれる短時間・有期雇用労働者、派遣労働者には家族手当を支給していない場合。
他にも、配偶者手当については、特に女性の短時間労働者の就業調整の要因となっているため、労使の話合いによって働き方に中立的な制度となるよう見直すことが望まれると記載されました。
住宅手当
住宅手当は、家族手当と同様に生活費補助の性格を持つ手当です。
今回の同一労働同一賃金ガイドラインの見直し案では、転居を伴う配置の変更がある場合に、短時間・有期雇用労働者、派遣労働者には、正社員と同一の住宅手当を支給しなければならないと追記されました。
また、ハマキョウレックス事件最高裁判決などを踏まえて、以下の問題とならない例、問題となる例が同一労働同一賃金ガイドラインに追記されました。
問題とならない例
- 転居を伴う配置の変更が見込まれる正社員に住宅手当を支給しているが、転居を伴う配置の変更が見込まれない短時間・有期雇用労働者、派遣労働者には住宅手当を支給していない場合。
問題となる例
- 転居を伴う配置の変更が見込まれることを理由として正社員に住宅手当を支給しているが、転居を伴う配置の変更が見込まれない短時間・有期雇用労働者、派遣労働者には住宅手当を支給しておらず、実態として正社員に対しても、転居を伴う配置の変更を命じていない場合。
他にも、転居を伴う配置の変更の有無にかかわらず支給される住宅手当は、正社員に支給して、短時間・有期雇用労働者、派遣労働者には支給しないなど不合理とならないように留意すべきと記載されました。
無事故手当
無事故手当とは、運送業などで支給され、安全運転を促し事故による企業の損失を防止することを目的とした手当です。
今回の同一労働同一賃金ガイドラインの見直し案では、正社員と業務の内容が同一の短時間・有期雇用労働者、派遣労働者には、正社員と同一の無事故手当を支給しなければならないとしています。
この無事故手当は、ハマキョウレックス事件最高裁判決を踏まえて、同一労働同一賃金ガイドラインに追記されました。
夏季冬季休暇
今回の同一労働同一賃金ガイドラインの見直し案では、夏季冬季休暇についても記載されています。
今回の同一労働同一賃金ガイドラインの見直し案では、短時間・有期雇用労働者、派遣労働者にも、正社員と同一の夏季冬季休暇を付与しなければならないとしています。
日本郵便(佐賀)事件最高裁判決を踏まえて、以下の問題となる例が同一労働同一賃金ガイドラインに追記されました。
問題となる例
- 繁忙期に限定された短期間の勤務ではない有期雇用労働者、繁忙期に限定された短期間の派遣就業のために派遣されていない派遣労働者、協定対象派遣労働者に対し、正社員と同一の夏季冬季休暇を付与していない場合。
病気休職・病気休暇
病気休職については、今回の同一労働同一賃金ガイドラインの見直し案で、病気休職(療養への専念を目的として付与する病気休暇を含む。以下同じ。)と括弧の中の文言が追記されました。
見直し前の同一労働同一賃金ガイドラインには、有期を除く短時間労働者、有期雇用労働者、派遣労働者にも病気休職の取得を認めなければならないとしていました。
見直し後の同一労働同一賃金ガイドラインでは、この文言に加えてさらに日本郵便(東京)事件最高裁判決を踏まえて以下の趣旨の文言を追記しています。
正社員に病気休職期間の給与の保障を行う場合には、継続的な勤務が見込まれる短時間・有期雇用労働者、派遣労働者にも正社員と同一の給与の保障を行わなければなりません。
日本郵便(東京)事件の最高裁判決は、病気休暇中の給与の保障に関するものです。
また、以下の問題となる例についても、同一労働同一賃金ガイドラインに追記されました。
問題となる例
- 正社員には病気休職期間に係る給与の保障を行っているが、継続的な勤務が見込まれる有期雇用労働者、派遣労働者には病気休職期間に係る給与の保障を行っていない場合。
さらに、第23回同一労働同一賃金部会における意見を踏まえて、同一労働同一賃金ガイドラインに以下が追記されました。
有期雇用を除く短時間労働者である派遣労働者は、派遣就業期間の終了後であっても正社員と同一の病気休職の取得を認めなければなりません。
また、有期雇用である派遣労働者についても、派遣就業期間の終了後であっても労働契約が終了するまでの期間を踏まえて、正社員と同一の病気休職の取得を認めなければなりません。
褒賞
褒賞とは、永年勤続表彰、改善提案への報奨金、社内表彰制度などです。
今回の同一労働同一賃金ガイドラインの見直し案では、メトロコマース事件高裁判決を踏まえて以下が追記されました。
一定期間勤続した労働者に付与する褒賞については、正社員と同一の期間勤続した短時間・有期雇用労働者、派遣労働者には、正社員と同一の褒賞を付与しなければなりません。
福利厚生施設
今回の同一労働同一賃金ガイドラインの見直し案では、正社員と同じ事業所で働く短時間・有期雇用労働者、派遣労働者には、正社員と同じ給食施設、休憩室および更衣室の利用を認めなければならないとしています。
また、福利厚生施設の利用料金や割引率等の利用条件についても、正社員と短時間・有期雇用労働者、派遣労働者との間で不合理と認められる相違を設けてはならないと追記されました。
無期雇用フルタイム労働者についての記載
今回の同一労働同一賃金ガイドラインの見直し案では、無期雇用フルタイム労働者についての記載が新たに追記されました。
所定労働時間が正社員と同一で、かつ事業主と期間の定めのない労働契約を締結している労働者は、短時間・有期雇用労働者には該当しません。
そのため、短時間・有期雇用労働法が直接適用されるわけではありません。
しかし、実態として正社員と待遇差がある場合には、以下の事項に十分留意する必要があります。
また、勤務地限定正社員、職務限定正社員、短時間正社員についても、同様です。
- 労働契約法第3条第2項の規定により、労働契約は、就業の実態に応じて正社員との均衡を考慮しつつ締結または変更されなければならないこと
- 正社員との均衡の考慮に当たっては、同一労働同一賃金ガイドラインの趣旨が考慮されること
- 使用者は就業の実態に応じて、正社員との均衡を考慮した事項について当該労働者に説明するよう努めなければならないこと
正社員の待遇引き下げに対する規制強化
同一労働同一賃金ガイドラインは、正社員と非正規雇用労働者との不合理な待遇差の解消を目的としたものです。
今回の同一労働同一賃金ガイドラインの見直し案では、この待遇差是正のために正社員の労働条件を不利益に変更することは望ましくないと追記しています。
また、この不合理な待遇差の解消をするためには、短時間・有期雇用労働者、派遣労働者の労働条件の改善を図ることが求められると記載されています。
企業実務への影響と求められる対応

今回の同一労働同一賃金ガイドラインの見直し案は、単なる指針の追加にとどまりません。
最高裁判決の考え方が明文化されたことにより、企業はこれまで以上に客観的な根拠に基づいた制度設計が必要です。
ここでは、同一労働同一賃金ガイドラインの見直しが、具体的にどのような影響があり、どのような対応が必要になるのかについて解説していきます。
不合理な待遇差の再確認と制度設計の見直し
今回のガイドラインの見直し案では、不合理かどうかの判断が難しかった住宅手当、家族手当、無事故手当、夏季冬季休暇、病気休職などについて不合理かどうかの具体的な考え方が示されました。
企業実務においては、同一労働同一賃金ガイドラインの見直しを基に、各手当や制度を改めて見直して定義し直すことが必要です。
そのため、賃金規程、諸手当制度を見直して、支給目的や算定根拠が不合理になっていないかを確認しなければなりません。
例えば、継続的な勤務が見込まれる非正規雇用労働者には、正社員と同一の家族手当を支給しているかなどの点検確認になります。
正社員だから手当を一律に支給して、非正規雇用労働者だから手当を一律に支給しないという運用になっている場合、ガイドライン見直し後は法的リスクが高いものとなるため注意が必要です。
正社員の待遇の引き下げリスクへの実務対応
今回のガイドライン見直し案では、非正規雇用労働者との均衡を図るために正社員の待遇を引き下げることについて、慎重な判断を求めるように示されています。
いくら不合理な待遇差の解消の目的であっても、正社員の手当などを廃止、縮小することは、労使のトラブルや正社員の士気低下につながる可能性が高くなります。
企業の対応としては、不合理な待遇差を是正するためには、非正規雇用労働者への手当などの拡充を基本として検討していくと、実務上対応しやすくなります。
それでも制度の維持が困難な場合には、経営上の必要性や代替措置に関する労働者への丁寧な説明と合意形成が必要です。
職務内容と人材活用の整理
同一労働同一賃金については、職務内容、職務内容や配置の変更範囲、人材活用といった要素が重要になります。
同一労働同一賃金ガイドラインの見直しを機に、これらの要素を職務記述書や人事制度資料として明文化しておくことも重要です。
実態として正社員と同様の業務を担っている非正規雇用労働者が、不合理な評価による不合理な待遇差をされないようにするためにも、資料の明文化は大切なことです。
特に賞与や退職金については、ガイドラインの見直し前は企業の裁量が大きいと考えられていました。
しかし、同一労働同一賃金ガイドラインの見直しにより、 職務内容や業績への貢献が正社員と同様の非正規雇用労働者には、職務内容や業績への貢献に応じた支給をしなければならなくなりました。
そのためにも、職務内容、職務内容や配置の変更範囲、人材活用についての資料を明文化することは大切なことなのです。
説明責任の強化
パートタイム・有期雇用労働法では、労働者からの求めがあった場合には、企業は待遇差の内容や理由を説明する義務があります。
しかし、実態としては、明確に説明できていないケースが少なくありませんでした。
今回の同一労働同一賃金ガイドラインの見直し案により、非正規雇用労働者から求められた場合の説明責任が強化されたため、会社としては、あらかじめ就業規則や賃金規程の規定内容に論理的な根拠を備えておくことが必要不可欠です。
非正規雇用労働者からの説明を拒否したり、不十分な回答しかできなかったりする場合には、行政指導や訴訟リスクに直結する可能性があることを認識しなければなりません。
無期雇用フルタイム労働者への対応
今回の同一労働同一賃金ガイドラインの見直し案により、多様な正社員を含めた無期雇用フルタイム労働者の位置づけが新たに整理されました。
これまでは正社員か非正規雇用労働者かという比較が中心でしたが、現状は「多様な正社員」と呼ばれる勤務地限定正社員、職務限定正社員、短時間正社員といった中間的な労働者層が増えています。
ガイドラインの見直しでは、無期雇用フルタイム労働者との比較においても待遇差の合理性が問われることが明確化されています。
そのため、無期雇用フルタイム労働者に関する基本給や手当の不合理な待遇差の再検証も必要です。
まとめ|2025年11月公示「同一労働同一賃金ガイドライン見直し」案に対応できる組織作りが必要
2025年11月公示の同一労働同一賃金ガイドラインの見直し案に基づき、正式な施行に備えて企業は具体的で厳格な対応と労働者への十分な説明に向けた準備が必要です。
特に退職手当や賞与について、現状正社員と非正規雇用労働者との間で不合理な待遇差がある企業も多いでしょう。
今回の同一労働同一賃金ガイドラインの見直し案により待遇差を解消する基準が明確になったため、この見直しに対応できる強い組織作りが必要です。
今後、最終的な改正内容や施行時期が決定される見込みですが、企業としては、できることから早めに着手していくと良いでしょう。
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