THP指針見直しで考える健康経営と両立支援の実務対応|社労士 矢萩 大輔の視点
健康で持続的に働ける環境づくりのための確認事項
この記事への視点を提供する社労士
- 社会保険労務士 矢萩大輔(有限会社 人事・労務/東京都台東区)
この記事を読んで分かること
- THP指針の見直しを、健康経営や両立支援の見直しにつなげて考えられる
- 健康施策を従業員に伝えるときの、周知の工夫を確認できる
- 健康状態を把握した後の、相談先や勤務調整の考え方を整理できる
健康経営や両立支援では、制度を整えるだけでなく、従業員が必要な情報を理解し、相談や制度利用に進めるかが課題になります。THP指針の見直しは、企業が健康保持増進の取組みを職場の運用にどう結び付けるかを考えるきっかけになります。まずは、厚労省によるTHP指針見直しの動きを紹介します。
THP指針見直しへ議論
厚生労働省は4月24日、事業場における労働者の健康保持増進の在り方に関する検討会(座長=髙田礼子聖マリアンナ医科大学教授)を設置し、THP指針(事業場における労働者の健康保持増進のための指針)の見直しに着手した。政府が掲げる「攻めの予防医療」の推進に向け、がんや歯周疾患、女性特有の健康課題への対応について、指針で求める健康保持増進措置に盛り込むことなどを検討する。健康保険組合など医療保険者との連携のあり方も論点とする。
記事提供:労働新聞社
- 記事提供企業 -
THP指針の見直しは、健康づくりを会社の制度としてどう扱うかだけでなく、従業員本人の理解や行動とどう結び付けるかにも関わります。がん、歯周疾患、女性特有の健康課題が論点に挙がることで、企業は健康状態を把握した後の勤務調整や相談先の案内を考えやすくなります。ここからは、制度と運用のつながりを社労士の立場から整理します。
健康保持増進を制度から職場の運用へつなげる視点
厚生労働省がTHP指針の見直しに着手したという動きは、健康づくり施策の対象を広げる話にとどまりません。がんや歯周疾患、女性特有の健康課題が検討対象に挙がることで、企業は従業員の健康状態を把握した後、勤務調整や相談先の案内をどのように行うかを考える必要があります。両立支援や健康経営として捉えると、制度を設けているかだけでなく、従業員が必要な情報を理解し、相談や制度利用に進めるかが大切になります。
記事では、健康保持増進措置に新たな課題を盛り込むことや、健康保険組合など医療保険者との連携が論点とされています。会社だけで健康管理を抱え込まず、健康保険組合など外部の支援を、従業員への案内や相談につなげていくことも求められます。企業実務では、健康診断や保健指導の結果を記録するだけでなく、その後に従業員へどの情報を伝え、どの相談先を案内するかまで整理しておくことが求められます。
一方で、制度はあっても、その目的が現場で十分に共有されていないことがあります。健康づくりの制度が社内規程や案内資料に書かれていても、従業員が自分に関係する制度として理解していなければ、必要なタイミングで相談や利用につながりません。制度周知とは、社内ポータルや掲示で知らせることにとどまらず、従業員が自分の健康状態や働き方と結び付けて理解できるように伝えることです。
また、制度を厳格に運用しようとするほど、提出書類や手続きの確認に意識が向き、健康で働き続けるための支援という目的が伝わりにくくなることもあります。人事労務担当者や管理職が、どこまで把握し、どの段階で産業保健スタッフや外部機関に相談するのかを共有していないと、対応が担当者任せになりやすくなります。その結果、従業員は、困ったときに誰へ相談すればよいのか、どの制度を使えるのかが分かりにくくなります。
企業がまず意識したいのは、健康状態を把握した後に、どのような対応につなげるかを決めておくことです。把握した情報を人事評価や配置判断に直結させるのではなく、勤務調整、相談窓口、医療保険者との連携、休業や復職時の説明など、働き続けるための選択肢を整理しておく必要があります。健康経営を掲げる場合も、制度の存在を示すだけでなく、従業員が利用しやすい手順と、会社が判断に迷う場面で確認する相手を決めておくことが求められます。
THP指針の見直しは、企業に新しい制度を次々に足すことだけを求めるものではありません。むしろ、既にある健康診断、面談、相談窓口、両立支援の仕組みが、従業員本人の理解と実際の働き方に結び付いているかを見直す機会になります。健康に関する取組みを手続きとして終わらせず、働き続けるための説明と支援につなげられるかが、今後の確認点になります。
