労働保険事務組合とは?中小企業向けに分かりやすく制度・メリットを解説
労働保険事務組合が何をする団体なのかを正しく理解している中小企業経営者や人事担当者は意外と多くありません。労働保険(労災保険と雇用保険を合わせた総称)の手続きについては専門用語が多いことから、日頃の手続きや毎年の年度更新業務に負担を感じている方も多いのではないでしょうか。
本記事では、厚生労働省や各都道府県労働局が公開している情報をもとに、労働保険事務組合とは何かを中小企業向けに分かりやすく解説します。制度の基本からメリット・注意点、社会保険労務士との違い、さらには具体的な選び方の基準まで、実務で役立つ情報を網羅しています。
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労働保険事務組合とは何か

労働保険事務組合とは、中小企業などの事業主に代わって、労働保険に関する事務手続きを行うことについて、厚生労働大臣の認可を受けた団体です。(参照:厚生労働省「労働保険事務組合制度」)
この制度は、厚生労働省が所管する労働保険制度の一部として位置づけられており、法律に基づいて運営されています。
制度の歴史と背景
労働保険事務組合制度は、1972年(昭和47年)の労働保険の保険料の徴収等に関する法律(労働保険徴収法)の施行とともに創設されました。それまで別々に運用されていた労災保険と雇用保険の保険料徴収業務を一元化する際、中小企業の事務負担軽減を図るため、この制度が導入されたのです。
制度創設から50年以上が経過し、令和6年3月末現在では、全国で約9,000の労働保険事務組合があり、約140万事業所が加入しています。事業協同組合、商工会議所、商工会や各事業主団体などが母体となっているケースが多く、地域の中小企業支援の重要な役割を担っています。
特に、事業主や家族従事者が労災保険に加入できる特別加入制度は、事業主がこの労働保険事務組合に労働保険に関する事務を委託している場合のみ加入できる仕組みとなっており、中小企業経営者にとって重要なセーフティネットとなっています。(参照:厚生労働省「特別加入制度のしおり」)
労働保険事務組合に労働保険の事務処理を委託できる企業規模の範囲(業種別の具体的な基準)
労働保険事務組合に労働保険の事務処理を委託できるのは、以下のとおり、常時使用する労働者数が一定規模以下の中小企業です。
| 業種 | 常時使用する労働者数 |
|---|---|
| 金融業・保険業・不動産業・小売業 | 50人以下 |
| 卸売業・サービス業 | 100人以下 |
| 上記以外の業種 (製造業・建設業・運送業など) |
300人以下 |
注意点:「常時使用する労働者数」には、正社員だけでなく、パートタイマーやアルバイトも含まれます。ただし、役員や事業主本人は含みません。
これらの基準を超える労働者を使用する企業は、原則として労働保険事務組合に労働保険の事務処理を委託することはできません。
労働保険とは(労災保険と雇用保険
労働保険とは、次の2つの保険を総称した呼び方です。
| 保険の種類 | 補償内容 |
|---|---|
| 労災保険 (労働者災害補償保険) |
業務中や通勤途中の事故等による、病気、ケガに対して補償を行う制度。治療費、休業補償、障害補償、遺族補償などが支給される。 |
| 雇用保険 | 失業した場合や育児・介護休業時などに給付を行う制度。基本手当(失業給付)、育児休業給付、介護休業給付、教育訓練給付などがある。 |
労災保険は労働者を一人でも雇っている事業所、雇用保険は一定の要件(※)に該当する労働者を雇っている事業所であれば、原則として加入義務があります。
※1週間の所定労働時間が20時間以上で、雇用期間が31日以上見込まれること
労働保険事務組合でできること
労働保険事務組合に加入すると、事業主は労働保険に関する煩雑な手続きを、自社で行う必要がなくなります。制度上、事務組合が代行できる業務は明確に決められており、主に次のものがあげられます。
代行できる具体的な業務内容
- 労働保険の成立届の作成・提出
- 年度更新(保険料の計算・申告・納付)
- 雇用保険の資格取得届・喪失届の提出
- 各種変更届の作成・提出
- 事業主や役員の労災保険特別加入手続き
※なお、給付金などの請求手続きは労働保険事務組合には委託できないため、各企業にて行う必要があります。(参照:厚生労働省「労働保険事務組合制度」)
年度更新の具体的な流れとスケジュール
労働保険では、毎年1回(6月1日から7月10日まで)「年度更新」と呼ばれる重要な手続きがあります。これは、前年度の賃金総額に基づいて労働保険料を精算し、当年度の概算保険料を申告・納付する手続きです。
年度更新で行う作業
- 前年度(4月1日〜3月31日)の賃金総額を集計
- 前年度の確定保険料を計算(賃金総額×保険料率※)
※保険料率は業種によって異なります。 - 当年度の概算保険料を算定
- 申告書を作成・提出
- 保険料を納付(一括または分割)
労働保険事務組合に労働保険に関する事務を委託していれば、これらの作業をすべて任せることができ、期限の管理も含めて安心して対応できます。事業主は、賃金台帳などの資料を提供するだけで済みます。
事業主や役員が加入できる「特別加入制度」の詳細
労働保険事務組合に労働保険に関する事務を委託する際の大きな特徴の一つが、中小企業の事業主や役員などが労災保険に加入できる特別加入制度を利用できる点です。通常、労災保険は「労働者」を対象とする制度のため、法人の代表者や個人事業主などは原則として加入できません。
しかし、中小企業では、社長や役員自身などが労働者と同じ業務を行うケースも多く、万一の事故に備える必要性が高いのが実情です。労働保険事務組合への労働保険事務の委託を通じて労災保険の特別加入を行うことで、次のような立場の人も労災補償の対象となります。
- 中小企業の事業主・役員
- 個人事業主
- 家族従事者(配偶者や同居の親族で、事業に従事する者)
労働保険事務組合を利用するメリット

1. 事務負担を大幅に軽減できる
労働保険に関する手続きは、以下のように多岐にわたります。これらをすべて自社で対応しようとすると、専門知識の習得や書類作成に多くの時間を取られてしまいます。
- 新規に従業員を雇った際の雇用保険の資格取得の届出(雇入れの日の翌月10日まで)(参照:厚生労働省「手続き一覧表」)
- 離職時の雇用保険の資格喪失の届出(離職日の翌日から10日以内)
- 毎年必ず発生する年度更新
- 事業内容変更時の届出
人事・総務の専任担当者がいない小規模事業者にとっては、労働保険事務組合への委託により実務負担の軽減効果が非常に大きいといえます。
2. 手続きミスや期限遅れのリスクを減らせる
労働保険の手続きには、提出期限が厳密に定められているものが多く、遅延や記載ミスがあると、是正指導や追加納付が求められることがあります。
労働保険事務組合は、日常的に労働保険事務を扱っているため、以下の点に精通しています。
- 法改正への対応(毎年4月に保険料率が変更される可能性あり)
- 保険料率の変更(業種によって異なる)
- 提出期限の管理(年度更新:7月10日、雇用保険の資格取得届:入社翌月の10日まで、など)
- 書類作成の実務ノウハウ(記入例、添付書類の要否など)
3. 事業主・役員などが労災保険に加入できる
労働保険に関する事務を労働保険事務組合に委託した場合、前述の特別加入制度により、事業主や役員などが労災保険に加入できます。これは、一般的な労働者と同様に、業務中あるいは通勤中の事故等によるケガや病気に対して、労災保険による補償を受けられるようになる制度です。
主な補償内容
- 療養(補償)給付:治療費の全額
- 休業(補償)給付:休業4日目から※給付基礎日額の60%相当額、休業特別支給金を合わせると80%相当額(参照:厚生労働省「労災保険給付の概要」)
- 障害(補償)給付:後遺障害が残った場合
- 遺族(補償)給付:加入者が死亡した場合
- 介護(補償)給付:障害により介護が必要な場合
現場作業を伴う業種や、経営者自身が実務を担うケースでは、万が一に備える手段として大きなメリットになります。特に建設業、製造業、運送業などでは、特別加入率が高い傾向にあります。
4. 労働保険料の分割納付が可能
労働保険事務組合に労働保険に関する事務を委託している場合、保険料の金額に係わらず労働保険料を3回に分割して納付することができます(労働保険事務組合に委託していない場合は、概算保険料が40万円以上(労災保険か雇用保険のどちらか一方のみの加入の場合は20万円以上)の場合のみ分割納付が可能になります)。
この制度により、一度に多額の保険料を支払う必要がなくなり、資金繰りが楽になるというメリットがあります。
労働保険事務組合に労働保険に関する事務を委託する際の注意点
1. すべての事業所が労働保険に関する事務を委託できるわけではない
前述の業種別の従業員数基準を超える場合は労働保険に関する事務を委託できません。また、地域を限定している組合もあります。
委託可否の確認は必須です。事前に事務組合や各都道府県労働局に問い合わせましょう。
2. 手数料・会費が発生する
労働保険料とは別に、それぞれの組合が定める費用が発生します。自社で手続きを行う場合には発生しないコストのため、「事務負担の軽減」と「費用」のバランスを考えた判断が必要です。
判断基準:人事担当者の時給×年間作業時間と比較してみましょう。
3. すべての労務手続きを任せられるわけではない
労働保険事務組合が代行できるのは、あくまで労働保険に関する事務手続きに限られます。例えば、次のような業務は対象外です。
| 対象外の業務 | 対応が必要な専門家 |
|---|---|
| 労災保険・雇用保険の給付手続き | 社会保険労務士 |
| 就業規則の作成・変更 | 社会保険労務士 |
| 労働トラブルへの対応 (解雇、賃金未払いなど) |
社会保険労務士・弁護士 |
| 人事評価制度の設計 | 社会保険労務士・人事コンサルタント |
| 社会保険(健康保険・厚生年金)の手続き | 社会保険労務士 |
重要:「すべての労務に関する業務を任せられる」と誤解しないよう注意が必要です。労働保険以外の労務に関する課題については、別途専門家への依頼を検討する必要があります。
4. 事業主自身の責任がなくなるわけではない
労働保険事務組合に労働保険に関する事務を委託しても、その結果に関する最終的な責任は事業主にあります。虚偽申告や賃金の申告漏れなどがあった場合、責任を問われるのは事業主本人です。
事務組合に任せきりにするのではなく、提出内容や保険料額については、一定の理解と確認を行う姿勢が重要です。特に、賃金総額や従業員数の変更は、正確に伝える必要があります。
社会保険労務士との違い
労働保険事務組合と混同されやすいものとして、社会保険労務士(社労士)があります。どちらも労務・労働保険分野の専門家ですが、役割・法的立場・対応可能な業務の範囲は大きく異なります。
| 比較項目 | 労働保険事務組合 | 社会保険労務士 |
|---|---|---|
| 法的位置づけ | 厚生労働大臣の認可を受けた団体 (参照:厚生労働省「労働保険事務組合制度」) |
国家資格を持つ個人 |
| 主な役割 | 労働保険事務の代行 | 労務、労働・社会保険全般の専門家 |
| 対応範囲 | 労働保険(労災保険・雇用保険)のみ | 労働保険+社会保険+労務相談等、人事・労務全般 |
| 就業規則作成 | ✗ 対応不可 | ○ 対応可能 |
| 労務トラブル対応 | ✗ 対応不可 | ○ 対応可能 |
| 人事制度設計 | ✗ 対応不可 | ○ 対応可能 |
| 特別加入制度 | ○ 労働保険事務組合への委託により加入可能 | △ 労働保険事務組合への委託を通じて加入可能になる場合あり |
結論:事務組合=労働保険事務の代行に特化 / 社労士=労働・社会保険全般の専門家
どちらを選ぶべきか(具体的な判断基準)
中小企業がどちらを選ぶべきかは、自社の課題が「事務」か「人事・労務全体」かによって変わります。以下の判断基準を参考にしてください。
労働保険事務組合が向いているケース
- 手続きの負担を減らしたい
- 労働保険の事務だけ任せたい
- 事業主自身が労災保険に加入したい
社会保険労務士が向いているケース
- 労働保険の手続きだけでなく、色々と相談したい
- 労務トラブルを防ぎたい
- 就業規則や人事制度を整えたい
併用パターンも選択肢
- 労働保険事務組合+社労士を併用している企業もあり、目的に応じて使い分けることが現実的な選択肢となります。例えば、日常の労働保険事務は事務組合に、就業規則や労務相談は社労士に、という形で役割分担する方法です。
労働保険事務組合の選び方(具体的なチェックリスト)

労働保険事務組合を選ぶ際は、以下の5つの観点から総合的に判断しましょう。それぞれの項目について、具体的なチェックポイントを示します。
1. 運営の安定性・信頼性
- 厚生労働大臣の認可を受けているか(必須)
- 設立年数・加入事業所数
- 母体となる団体の実績(商工会議所、商工会、業界団体など)
2. 費用の透明性
- 入会金・年会費・事務手数料が明確に提示されているか
- 追加費用の発生条件が明示されているか(特別加入、従業員増加時など)
- 費用の計算方法が理解しやすいか
3. サービス内容の明確さ
- 代行できる業務の範囲が具体的に説明されているか
- 対応できない業務も同様に説明されているか
- 組合特有のサービスがあるか
4. 窓口対応の質
- 担当者の専門知識レベル
- 問い合わせへの対応速度
- 定期的な情報提供(法改正・期限周知など)があるか
5. 契約条件の明確さ
- 最低契約期間の有無
- 脱退時の手数料精算方法(月割り計算か、一括返金なしか)
- 契約書の内容が分かりやすいか(法律用語だらけではないか)
- 契約更新時のルールが明確か
労働保険事務組合はどんな企業に向いているか
向いている企業の特徴
- 人事・総務の専任担当者がいない
- 経営者自身が現場作業に入ることが多い(労災保険の特別加入制度を活用したい)
- 労働保険の手続きに毎年負担を感じている(年度更新が特に大変)
- 法改正や手続きミスが不安
- 建設業・製造業・運送業など、業務上の事故リスクが高い業種
- 労働保険料を3回に分割して納付したい
労働保険事務組合への事務委託手続きの方法と流れ
事務委託開始までの具体的なステップ
- ステップ1:労働保険事務組合へ問い合わせ(電話・ホームページから)
- ステップ2:加入要件の確認・必要書類の案内(面談または電話で説明を受ける)
- ステップ3:入会申込書・必要書類の提出
- ステップ4:入会金・会費等の支払い
- ステップ5:労働保険事務の委託開始
必要書類(一般的なケース)
- 労働保険番号が分かる書類(労働保険関係成立届の控え、保険料申告書など)
- 法人登記簿謄本(法人の場合、3ヶ月以内のもの)
- 代表者の住民票(個人事業主の場合、3ヶ月以内のもの)
- 事業実態・住所などの営業実態が分かる書類
- 直近の賃金台帳・出勤簿(コピー可)
- 労働者名簿(氏名・生年月日・入社日などを記載) など
事務委託を行う労働保険事務組合により異なりますので、詳細についてはそれぞれの労働保険事務組合に確認しましょう。
加入のタイミング
労働保険事務組合への事務委託開始は、年度途中でも可能です。ただし、4月(年度初め)のタイミングがスムーズです。
よくある質問(Q&A)

Q1:役員のみの会社や個人事業主でも事務委託できますか?
A:役員のみの会社や、個人事業主のみの場合は事務委託できません。従業員を1人でも雇っている場合は、労働保険の適用事業所となるため、事務委託が可能です。
Q2:労働保険事務組合への事務委託を途中でやめることはできますか?
A:多くの場合、可能です。ただし、タイミングや手続き方法は事務組合ごとに定められており、年度途中での実施可否、事務手数料の精算方法、特別加入の扱いなどに注意が必要です。
重要:契約前に、条件を確認しておくことをおすすめします。
Q3:費用を安く抑える方法はありますか?
A:以下の方法を検討してみると良いでしょう。
- 複数の事務組合から見積もりを取る
- 商工会議所など公的な団体が運営する事務組合を検討する
- 従業員数が少ない場合は、定額制の事務組合を選ぶ
おわりに:労働保険事務組合を正しく理解しよう
労働保険事務組合とは、中小企業の事業主に代わって、労働保険に関する事務手続きを代行するために設けられた団体です。厚生労働省や都道府県労働局の監督のもと運営されており、特に事務負担の軽減や、事業主自身が労災保険に加入できる点が大きな特徴です。
一方で、すべての企業に向いているわけではなく、費用が発生する点や、対応できる業務範囲が限られている点には注意が必要です。
本記事で紹介した選び方の基準を参考に、自社の課題が「労働保険事務」にあるのか、「人事・労務全体」にあるのかを整理することが重要になります。
労働保険事務組合とは何かを正しく理解したうえで、自社に合った形で制度を活用できれば、労働保険に関する事務手続きの負担を減らし、安心して事業に専念できる環境を整えることができるでしょう。
労働保険事務組合について社労士に相談する
社労士を探す際には、全国6,000以上の事務所(全国の依頼可能な社労士の20%)の社労士が登録する、中小企業福祉事業団の「社労士ナビ」をご活用ください。
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初回相談が無料の社労士も多いため、事務所のスタンスや人柄をしっかり見極めた上で依頼しましょう。