宿直の労働時間管理―実際の対応や負荷をどう把握するか|社労士 立川 久代の視点
不時対応や仮眠中断、客観的な記録から考える労働時間管理
この記事への視点を提供する社労士
- 社会保険労務士 立川久代(社会保険労務士法人アクア事務所t/千葉県木更津市)
この記事を読んで分かること
- 宿直の労働時間管理では、客観的な記録をもとに実際の勤務状況を把握することが重要だと分かる
- 宿直や夜間対応では、労働時間の長さだけでなく、不時対応や休息の中断も含めて勤務負荷を捉える必要があることが分かる
宿直や夜間対応を設けている職場では、勤務表に表れる時間だけでは、実際にどの程度の対応が発生し、休息がどのように確保されているかを捉えにくいことがあります。予定された勤務区分と実際の働き方が一致しているかを確認することは、労働時間管理だけでなく、従業員の負荷を把握するうえでも大切です。今回は、医師の宿直の労働時間性が争われた裁判例のハイライトを取り上げます。
「国・三田労基署長(くも膜下出血)事件・東京地判令8.3.16―業務起因性判断における医師の宿直の労働時間性」小山敬晴大分大学准教授
(『労働法律旬報』2026年9月下旬号(2112号)54-55頁のハイライト)
本稿で扱われている国・三田労基署長(くも膜下出血)事件は、医師がくも膜下出血を発症し労災申請したが、不支給とされたため提訴した事案です。裁判所は、院内ログ等に基づき宿直中の不時対応や実働時間を労働時間と認定し、業務の過重性と業務起因性を認めて不支給処分を取り消しました。
小山准教授は、本判決の特徴は、仮眠時間等の不活動時間を含む宿直の全体の時間が労働時間と認定されたことであると指摘されています。医師の宿直の全体の時間が労働時間と認定された事案はこれが2例目ではないかとし、労災給付請求事案としての先例的価値を有するものと評価されています。
本件では、カルテの閲覧・入力記録、院内PCやドライブへのアクセスログ、メール送信履歴などの客観的データに基づき、宿直帯における不時対応や実働時間が精緻に算定されました。
単に「宿直許可を得ているか」「時間外労働時間が何時間か」という表面的な労働時間数だけでなく、宿直中の不時呼び出しの頻度、断続的な仮眠中断による睡眠阻害、身体的・精神的負担といった「質的な過重性」を適切に評価・把握することが求められ、実務においても重要な判決であると思われます。
記事提供:旬報社
記事参照元はこちら:労働法律旬報No.2112 2026年9月下旬号
本件では、院内ログなどの客観的な記録をもとに、宿直中の不時対応や実働時間が確認されています。また、時間数だけでなく、仮眠の中断や身体的・精神的負担も業務の過重性を考える要素として扱われています。こうした点から、宿直を含む労働時間管理では、実際の勤務状況をどのように把握するかが重要になります。
宿直の労働時間管理―形式だけでは捉えにくい勤務実態をどう確認するか
今回の記事で注目したいのは、宿直中の勤務実態が、カルテの閲覧・入力記録、院内PCやドライブへのアクセスログ、メール送信履歴などの客観的なデータから確認されている点です。宿直許可の有無や予定された勤務区分だけでは、実際にどの程度の対応が行われていたかまでは分かりません。本件では、残された記録から不時対応や実働時間が具体的に把握されています。宿直の労働時間管理では、勤務区分だけで判断せず、客観的な記録も踏まえて実際の対応時間を把握することが重要になります。
一方で、把握した実働時間だけで勤務の負荷まで判断できるとは限りません。本件では、不時呼び出しの頻度、断続的な仮眠中断による睡眠阻害、身体的・精神的負担といった「質的な過重性」にも言及されています。実働時間に加えて、呼び出しによって休息がどの程度中断されていたかを見ることで、時間数だけでは表れにくい負荷も捉えやすくなります。労働時間の長さとあわせて、不時対応の頻度や休息の中断にも目を向けることが、勤務負荷を把握するうえで大切です。
企業の労務管理では、宿直や夜間待機の制度を設けているだけでは十分とはいえません。実際の運用が、制度で想定している働き方になっているかを確かめる必要があります。予定されている待機や休息のあり方と、実際の呼び出しや対応状況にずれがあれば、勤務時間の数字だけでは現場の負荷を十分に捉えられないことがあります。
また、勤務実態の把握を現場の申告だけに委ねると、会社が過重な勤務に気づくのが遅れる可能性があります。勤怠記録に加え、業務上残る記録などから実際の対応状況を確認できれば、制度上の想定と運用のずれを早い段階で把握しやすくなります。会社として勤務実態を継続的に確認できる状態をつくることは、負荷の見落としを防ぎ、労務リスクを管理するうえでも重要です。
本件は医師の宿直をめぐる事案ですが、宿直や夜間対応を設けている企業にも参考になる点があります。制度上の区分だけで管理を終えるのではなく、実際の勤務状況まで確認することが大切です。実働時間と勤務による負荷の両方を把握することで、現場の状況に即した労働時間管理につなげることができます。

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