労災が発生したときの手続きとは?企業担当者の対応手順と注意点を解説
労働災害(以下、労災)は頻繁に起こるものではありません。しかし、どのような職場でも発生する可能性があるため、企業にとって決して他人事ではありません。
厚生労働省の集計では、令和7年(2025年)の休業4日以上の労災による死傷者数は13万5,333人でした※。事故の型別では「転倒」が最も多く、オフィスや店舗を含め、どのような職場でも起こりうる災害であることが分かります。
労災が発生したときは、被災した労働者への対応、医療機関の受診案内、給付請求書の準備、労働者死傷病報告など、企業側で確認すべき手続きが複数あります。対応が遅れたり、報告が漏れたりすると、労働者の補償が遅れるだけでなく、企業が責任を問われるおそれもあるため注意が必要です。
本記事では、労災が起きたときに企業の担当者が進める手順を、発生直後から順番に解説します。あわせて、業務災害と通勤災害の違い、見落としやすい注意点、判断に迷ったときの相談先も紹介します。もしものときに慌てず対応するための備えとして、ぜひ参考にしてください。
※新型コロナウイルス感染症へのり患による労災を除いた集計。通勤中に発生した災害の件数は含みません。
労災保険制度の対象者や給付内容については、以下の記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
関連記事:労災保険とは?対象者・給付・手続きと企業が知っておきたい実務対応を解説
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労災の手続きで企業担当者が進めるべき4つの手順

労災が起きたときに企業の担当者が進める手順は、大きく分けて以下の4つです。
- 発生直後|救護・受診案内・記録
被災した労働者の安全を確保し、必要に応じて労災保険指定医療機関での受診を案内します。あわせて、事故の発生状況を記録します。 - 受診後|災害区分の確認・請求書準備・報告義務の確認
業務災害か通勤災害かを整理し、給付に応じた請求書を準備します。企業は、労働者死傷病報告の要否や提出時期も確認します。 - 給付請求時|書類提出・待期3日間の企業補償
請求書を様式にあわせて提出します。業務災害で休業がある場合は、待期3日間について企業が労働者に休業補償を行います。 - 給付請求後|審査対応・支給決定・再発防止
労働基準監督署の調査・審査に対応し、支給・不支給の決定を待ちます。あわせて、同じ災害を繰り返さないための再発防止策を検討します。
労災手続きは、発生直後の対応から請求書の準備、労働基準監督署への報告、給付請求後の対応まで、段階ごとに進めていくことが重要です。
次章から、各ステップで迷いやすい点を順番に解説します。全体の流れを押さえ、抜け漏れを防ぎましょう。
①労災が発生した直後|安全の確保・受診の案内・発生の記録

労災が起きたときは、初期対応が重要です。企業は、まず被災した労働者の安全を確保したうえで、受診案内や事故の記録を進めます。
被災した労働者の安全を確保する
業務中の事故であれば、現場の担当者が救護を最優先します。緊急性が高い場合は、ためらわず救急対応をとりましょう。
一方、通勤災害のように企業の外で起きた場合は、本人や家族からの連絡を受けて状況を確認し、受診を案内するところから対応が始まります。
落ち着いて動ける状況になったら、受診先の案内と発生状況の記録に移ります。
労災指定の医療機関で受診してもらう
労災で生じたケガや病気は、健康保険ではなく労災保険を使います。労災保険指定医療機関で受診すれば、原則として窓口で治療費を支払わずに治療が可能です。一方、指定外の医療機関を受診した場合は、いったん治療費を立て替えたうえで、後から労災保険へ請求します。
厚生労働省は、労災保険指定医療機関を名称・所在地・診療科目から検索できるページ(労災保険指定医療機関検索)を公開しています。被災直後は本人も現場も混乱しやすいため、企業は近隣の労災保険指定医療機関をあらかじめ把握しておくと安心です。
発生状況を記録する
「いつ」「どこで」「どのような作業中に」「何が原因で」起きたのかを、できるだけ早い段階で記録します。
この記録は給付請求書や労働者死傷病報告の記載のもとになります。あとから事実関係を確認し直すのは難しいため、発生直後の状況をできるだけ正確に残しておきましょう。
②医療機関の受診後|給付請求書の準備・労働者死傷病報告の提出

受診が済んだら、労災保険給付の請求に必要な書類を準備します。
労災手続きで誤解されやすいのが、「企業が労災を申請する」という表現です。正確には、労災保険の給付請求を行うのは、原則として被災した労働者本人です。死亡事案の場合は、遺族が請求します。
企業は、労災かどうかを最終的に判断する立場ではありません。ただし、請求書に必要な事業主証明を行ったり、発生状況や勤怠・賃金に関する情報を整理したりするなど、労働者がスムーズに請求できるよう実務面を支援する役割があります。
業務災害か通勤災害かを見分ける
請求書を準備する前に、その災害が業務災害に当たる可能性があるのか、通勤災害に当たる可能性があるのかを確認します。どちらに当たるかによって、使用する請求書の様式や給付の内容、待期期間中の企業の補償義務などが変わります。
確認の入口は、業務災害なら「仕事との因果関係があるか」、通勤災害なら「就業に関する合理的な経路・方法による移動中だったか」です。たとえば、帰宅途中に経路を大きく外れて私的な用事をすませている間の事故は、原則として通勤災害に当たりません。
ただし、労災保険の支給・不支給を最終的に決定するのは労働基準監督署長です。企業は、当日の作業内容、発生場所、発生時刻、移動経路、事故の状況などを労働者から具体的に聞き取り、必要に応じて目撃者や家族からも確認して、事実関係を整理しておきましょう。
なお、第三者の行為が原因のケガでは、別途「第三者行為災害届」が必要です。詳しくは後述の注意点で解説します。
労災保険の給付の種類にあわせて書類をそろえる
業務災害か通勤災害かを確認・整理したら、給付の種類に応じた様式を選び、準備を整えます。
代表的な書類は以下のとおりです。
【給付の種類と必要な様式】
| 給付の種類 | 業務災害の様式 | 通勤災害の様式 | どんなとき |
|---|---|---|---|
| 療養(補償)等給付たる療養の給付 | 様式第5号 | 様式第16号の3 | 労災保険指定医療機関で窓口負担なく治療を受けるとき |
| 療養(補償)等給付たる療養の費用の支給 | 様式第7号 | 様式第16号の5 | 指定医療機関以外で治療費を立て替えたとき |
| 休業(補償)等給付 | 様式第8号 | 様式第16号の6 | 療養のため働けず、賃金を受けられないとき |
| 指定病院等の変更届 | 様式第6号 | 様式第16号の4 | 転院などで指定医療機関等を変更するとき |
とくに、間違えやすいのが、様式第5号と様式第7号の違いです。
様式第5号は、労災保険指定医療機関で本人が窓口負担なしで治療を受けるために必要な請求書です。受診時に、医療機関の窓口へ提出します。様式第7号は、指定外医療機関などで立て替え払いした費用を後から請求するための書類で、領収書などを添えて労働基準監督署へ提出します。
様式が決まったら、被災した労働者には「どの請求書に・何を記入してもらうか」を具体的に伝えることが大切です。療養の費用請求(様式第7号)であれば領収書の保管を、休業給付であれば賃金に関する書類の準備を、早めに案内しておくとやり取りがスムーズです。
なお、請求様式は、厚生労働省|労災保険給付関係主要様式からダウンロードできます。
このほか、後遺障害が残ったときの障害(補償)等給付(様式第10号・第16号の7)、死亡したときの遺族(補償)等給付(様式第12号・第16号の8)など、状況に応じた様式があります。給付の種類ごとの詳細は「労災保険とは」の記事をご覧ください。
関連記事:労災保険とは?対象者・給付・手続きと企業が知っておきたい実務対応を解説
労働者死傷病報告が必要か確認する
労災保険の給付請求とは別に、企業には、労災などの発生状況を所轄の労働基準監督署へ報告する義務があります(労働安全衛生規則第97条)。この手続きが「労働者死傷病報告」です。
労働者が死亡した場合や、4日以上休業した場合は、「労働者死傷病報告(死亡及び休業4日以上)」を遅滞なく提出します。
休業4日未満の場合は、1〜3月・4〜6月・7〜9月・10〜12月の四半期ごとにまとめ、それぞれ最後の月の翌月末日までに「労働者死傷病報告(休業4日未満)」を提出します。休業がない場は、報告の義務はありません。
なお、令和7(2025)年1月1日から、労働者死傷病報告は電子申請が義務化されました。パソコン端末を所持していないなど、電子申請が困難な事情がある場合は、当分の間、書面による報告も可能です。ただし、従前の労働安全衛生規則様式第23号・第24号は使用できないため、最新の様式・電子申請方法を確認しておきましょう。
この報告を怠ったり、事実と異なる内容で報告したりすると、いわゆる「労災かくし」として問題になるおそれがあります。労災保険給付の請求とは別の手続きとして、提出漏れがないよう注意しましょう。
参考:厚生労働省|労働者死傷病報告の報告事項が改正され、電子申請が義務化されました(令和7年1月1日施行)
③給付請求の準備後|請求書類の提出・待期3日間の休業補償

用意した給付請求書類は、様式に応じた提出先へ提出します。また、業務災害で休業がある場合は、待期3日間について企業が行う休業補償の金額も確認します。
請求書類を様式にあわせて提出する
提出先は、請求する給付の種類や様式によって異なります。
- 療養の給付(様式第5号):受診した指定医療機関を経由して労働基準監督署長へ提出
- 療養の費用(様式第7号)や休業給付(様式第8号):労働基準監督署へ直接提出
提出するのは原則として被災した労働者本人ですが、本人が療養中で動けないことも多いため、実務では本人の依頼を受けて、企業が提出をサポートするケースもあります。
提出先を様式ごとに確認し、漏れなく進めましょう。
待期3日間の休業補償は企業が行う(業務災害の場合)
休業(補償)等給付が労災保険から支給されるのは休業4日目からです。そのため、休業初日から3日目までは「待期期間」とされ、労災保険からは給付されません。
業務災害の場合、この3日間については、企業が労働基準法に基づき平均賃金の60%の休業補償を行う必要があります。「労災保険から支給されるから、企業は何もしなくてよい」と考えてしまうと、待期期間の補償義務を見落とすおそれがあります。
なお、通勤災害では、労働基準法上の休業補償義務はありません。業務災害と通勤災害では、待期期間中の扱いが異なる点に注意が必要です。
休業4日目以降は、休業1日につき給付基礎日額の60%にあたる休業(補償)等給付と、20%にあたる休業特別支給金が支給されます。あわせて給付基礎日額の80%相当が支給されるため、休業が長引く場合は、労働者へ支給内容の目安も案内しておくとよいでしょう。
④労災保険の請求後|労働基準監督署の審査・支給決定

請求書の提出後は、労働基準監督署で必要な調査・審査が行われ、労働基準監督署長が支給・不支給を決定します。
調査では、災害の発生状況や業務との関係、休業の状況、賃金額などについて確認されることがあります。企業は、発生状況の記録、勤怠情報、賃金台帳、目撃者情報などを整理し、追加の確認や資料提出に対応できるようにしておきましょう。
給付までにかかる期間は、災害の内容や調査の有無、書類の不備の有無によって変わります。被災した労働者の補償が遅れないよう、提出前の確認と照会対応を丁寧に行うことが大切です。
手続きのあとも残る「再発防止」と「安全配慮義務」

労災対応は、給付の手続きで終わりではありません。労災が起きたら、災害の原因を分析し、同じ事故を繰り返さないための再発防止策を立てて実施することが重要です。
労災の内容によっては、労働基準監督署から「労働災害再発防止書」などの作成・提出を求められることもあります。求められた場合だけでなく、企業側でも設備面・作業手順・教育体制を見直し、取り組みを記録に残しておきましょう。
また、企業には、労働者が安全に働けるよう作業環境や体制を整える安全配慮義務があります。労災保険給付とは別に、安全配慮義務違反などを理由として損害賠償請求につながる可能性もあるため、手続き後の再発防止まで含めて対応することが大切です。
労災手続きで担当者が押さえておきたい注意点

労災手続きでは、請求書の準備や労働者死傷病報告だけでなく、健康保険で受診してしまった場合や、第三者が関係する事故などにも注意が必要です。
ここでは、企業担当者が見落としやすいポイントを確認します。
健康保険を使った場合は切り替え手続きが必要
業務中や通勤中のケガ・病気については、健康保険ではなく労災保険を使います。しかし、本人が労災と分からず、マイナ保険証や資格確認書を提示して受診してしまうケースもあります。
誤って健康保険を使った場合は、健康保険から労災保険へ切り替える手続きが必要です。
すでに健康保険で精算している場合は、健康保険組合や協会けんぽへ労災であったことを連絡し、医療費の返納手続きを行います。そのうえで、返納金の領収書や医療機関の領収書を添えて、労働基準監督署へ労災保険の請求を行います。
誤った受診を防ぎやすくするために、日頃から「業務中・通勤中のケガは健康保険ではなく労災保険で受診する」と労働者へ周知しておきましょう。
第三者の行為が原因のときは「第三者行為災害届」も提出する
業務中・通勤中を問わず、第三者の行為でケガをした場合は、労災保険給付の請求にあたって、「第三者行為災害届」の提出が必要です。
たとえば、以下のようなケースが当てはまります。
- 通勤途中、横断歩道で車にはねられた
- 営業の外回り中、追突事故に巻き込まれた
- 作業中、他社の作業員が落とした資材でケガをした
- 配達中に他人の飼い犬にかまれた
第三者行為災害では、加害者からの損害賠償と労災保険給付が二重にならないよう、調整が行われます。交通事故の場合は、警察への届出や相手方の氏名・連絡先、事故状況の記録も重要です。
第三者行為災害届は、被災した労働者本人(死亡事案の場合は遺族)が、労災保険給付の書類とあわせて所属する事業場を管轄する労働基準監督署へ提出します。企業は、労働者が必要な情報を整理できるよう、事故状況の確認や資料準備をサポートしましょう。
労災手続きには時効(請求期限)がある
労災保険の給付請求には時効があります。期限を過ぎると請求権が消滅するため、手続きを後回しにしないことが大切です。
主な請求期限は次のとおりです。
【給付の種類と時効】
| 給付の種類 | 時効・請求期限 |
|---|---|
| 療養(補償)等給付 | 療養の費用を支出した日ごとに、その翌日から2年 |
| 休業(補償)等給付 | 賃金を受けない日ごとに、その翌日から2年 |
| 葬祭料等 | 被災労働者が亡くなった日の翌日から2年 |
| 介護(補償)等給付 | 介護を受けた月の翌月1日から2年 |
| 障害(補償)等給付 | 傷病が治癒した日の翌日から5年 |
| 遺族(補償)等年金/遺族(補償)等一時金 | 被災労働者が亡くなった日の翌日から5年 |
| 二次健康診断等給付金 | 一次健康診断の受診日から3か月以内 |
療養や休業が長引く場合、「治ってからまとめて請求しよう」と考えていると、古い分から時効にかかるおそれがあります。労働者任せにせず、企業側でも請求状況を確認し、必要に応じて早めの手続きを案内しましょう。
「労災かくし」は重大なリスクになる
労災であることを認識しながら労働者死傷病報告を提出しなかったり、事実と異なる内容で報告したりすると、「労災かくし」として問題になります。
たとえば、労災であるにもかかわらず健康保険で処理させ、労働者死傷病報告を提出しないことや、事故の発生状況を偽って報告することは、違法行為となります。
労働者死傷病報告は、労働安全衛生法第100条第1項および労働安全衛生規則第97条に基づく報告義務です。違反すると同法第120条第5号により50万円以下の罰金が科される可能性があります。さらに、実際に報告を怠った担当者個人だけでなく、企業そのものも処罰の対象になる場合があります。
労災手続きは、被災した労働者を守るだけでなく、企業を法的リスクから守るための手続きでもあります。判断に迷う場合は、自社だけで抱え込まず、早めに専門家へ相談しましょう。
労災手続きの実務で社労士に頼れること

労災手続きでは、次のような場面で判断に迷いやすくなります。
- 業務災害か通勤災害か整理しづらい
- 待期3日間の補償の支払いや、通勤災害との扱いの違いに迷う
- 労働者死傷病報告の電子申請に不安がある
- 通勤中の交通事故など、第三者行為災害届が必要なケースに当たった
- 業務委託や役員など、労災保険の対象になるか判断しづらい
このような場合、社労士に相談することで、必要書類の整理、労働者死傷病報告の作成・電子申請、待期期間中の補償の支払い、労働者への案内方法まで、実務に即して対応を整理できます。手続きの抜け漏れを防ぎやすくなり、被災した労働者への対応と行政手続きもスムーズに進めやすくなります。
なお、損害賠償請求や訴訟対応など、法律紛争に発展している場合は弁護士の領域です。一方で、労災手続きの整理、労働者死傷病報告の対応、休業補償の計算、安全衛生体制の見直しなど、労務実務に関する対応は社労士が得意とする分野です。
早めに相談することで、手続き対応だけでなく、再発防止に向けた体制づくりにもつなげやすくなるでしょう。
まとめ|労災の手続きで迷ったら社労士へ相談を

この記事では、労災が発生したときに企業担当者が進める手順を、発生直後の対応から給付請求、労働基準監督署の審査・支給決定までの流れに沿って解説しました。
労災対応では、受診案内や給付請求書の準備に加えて、労働者死傷病報告、待期期間中の休業補償、再発防止策の検討など、企業側で確認すべきことが多くあります。対応が遅れると、労働者の補償が遅れたり、企業の法的リスクにつながったりするおそれがあります。
特に、労働者死傷病報告を故意に提出しない、または虚偽の内容で提出する「労災かくし」は、50万円以下の罰金が科される可能性のある重大な違法行為です。労災対応で迷ったときは、自社だけで抱え込まず、早めに社労士へ相談しましょう。
労災手続きについて社労士に相談する
社労士を探す際には、全国7,000以上の事務所(全国の依頼可能な社労士の23%)の社労士が登録する、中小企業福祉事業団の「社労士ナビ」をご活用ください。
この企業と社労士をつなぐ日本最大級のポータルサイトでは、地域や得意分野などを指定して社労士を探せるので、自社のニーズに合った社労士が簡単に見つかります。
初回相談が無料の社労士も多いため、事務所のスタンスや人柄をしっかり見極めたうえで依頼しましょう。