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社労士
更新日:2025 / 08 / 07
社労士 独占業務

社労士の独占業務とは?税理士や弁護士との関係やルールも解説

社会保険労務士(社労士)の業務は、社会保険労務士法 第2条の第1号~第3号の規定により、一般的に1号業務、2号業務、3号業務の三つに分類されています。このうち、1号業務および2号業務は社労士のみに認められた「独占業務」です。

本記事では、社労士の独占業務の範囲とその背景にある制度趣旨を解説するとともに、弁護士・税理士・行政書士など他士業との関係、AIや電子申請による業務の変化にも言及します。経営判断において「どこまでを自社対応とし、どこからを専門家に委ねるべきか」を検討する上での判断材料としてご活用ください。

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社労士の独占業務とは

社会保険労務士の業務は、前述のとおり、「1号業務」「2号業務」「3号業務」に分類されています。このうち1号業務と2号業務は、社労士のみに認められた独占業務であり、3号業務は相談・指導などのコンサルティング業務で独占業務には含まれません。

ただし、具体的な書類作成や提出が伴う場合には、社労士の関与が必要になるケースもあります。次から、それぞれの業務の内容を詳しく見ていきましょう。

社労士の独占業務:1号業務

1号業務は、労働社会保険に関する申請書・届出書・報告書などの作成および、これらの行政機関への提出代行もしくは事務代理を指します。例えば、以下のような手続きが該当します。

  • 健康保険・厚生年金保険の資格取得・喪失手続き
  • 労働保険の年度更新や雇用保険の各種手続き
  • 労災保険に関する給付申請
  • 就業規則や各種規程の届出

これらの手続きは、制度内容や提出先ごとの要件が複雑かつ頻繁に改正されるため、法令への正確な理解と実務対応力が求められます。誤った記載や提出遅延は、行政指導や給付遅延といった不利益に直結することもあるため、専門家による対応が望ましい領域です。

特に、1号業務は、原則として社労士以外が業として行うと違法行為となる点に注意が必要です。※弁護士が例外的に対応できるケースは後述「弁護士は社労士の独占業務を代行できる」で解説しています。

企業の実務としては「自社で対応できる範囲」と「社労士に依頼すべき範囲」を明確に区別しておくことが重要です。

社労士の独占業務:2号業務

2号業務は、労働基準法や労働安全衛生法、労働者災害補償保険法などの労働社会保険諸法令にもとづく帳簿書類の作成を指します。これは、法定三帳簿(労働者名簿、賃金台帳、出勤簿)をはじめとする、企業の労務管理に不可欠な書類の整備・作成業務です。

一見すると、ひな形やフォーマットを用いれば社内対応も可能に思えますが、実際には記載内容の解釈、法改正への対応、整合性の維持など、専門的な判断が随所に求められます。例えば、割増賃金の算定方法や、時間外労働の上限を定めた36協定の運用状況などが正確に反映されていなければ、行政監督や労使トラブルにつながる可能性があります。※厚生労働省「36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針

さらに、帳簿類の不備や虚偽記載があった場合には、労働基準監督署からの是正勧告や行政罰の対象になることもあるため、リスク回避の観点からも慎重な対応が必要です。

2号業務もまた、1号業務と同様に無資格者が業として行うことは禁じられています。外部への委託を検討する場合は、社労士資格の有無を必ず確認することが重要です。

社労士の独占業務ではない:3号業務

3号業務は、人事・労務に関する相談対応や指導、提案などのコンサルティング業務を指します。これは、社労士の業務の中でも独占業務には該当せず、他士業や民間のコンサルタントも提供し得る領域です。

例えば、次のような業務が3号業務にあたります。

  • 労働時間制度の見直しに関するアドバイス
  • 残業削減や働き方改革に向けた施策の提案
  • ハラスメント防止規程の策定に関する相談対応
  • 就業規則の内容に関する改善提案や説明

これらはあくまで「指導」や「助言」にとどまり、法定書類の作成や提出を伴わない範囲で提供されます。3号業務は社労士でなくても行うことが可能ですが、法的解釈を含む専門性が求められる場合や、行政対応を含む実務支援を必要とする場合には、社労士に相談するのが望ましいでしょう。

特定社労士だけが扱える業務

社会保険労務士の中でも、所定の特別研修を修了し、試験に合格した上で名簿にその旨が付記された者は、「特定社会保険労務士(特定社労士)」と呼ばれます。特定社労士は、通常の社労士業務に加えて、労働紛争の個別的解決手続における代理業務を行うことが可能です。
※紛争の目的価格(解決金の金額等)により制限あり。

具体的には、以下のような業務が特定社労士に認められています。

  • 労働局による個別労働紛争解決制度におけるあっせん代理
  • 都道府県労働委員会の調停や仲裁における代理
  • 労使間で発生した解雇や未払い賃金等に関する紛争の初期対応支援

このような手続きは、法律上の代理権を必要とするため、通常の社労士では対応できません。労働者との紛争が顕在化している場合や、企業側の立場で第三者機関とのやりとりが必要となる場面では、特定社労士に依頼することが求められます。
※特定社労士は、企業側に限らず労働者側の代理人となることもあります。

特定社労士は弁護士とは異なり、訴訟代理権は有していません。裁判所での法廷対応が必要なケースについては、弁護士との連携が必要となります。紛争の深刻度や対応範囲を踏まえ、適切な専門家に相談することが重要です。

社労士の独占業務と他士業の関係

社労士の独占業務は、法令により厳格に保護されていますが、弁護士や税理士、行政書士などの他士業も、それぞれ独占的な業務範囲を持っています。

特に、労務・税務・法務といった分野では業際の重なりが見られるため、どの専門家に依頼すべきかを適切に判断することが、法令順守と業務効率の面から重要です。以下では、他士業との関係について具体的に整理します。

弁護士は社労士の独占業務を代行できる

弁護士は、法律事務全般を扱うことが認められているため、社労士の独占業務である1号業務・2号業務も代行可能です。つまり、法的な代理人として、労働社会保険に関する書類作成や行政対応を含めた実務支援を行うことができます。

ただし、弁護士は労働・社会保険分野を専門としていないケースも多く、実務の運用や制度改正への即応性、現場感覚においては、社労士のほうが優れている場合が多いです。また、報酬体系や業務の継続性という面でも、労務領域は社労士への依頼が合理的な選択肢となることが多いでしょう。

社労士と税理士の独占業務のルール

社労士と税理士の業務には、企業の給与計算業務など一部の実務において接点があります。とくに経理・労務が密接に関わる中小企業では、両者にまたがる業務依頼が発生しやすいため、それぞれの独占業務の違いを正確に理解することが重要です。

税理士の独占業務(例:税務代理、税務書類の作成、税務相談)は「無償・有償を問わず、税理士以外が業として行うことはできない」とされています。例えば、給与計算を伴う源泉所得税の納付書作成などは税理士の専管業務であり、他士業は対応できません。

したがって、給与計算そのものは税理士・社労士のいずれでも対応可能ですが、税務処理を含める場合は税理士、労務管理や社会保険手続きまでを一括して任せる場合は社労士が適しています。依頼範囲を明確にし、重複を避けることで、法令違反や手戻りを防げます。

社労士と行政書士の独占業務のルール

社労士と行政書士はいずれも役所・行政機関へ提出する書類を作成する国家資格ですが、扱える法令が異なります。社労士は労働基準法や健康保険法など「労働社会保険諸法令」にもとづく書類の作成・提出代行を独占しています。一方で行政書士は、建設業許可や飲食店営業許可など「労務以外」の許認可書類が主領域です。

社労士の独占業務における違反行為

無資格者が社労士の独占業務を業として行った場合には、法的な制裁の対象となります。

例えば、行政機関に提出する社会保険や労働保険の書類を有償で作成・提出代行した場合は、「業として」行ったとみなされ、一度限りの受託でも社労士法違反となるリスクがあります。

また、他士業が自らの業務範囲を超えて、社労士の独占業務を引き受けた場合も、法令違反となる可能性があります。

違反行為が発覚した場合、依頼者側にも影響が及ぶ可能性がある点にも注意が必要です。例えば、不正な手続きを通じて提出された書類が無効とされることや、行政処分や監査対象となるケースもあります。

したがって、社労士の業務を外部委託する際は、その業務が独占業務に該当するかを事前に確認し、正式に登録された社労士への依頼であることを必ず確認することが重要です。

AI・電子申請の普及で社労士業務の変化と今後の役割

近年、行政手続の電子化やAI技術の発展により、社労士が取り扱う業務領域にも変化が生じています。とくに、社会保険や雇用保険の申請など、定型的な手続きについては、電子申請システムの導入により効率化が進んでいます。入力補助ツールや自動判定機能の普及によって、従来は手作業で行っていた業務の一部が省力化されつつあります。

しかしながら、こうした技術革新によって社労士の役割がなくなるわけではありません。むしろ、手続き業務が標準化される一方「法改正への対応」「企業ごとの個別事情に応じた制度設計」「労務トラブルの未然防止」といった高度な専門判断が必要な領域の重要性が増しています。

例えば、就業規則の改訂に際しては、単にフォーマットを整えるだけではなく、企業の事業方針や組織文化を踏まえて内容を調整し、かつ最新の法令と整合するよう構成する必要があります。これらは自動化では対応できない領域であり、経験と知見を有する専門家の介在が欠かせません。

今後、社労士は「単なる書類作成代行者」ではなく、企業の人事・労務戦略を支えるパートナーとして、より複雑な課題に対応していく役割が求められていくと考えられます。

人事・労務に関することなら社労士に

社労士の独占業務には明確な範囲が定められておりますが、一定の条件下では他士業が対応可能なケースも存在します。しかし、実務においては、制度の解釈や書類作成・提出の精度、そして現場対応の柔軟性といった点で、社労士の専門性が際立っています。

例えば、弁護士に法的な見解を依頼していても、就業規則の作成や社会保険手続きといった実務部分は社労士の関与が不可欠になる場面が少なくありません。同様に、税理士に給与計算や年末調整を委託している場合でも、労働保険料の申告や育児休業給付の申請については、社労士の専門領域となります。

つまり、他士業に依頼している中で、社労士の独占業務が含まれている場合には、法的適正性だけではなく、業務の性質や支援体制の観点からも、社労士への依頼に切り替える判断が必要です。人事・労務分野は企業の経営基盤に直結する領域です。法令順守と社員の働きやすさを両立させるためには、制度理解と現場感覚を兼ね備えた社労士の支援が効果的です。

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初回相談が無料の社労士も多いため、事務所のスタンスや人柄をしっかり見極めた上で依頼しましょう。

執筆者

中小企業福祉事業団 編集部

 
日本最大級の民間社労士団体として、社労士を介して中小企業を支援する活動を行っています。本サイト「社労士ナビ」は、課題を抱える中小企業が、課題を解決できる社労士を探して、巡り合えるように構築しました。「社労士ナビ」が中小企業の人事・労務課題を解決する一助になれば幸いです。

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