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社会保険・労働保険
更新日:2026 / 02 / 19
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【2027年9月開始】厚生年金の標準報酬月額の上限引き上げ|企業が今すぐ準備すべきこと

2025年(令和7年)6月20日、令和7年度年金制度改正法が公布されました。これにより、厚生年金保険の標準報酬月額の上限は2027年9月以降に段階的に引き上げられ、現行の65万円から最終的に75万円となります。

今回の引き上げで影響が出るのは、賞与を除く報酬月額が66.5万円以上となる被保険者(役員を含む)です。

企業は社会保険料負担の増加に備え、対象者について、給与計算システムの標準報酬月額の設定の変更や説明など、2027年9月までに実務対応を進める必要があります。

本記事では、標準報酬月額の仕組みから改正の詳細、企業と被保険者への影響、企業が今すぐ始めるべき実務対応まで解説します。

制度改正による自社への影響を把握し、計画的に社内体制を整えたい担当者は、最後までお読みください。

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標準報酬月額とは

標準報酬月額とは、被保険者が受け取る報酬(月給・手当等)を基に決定される金額で、厚生年金保険料や将来の年金額の計算に用いられます。

標準報酬月額は健康保険料の算定にも用いられますが、ここでは、厚生年金保険の標準報酬月額について、その仕組みを解説します。

厚生年金保険における等級

等級は報酬月額を一定の幅で区分し、保険料計算をシンプルにするための仕組みです。

2026年(令和8年)2月現在、厚生年金保険の標準報酬月額は、1等級(88,000円)から32等級(650,000円)まで設定されています。報酬月額が63.5万円以上の場合、保険料の計算に用いる標準報酬月額は65万円(32等級)が上限です。

報酬月額には、基本給のほか役職手当・通勤手当などが含まれます。なお、賞与は原則として標準報酬月額に含まれず、別途「標準賞与額」として保険料計算の対象となります。

今回の改正で影響を受ける上限付近の等級は、以下のとおりです。

【上限付近の等級(2026年2月現在)】

等級 報酬月額の範囲 標準報酬月額 月額保険料(労使合計)
30等級 575,000〜605,000円未満 590,000円 107,970円
31等級 605,000〜635,000円未満 620,000円 113,460円
32等級 635,000円以上 650,000円 118,950円

※月額保険料(労使合計)は保険料率18.3%で計算しています。

標準報酬月額の上限引き上げは、この「上限で頭打ち」の状態を見直す改正です。上限に達している被保険者がいる企業では、保険料の計算基礎が変わる点に注意が必要です。

参考:日本年金機構|令和2年9月分(10月納付分)からの厚生年金保険料額表

厚生年金保険料の算出方法

厚生年金の保険料は、標準報酬月額に保険料率(18.3%)を掛けて算出します。保険料は、企業と労働者が労使折半で負担すると定められており、それぞれの負担率は9.15%です(厚生年金保険法第82条)。

【保険料額算出式】

  • 毎月の保険料額=標準報酬月額×18.3%(労使合計)

たとえば、標準報酬月額65万円の労働者の場合は以下のとおりです。

  • 毎月の厚生年金保険料:650,000円×18.3%=118,950円(労使合計)
  • 企業と労働者それぞれの負担額:59,475円(企業)/59,475円(労働者)

※実際の保険料額は、端数処理等により数円単位で差が生じる場合があります。

標準報酬月額が変わる場面(定時決定・随時改定)

標準報酬月額は、主に以下のタイミングで改定されます。

  • 定時決定:毎年4〜6月の報酬を基に見直され、原則9月から新しい等級を適用
  • 随時改定:昇給・降給により2等級以上の変動があった場合、その都度改定

このほか、資格取得時の決定、育児休業等終了時の改定などもあります。

詳しくは、日本年金機構|定時決定(算定基礎届)随時改定(月額変更届)をご確認ください。

上限引き上げは2027年9月分の給与から反映されるため、2026年度の保険料計算は従来どおりです。一方で、改正時に備え、対象者の把握や予算確保などの準備は2026年中に進めておく必要があります。

標準報酬月額の上限引き上げ|制度改正の背景と目的

標準報酬月額の上限が引き上げられる背景には、現行制度における「高所得層ほど実質負担率が低い」という課題があります。

ここでは、なぜ今回の改正が必要とされたのか、その背景と目的を解説します。

現行制度の課題

現行制度では、報酬月額が635,000円以上の場合、標準報酬月額は65万円(32等級)で頭打ちとなり、労使を合計した保険料は一律118,950円です。そのため、報酬月額が上限に達している被保険者では、報酬月額が異なっても厚生年金保険料(報酬月額分)は同額になります。

これにより、実質的な保険料負担率は、以下のように差が生じます。

報酬月額 標準報酬月額(等級) 被保険者負担額
(本人負担)
負担率
62万円 62万円(31等級) 56,730円 9.15%
65万円 65万円(32等級) 59,475円 9.15%
75万円 65万円(32等級) 59,475円 7.93%

※負担率=被保険者負担額(本人負担)÷報酬月額

表から分かるように、報酬月額が高いほど実質的な負担率が低くなっています。また、月額報酬にかかる保険料は、標準報酬月額の上限(65万円)を超える部分にはかからないため、その部分は将来の年金額にも反映されません。

高所得層ほど負担率が低く、かつ、収入に応じた年金を受け取れない状態が課題でした。

改正の目的

今回の改正の目的は、主に以下の2点です。

  • 高所得層の保険料負担を、収入に応じた形に近づけること
  • 将来の年金給付を、現役時代の収入に見合う水準に近づけること

負担増だけが注目されがちですが、保険料収入の増加により、厚生年金制度全体の給付水準を維持・向上させる効果が見込まれています。

標準報酬月額の上限引き上げのスケジュールと対象範囲

厚生年金の標準報酬月額の上限は、現行の65万円から最終的に75万円へ段階的に引き上げられます。

ここでは、具体的な引き上げスケジュールと、対象となる被保険者の範囲を整理します。

段階的引き上げのスケジュール

2027年9月からの適用スケジュールは以下のとおりです。

  • 2027年9月:68万円へ引き上げ(33等級新設)
  • 2028年9月:71万円へ引き上げ(34等級新設)
  • 2029年9月:75万円へ引き上げ(35等級新設)

適用される標準報酬月額は、2027年4〜6月の報酬を基に算定基礎届(7月提出)で見直され、原則として同年9月から新しい等級が適用されます。

各段階で新たに対象となる被保険者が出る可能性があるため、早めに対象者を把握しておくことが重要です。

対象となる被保険者の範囲

今回の上限引き上げで継続的に影響を受けるのは、現行で賞与を除く報酬月額が66.5万円以上となる被保険者です。

また、現時点で上限に達していなくても、今後対象となる可能性がある被保険者もいます。

以下のケースでは、2027年以降の昇給・改定のタイミングで対象となる可能性があるため、注意が必要です。

  • 標準報酬月額が59万円・62万円(30・31等級)に該当しており、今後の昇給で上限(65万円)に達する可能性がある被保険者
  • 管理職登用や職務変更により報酬が増える見込みのある被保険者
  • 役員報酬の改定が見込まれる役員(被保険者)

高い報酬水準の被保険者が多い企業では、負担増の見込みを早期に把握するため、2026年度中に対象被保険者のリスト作成を進めておくとよいでしょう。

標準報酬月額の上限引き上げによる影響

標準報酬月額の上限引き上げにより、上限に該当する被保険者と企業の双方で厚生年金保険料(報酬月額分)の負担が増加します。

ここでは、被保険者と企業それぞれの影響を解説します。

被保険者への影響①|保険料負担の増加(手取りの減少)

新設される等級に該当する被保険者は、厚生年金保険料(本人負担)が増えるため、手取りが減少します。

たとえば、標準報酬月額が68万円以上の被保険者の場合、本人負担額の変化は以下のとおりです。

【標準報酬月額68万円以上の場合の本人負担額(現行65万円基準)】

標準報酬月額 本人負担額 現在との差額
65万円(現在) 月約59,500円(65万円×9.15%)
68万円(2027年9月) 月約62,200円(68万円×9.15%) +月約2,700円
71万円(2028年9月) 月約65,000円(71万円×9.15%) +月約5,500円
75万円(2029年9月) 月約68,600円(75万円×9.15%) +月約9,100円

※上記は厚労省資料の試算・端数処理に基づく概算です。
※実際の保険料は、適用される保険料率や端数処理、改定時期により差が生じます。

最終的に75万円まで引き上げられた場合、本人負担が現在より月約9,100円増えます。

なお、社会保険料は全額が所得控除の対象となるため、所得税・住民税が減少し、実質的な手取り減少は緩和されます。厚生労働省の試算では、社会保険料控除を考慮した実質負担は標準報酬月額が65万円から75万円になった場合で、月約6,100円、年間では約73,200円の負担増です。

企業は対象となる被保険者に、負担増の理由と段階的な増加を事前に共有しておきましょう。

被保険者への影響②|将来の年金給付額の増加

本人負担が増える一方で、将来受け取る年金給付額も増加する点は重要なポイントです。

標準報酬月額が上がることで、老齢厚生年金の報酬比例部分が増加し、加入期間が長いほど増加額は大きくなります。

厚生労働省の試算によれば、報酬月額が月75万円以上の状態が10年続いた場合、生涯受け取れる年金が月約5,100円増えるとされています(年金課税を考慮した場合は月約4,300円の増加)。

保険料負担は増えますが、それに応じて将来の給付も増える仕組みです。一方、増額の大きさは加入期間や賃金推移で変わるため、対象者ごとに影響を把握しておきましょう。

企業への影響|厚生年金保険料の負担増

労使折半の原則に基づき、企業は被保険者と同額の保険料を負担します。

上限が75万円まで引き上げられた場合、対象者1人あたりの企業負担は月約9,100円増加します。

たとえば、対象者が5人いる企業では月約4.6万円(年約55万円)、10人いる企業では月約9.1万円(年約109万円)の負担増です。

保険料負担の増加は人件費予算に直接影響します。そのため、標準報酬月額65万円以上の被保険者を抽出したうえで、段階ごとの影響額を事前に試算しておくことが重要です。

標準報酬月額の上限引き上げに伴う実務担当者の対応業務

2027年9月から段階的に始まる上限引き上げについて、企業の実務担当者が対応すべき業務は多岐にわたります。

ここでは、上限引き上げに向けて実務担当者が押さえておくべきポイントを整理します。

負担増の金額を試算し、予算に織り込む

上限引き上げにより、社会保険料の会社負担が段階的に増えていきます。そのため、影響を受ける被保険者と負担増の規模をあらかじめ把握し、予算に反映できる状態にしておく必要があります。

具体的には、以下の点を整理します。

  • 標準報酬月額が上限の65万円(32等級)となっている(なる見込みがある)被保険者の抽出
    (9月分からの標準報酬月額は、同年の4~6月の報酬で決まるため、その時点の報酬(見込み)により抽出すると良い)
  • 2027年9月・2028年9月・2029年9月の各段階における保険料の増加見込み
  • 対象者数を踏まえた、年間ベースでの影響額

こうして負担増を見える化しておくことで、社会保険料の会社負担分を事前に予算へ反映でき、後から人件費を見直す必要を減らすことができます。

給与計算と社会保険手続きを整備する

標準報酬月額が引き上げられると、給与計算や社会保険手続きに関する設定・運用の見直しが必要になります。改正内容を確実に反映できるよう、事前に実務体制を整えておくことが重要です。

確認するポイントは以下のとおりです。

  • 給与計算システムが、新しい上限や等級に対応しているか
  • 改正後の保険料が、給与計算に正しく反映されるか
  • 算定基礎届(定時決定)や随時改定(月額変更)が、改正後の上限を前提とした運用になっているか
  • 社会保険料は翌月支給分の給与から控除するのが原則であるが、自社の運用がそのようになっているか(例:9月の社会保険料は、10月支給の給与から控除するのが原則)

これらを事前に確認しておくことで、改正月前後の計算ミスや届出の修正を防ぎやすくなります。

賃金・報酬制度の見直しをする

社内に対象者が多い場合、厚生年金保険料(企業負担)が段階的に増えていきます。その影響が大きい場合は、賃金や報酬制度をそのままにしてよいかを一度整理しておく必要があります。

検討する点は以下のとおりです。

  • 負担増の影響が大きい対象者や職種があるか
  • 賃金・役員報酬・各種手当の設計が、現在の実態と合っているか
  • 処遇の見直しを行う場合、就業規則や賃金規程の変更が必要になるか

制度の見直しを行う場合は、就業規則や関連規程の改定、労使協議、届出の要否まで含めて検討することが重要です。

対象者への説明と問い合わせ対応の準備をする

標準報酬月額の上限引き上げは、対象となる被保険者が、手取り額の減少として実感しやすい改正です。事前に説明や対応の準備をしなかった場合、給与支給後に問い合わせが集中する可能性があります。

準備しておく項目は以下のとおりです。

  • 改正の背景や適用時期、段階的に負担が増える仕組みを簡潔にまとめた説明資料
  • 対象となる被保険者への周知方法(個別説明・社内案内など)
  • 問い合わせ窓口や、判断に迷った場合の相談先

事前に説明内容と対応方針を整理しておくことで、現場の混乱を防ぎ、給与支給後も落ち着いて対応できるようになります。

標準報酬月額の引き上げについてよくある質問

標準報酬月額の上限引き上げについて、実務上よくある質問をまとめました。

Q1、今回の上限引き上げで影響を受けるのはどの被保険者ですか?

A1、影響の中心は、現行で標準報酬月額が上限の65万円(32等級)を超える被保険者です。目安として、報酬月額(毎月の給与・手当などの合計)が上限水準を超える場合が該当します。

一方、上限に達していない被保険者の場合、今回の上限引き上げだけで保険料が増えることはありません。

Q2、保険料が上がるのは厚生年金保険のみですか?

A2、はい、今回の見直しは厚生年金保険の標準報酬月額(報酬月額分)の上限に関するものです。

健康保険の上限や、賞与(標準賞与額)の取扱いは今回の改正の対象ではありません。

Q3、役員報酬や給与の調整で厚生年金保険料の負担を抑えられますか?

A3、社会保険料の回避を目的とした意図的な給与操作は適切ではありません。

上限引き上げによる負担増を避けるために不自然な減額を行ったり、実質的な報酬を別の名目で補ったりすると、コンプライアンス上のリスクが高まります。

負担増への対応は「回避」ではなく、法令や社内ルールに沿った範囲で、処遇全体の設計として検討するのが現実的です。規程改定や運用変更が絡むことも多いため、判断に迷う場合は社労士などの専門家と連携し、適法性と実務面を確認しながら進めると安心です。

まとめ|標準報酬月額の上限引き上げには社労士との連携で備えよう

本記事では、標準報酬月額の上限引き上げについて、改正の背景や適用スケジュール、被保険者および企業への影響、実務担当者が押さえておくべき対応ポイントを解説しました。

被保険者にとっては、厚生年金保険料の本人負担が段階的に増える一方で、標準報酬月額の引き上げにより、将来受け取る老齢厚生年金の給付額も増加します。保険料負担だけでなく、給付面の影響も含めて理解しておくことが重要です。

企業側では、保険料の会社負担が増加するため、人件費予算や給与計算、社会保険手続きへの影響を事前に把握し、計画的に対応を進める必要があります。段階的な引き上げが予定されていることから、継続的な試算と見直しが求められます。

特に、給与や役員報酬の見直しが関わる場合は、計算や法令上の論点が複雑になりがちです。対応に不安がある場合は、社労士などの専門家と連携し、自社の状況に応じた対応を進めると安心です。

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初回相談が無料の社労士も多いため、事務所のスタンスや人柄をしっかり見極めた上で依頼しましょう。

執筆者

中小企業福祉事業団 編集部

 
日本最大級の民間社労士団体として、社労士を介して中小企業を支援する活動を行っています。本サイト「社労士ナビ」は、課題を抱える中小企業が、課題を解決できる社労士を探して、巡り合えるように構築しました。「社労士ナビ」が中小企業の人事・労務課題を解決する一助になれば幸いです。

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