会員社労士 7,110名
更新日:2026 / 10 / 01
記事画像

採用難のIT・システム開発企業が採用・育成・正社員登用を一体で整えた対応|社労士 岸本 貴久の解決事例

<編集協力:社労士ナビ編集部>

解決した社労士

  • 社会保険労務士 岸本貴久氏(BSP社会保険労務士法人/東京都千代田区)

※本記事は、実際の対応事例をもとに、企業等が特定されないよう一部内容を調整しています。

この記事を読んで分かること

  • 採用難の企業が人材確保の選択肢を広げる際の考え方
  • 採用から研修・評価・正社員登用までを一体で設計するポイント
  • 人材育成と助成金活用を結びつける際に重視したい考え方

採用難への対応では、採用対象を広げるだけでなく受け入れ体制まで考える

採用難が続く企業では、従来と同じ採用活動を続けるだけでは、必要な人材との接点を十分につくれないことがあります。そのようなときに考えたいのが、採用対象を広く捉えることと、採用した人が能力を発揮できる環境を企業側で整えることです。
今回のIT・システム開発企業でも、技術者の確保が経営課題となっていました。そこで、これまでの採用活動では接点を持ちにくかった人材にも目を向け、採用だけで終わらせず、研修、評価、正社員登用までを含めた仕組みづくりに取り組みました。
「誰を採用するか」と同時に、「採用した人をどのように育て、活躍につなげるか」を考えることが、この取り組みの出発点でした。

対象企業の情報

  • 所在都道府県:東京都
  • 業種:IT・システム開発
  • 従業員規模:30~50名
  • 組織の特徴:若手中心。採用難が続き、技術者確保が経営課題。社会課題への意識が高い。

従来の採用活動では接点を持ちにくい人材にも目を向けたい

この企業では、採用難が続く中で、従来の採用市場だけに頼らない人材確保の方法を検討していました。
その背景には、人材不足への対応だけではなく、経営者自身の問題意識もありました。社会との接点を持つ機会が少なくなっている人や、これまで就労との結びつきが難しかった人にも、働く機会や自身の能力を発揮できる場をつくれないかと考えていたのです。
企業では、対人コミュニケーションを苦手とする人であっても、仕事の内容や環境が合えば、システム開発の分野で能力を発揮できる可能性があるのではないかと捉えていました。これは、「こうした人はIT業務に向いている」という一律の見方ではなく、従来の採用基準だけでは見えにくかった一人ひとりの適性や可能性にも目を向けたいという考えから生まれたものでした。

しかし、人材を採用したいという思いがあっても、受け入れるための仕組みは十分に整っていませんでした。
育成計画は明確ではなく、社内研修も体系化されていません。また、採用後にどのような観点から能力を評価するか、契約社員から正社員へどのようにつなげるかも整理されていない状態でした。人材育成に活用できる助成制度についても、どの制度をどのように利用できるのか十分に把握できていませんでした。

つまり、この企業に必要だったのは、採用対象を広げることだけではありません。新たに採用した人材を企業側がどのように受け入れ、育成し、評価していくのかまで含めた仕組みづくりでした。

採用・研修・評価・正社員登用を一つの流れとして設計

そこで私は、採用、研修、評価、正社員登用を別々の課題として扱うのではなく、人材を採用してから継続的な雇用につなげるまでの一つの流れとして整理しました。

OJTとOFF-JTを組み合わせ、育成の仕組みを整える

人材育成については、有期実習型訓練を活用し、OJTとOFF-JTを組み合わせた研修を設計しました。
まず契約社員として採用し、研修期間を通じて本人の能力や業務への適性を見極める運用としました。
研修内容についても、技術面だけに限定しません。システム開発の技術に加え、コミュニケーションや業務理解など、実際に職場で働いていくために必要となる内容を整理しました。

また、研修の実施にあたっては、利用できる助成制度も組み合わせ、申請に必要な計画書や書類の作成を支援しました。
ここで重要なのは、助成金を使うことから逆算して研修を作ったわけではないという点です。まず企業として必要な人材育成の仕組みを考え、その取り組みに活用できる制度を組み合わせるという順序で設計しました。

評価から正社員登用までの道筋を明確にする

研修後についても、その都度判断するのではなく、能力を評価したうえで正社員登用を検討できる流れを整えました。
正社員への転換に向けては、キャリアアップ助成金の活用も含めて設計し、「採用→研修→評価→正社員登用」という一連の流れを明確にしました。
これにより、企業は単に人材を採用するだけでなく、その後どのように育成し、どの段階で次の雇用形態を検討するのかを、一つの仕組みとして考えられるようになりました。
また、この仕組みづくりには、経営者がもともと持っていた社会的な問題意識も反映されています。

従来の採用活動では接点を持ちにくかった人材にも目を向け、その中で、社会との接点を持つ機会が少なくなっている人や、これまで就労との結びつきが難しかった人にも働く機会を広げたい。そうした考えを単なる理念にとどめず、採用方針、研修、評価、正社員登用という具体的な人材育成の仕組みに落とし込んだことも、この取り組みの特徴です。

複数名の採用・正社員登用につながり、人材確保の選択肢が広がった

取り組みの結果、企業では複数名を採用することができました。研修を通じて能力を発揮し、その後、複数名が正社員へ登用されています。
これにより、システム開発チームの戦力強化にもつながりました。
また、助成制度を活用することで、人材育成に伴う人件費負担を大きく抑えることができました。人材を採用して終わるのではなく、研修や評価まで含めた仕組みを整えたことで、従来の採用活動だけに頼らない人材確保の方法を形にすることができたのです。
その後、企業では売上も着実に伸び、経営改善にもつながりました。

一方で、この取り組みの意味は、売上や人件費削減だけにあるわけではありません。これまで就労との接点を持ちにくかった人にも能力を発揮する機会を広げたいという企業の考えと、採用難の中で新たな人材を確保したいという経営課題を、同じ人材戦略の中で具体化できた点にも特徴があります。
社会的な課題への問題意識と、企業にとって必要な人材確保を別々に捉えるのではなく、一つの取り組みとして形にしたケースといえます。

採用難では「人を探す」だけでなく「人が活躍できる仕組み」を見直す

採用難になると、求人媒体を増やす、募集条件を変える、採用対象を広げるといった「人をどう集めるか」に意識が向きやすくなります。
しかし、これまでとは異なる人材に目を向けるのであれば、企業側の受け入れ体制も同時に見直す必要があります。
採用後の研修が曖昧であったり、評価方法が決まっていなかったり、正社員登用までの道筋が見えなかったりすれば、せっかく採用した人材が能力を発揮する前に、企業側も本人側も判断に迷うことになりかねません。

そのため、人材の経歴や現在の状況だけを見るのではなく、その人がどのような環境で力を発揮できるのかを考え、それを支える育成・評価の仕組みを企業側に整えることが重要です。
助成金についても、単なる人件費削減策として考えるものではありません。私は、企業が取り組みたい人材育成や雇用のあり方を先に整理したうえで、その取り組みに利用できる制度を検討することが重要だと考えています。
助成金の利用可否は、それぞれの制度の支給要件によって決まります。そのため、「助成金があるから取り組む」のではなく、「企業として必要な取り組みがあり、その実施を支える制度が利用できるかを確認する」という順序で考えることが大切です。

私は、採用、人材育成、評価、正社員登用、助成金活用を一つずつ切り離すのではなく、経営課題と人材戦略を俯瞰して整理することを重視しました。今回の事例でも、それぞれの課題を一つの流れとして結びつけたことで、企業として継続的に人材を採用・育成する仕組みづくりにつながりました。

よくある質問

採用難の企業が、これまで採用活動で接点を持ちにくかった人材へ対象を広げる場合、何を準備すべきですか?

採用対象を広げることと同時に、採用後の受け入れ体制を整えることが重要です。
特に、どのような研修を行うのか、どのように能力や適性を確認するのか、その後の雇用をどのように考えるのかを整理しておく必要があります。
今回の企業では、契約社員としての採用から研修、評価、正社員登用までを一つの流れとして設計しました。新しい人材との接点を増やすだけではなく、その人が能力を発揮できる仕組みまで考えることがポイントです。

人材育成に助成金を活用する場合、どのような順序で考えればよいですか?

まず、企業としてどのような人材を育てたいのか、どのような研修や雇用の仕組みが必要なのかを整理します。
そのうえで、実施する取り組みに利用できる助成制度があるかを確認します。
助成金の利用自体を目的にして人材育成の内容を決めるのではなく、必要な育成の仕組みを先に考え、それを支える手段の一つとして助成制度を検討することが重要です。

まとめ

採用難への対応では、これまでと同じ採用市場の中だけで人材を探し続けるのではなく、採用対象の捉え方そのものを見直すことが有効な場合があります。
ただし、採用対象を広げるだけでは十分ではありません。新たに採用した人材が能力を発揮できるよう、研修、評価、正社員登用までを含めて企業側の受け入れ体制を整える必要があります。

今回の企業では、従来の採用活動では接点を持ちにくかった人材にも目を向けたいという考えと、社会との接点や就労の機会を広げたいという経営者の問題意識を、具体的な採用・育成の仕組みへ落とし込みました。
人材を「見つける」ことだけでなく、その人が力を発揮できる仕組みを企業側につくること。採用難の中で人材確保の可能性を広げるうえで、この視点は重要です。

執筆者

岸本 貴久

東京都

BSP社会保険労務士法人
中小企業から大企業まで幅広くサポートさせていただいております。
スタートアップ段階は、助成金にてキャッシュフローをお手伝いいたします。
もちろん、適正な労務の実現が目的です。
段階を追って、助成金から徹底した労務管理へとシフトしていきます。
労務トラブルを未然に防ぐ体制づくり、社員が働きやすく、
モチベーションをもって働くことが、会社の利益につながるような組織づくりをサポートします。
顧客と従業員を大切にすれば100年企業も夢ではありません。
本当に世の中に役立つ会社づくりを真剣に全力でサポートさせていただきます。

【PR】
その他、全国の人手不足問題に対応するため、また外国人をはじめとした就職困難者を支援するために特定非営利活動法人SDGsHelloWorkを運営しています。掲載料、登録料、紹介料無料のインターネットジョブマッチングサービスです。
https://sdgs-hellowork.com/
皆様是非訪れてみてくださいね!

人気のタグ

人気の記事

人気のタグ

人気の記事

Loading

LOADING