介護業で起きた労災復帰後に元の仕事ができない高齢社員への対応|社労士 立川 久代の解決事例
<編集協力:社労士ナビ編集部>
解決した社労士
- 社会保険労務士 立川 久代 氏(社会保険労務士法人アクア事務所t/千葉県木更津市)
※本記事は、実際の対応事例をもとに、企業等が特定されないよう一部内容を調整しています。
この記事を読んで分かること
- 労災復帰後に従来業務が難しくなった社員への対応を進める際の考え方
- 採用時の業務遂行基準や契約期間・更新基準を明確にしておく重要性
労災復帰後に元の仕事が難しくなったときは、できる業務から確認する
今回の会社では、労災から復帰した高齢社員が、それまで担当していた介護業務を十分に行えなくなっていました。復帰はしたものの任せられる仕事がほとんどなく、一日を通してほぼ仕事をしないまま給与を支払う状態になっていたのです。
会社は「労災なので、辞めさせることはできない」と考えており、どう対応すべきか分からず困り果てていました。
そこで重視したのが、最初から退職を前提にするのではなく、会社の中に本人が担当できる業務があるかを確認し、実際の仕事ぶりを見ながら今後の対応を考えていくことでした。
対象企業の情報
- 所在都道府県:千葉県
- 業種:介護
- 従業員規模:50名
- 組織の特徴:家族経営で、創業者が温情型で例外対応が常態化している
労災から復帰したものの、従来の介護業務を任せられない状態に
相談の対象となったのは、高齢の社員でした。仕事中に転倒して骨折し、療養後に職場へ復帰しましたが、それまで担当していた介護の仕事を行うことが難しくなっていました。
企業側は、特に危険な場所で起きた事故ではなかったことから、本人の体力低下も背景にあると捉えていました。しかし、復帰後に担当してもらえる業務はほとんどなく、会社としても対応に困る状況が続いていました。
その一方で、「労災なので、辞めさせることはできない」という認識もありました。そのため、従来の仕事は難しいものの、次に何をすればよいのかが定まらない状態になっていたのです。
こうした状況の背景には、この会社の採用のあり方もありました。人手不足のなか、頼まれると断れない経営者の温情から採用する傾向があり、契約期間や更新基準も明確に定められていませんでした。
復職後に担当できる業務を洗い出し、実際の遂行状況を確認
まず行ったのは、本人に任せられる仕事が本当にないのかを確認することでした。事務担当者と現場責任者に、現在の本人でも担当できそうな業務を洗い出してもらいました。
介護業務以外も含めて担当できる仕事を検討
これまでの介護業務そのものが難しいのであれば、その補助作業はできないか。あるいは、別の職種で担当できる仕事がないか。従来の仕事だけに限定せず、会社の中にある業務を見直していきました。
そのうえで本人とも面談し、候補となった仕事の中から、実際に何を担当できるのかを確認していきました。
「以前の仕事ができない」という一点だけで今後を決めるのではなく、別の仕事も含めて可能性を確認することで、次の対応を考えるための材料を増やしていったのです。
業務記録と本人の自己評価を重ねる
さらに、担当できる仕事が見つかれば、それで終わりではありません。実際に行った業務内容を記録し、本人にも自分の仕事ぶりを評価してもらいました。
そのうえで会社から指導を行い、業務の記録、本人の自己評価、会社からの指導を繰り返しながら、現在どの程度仕事ができているのかを確認しました。
こうして実際の仕事ぶりを積み重ねて確認することで、会社側だけが「できる」「できない」と評価するのではなく、本人自身も現在の状況を捉えられるようになっていきました。
また、今後の選択肢を考えるための情報として、退職した場合の失業給付についても説明しました。
本人自身が現在の能力を認識し、大きなトラブルなく退職へ
業務内容の記録、本人の自己評価、会社からの指導を重ねるなかで、本人自身も現在の自分がどの程度仕事をできるのかを認識するようになりました。
その結果、会社が一方的に退職を迫る形ではなく、最終的には大きなトラブルになることなく、本人の自己都合退職となりました。
今回のケースでは、抽象的に「仕事ができる・できない」と評価するだけで終わらせず、実際の仕事を通じて本人と会社の双方が状況を確認できるようにしたことが、その後の判断につながりました。
結論を急がず、一つずつ確認できる材料を増やしていく
労働者から「絶対に辞めない」と言われると、企業側も「何とか辞めてもらわなければ」と考え、お互いに強い手段しか残されていないように感じることがあります。
私は、そのようなときこそ、すぐに一つの結論へ向かうのではなく、何ができるのか、次にどのような対応が考えられるのかを一つずつ確認していくことが大切だと考えています。
今回も、担当できる業務を探し、実際の業務内容を記録したうえで、本人の自己評価と会社からの指導を重ねました。結論を先に決めるのではなく、その都度確認できる事実を増やしていったことが、本人自身の認識にもつながっています。
採用・契約更新の段階で基準を明確にしておく
一方で、今回のケースは、問題が起きた後の対応だけを考えればよいというものでもありません。採用や契約の段階で、あらかじめ確認しておくべきこともあります。
人手不足だから、頼まれたからという温情だけで採用すると、結果として本人にも会社にも難しい状況を生むことがあります。年齢そのものではなく、採用予定の業務をどの程度遂行できるのかという基準を明確にしておくことが重要です。
あわせて、契約期間や更新基準についても明確にし、書面で本人に伝えておく必要があります。
目の前で起きた問題には、その時点の事実を確認しながら対応する。一方で、今後の採用や契約については、あらかじめ基準を明確にしておく。今回のケースからは、その両方の重要性が見えてきます。
よくある質問
労災から復帰した社員が以前の仕事をできない場合、すぐに退職を検討すべきですか?
今回のようなケースでは、すぐに退職を前提にするのではなく、まず担当できる業務と実際の遂行状況を確認することが重要です。
今回の会社でも、従来の介護業務が難しいことだけで結論を出さず、補助作業や別の職種も含めて本人が担当できる仕事を探しました。その後も、業務の記録、本人の自己評価、会社からの指導を重ねています。
こうして実際の状況を一つずつ確認したことが、本人自身が現在の能力を認識することにつながりました。
高齢の社員を採用するとき、会社は何を確認しておくべきですか?
採用予定の業務をどの程度遂行できるのかという基準と、契約期間・更新基準を明確にしておくことが重要です。
今回の会社では、人手不足のなか、頼まれると断れない経営者の温情から採用する傾向があり、契約期間や更新基準も明確になっていませんでした。
温情だけで採用を判断するのではなく、担当してもらう仕事との適合を確認するとともに、期間を定めた契約では更新の基準もあらかじめ明確にし、書面で伝えておくことが大切です。
まとめ
今回の会社では、労災から復帰した社員が従来の介護業務を行えなくなり、任せられる仕事もほとんどない状態になっていました。
そこで、担当できる業務を洗い出し、実際の業務内容を記録し、本人の自己評価と会社からの指導を重ねました。 その結果、本人自身も現在の能力を認識し、最終的には大きなトラブルなく自己都合退職となりました。
このケースで大切だったのは、最初から一つの結論へ向かうのではなく、できる業務や実際の仕事ぶりを確認しながら、その都度次の対応を考えていったことです。
そして、こうした個別対応だけでなく、採用時の業務遂行基準や契約期間、更新基準をあらかじめ明確にしておくことも、今後の雇用管理では重要になります。
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