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更新日:2026 / 09 / 10
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退職勧奨に応じない従業員への対応 解雇判断に悩んだサービス業|社労士 岸本 貴久の解決事例

<編集協力:社労士ナビ編集部>

解決した社労士

  • 社会保険労務士 岸本 貴久 氏(BSP社会保険労務士法人/東京都千代田区)

※本記事は、実際の対応事例をもとに、企業等が特定されないよう一部内容を調整しています。

この記事を読んで分かること

  • 退職勧奨に応じない従業員への対応を考える際の判断軸
  • あっせんや解雇を検討するときに整理すべきリスク
  • 経営者が意思決定するために社労士が果たせる役割

退職勧奨に応じないときの判断軸

能力不足の従業員に退職を求めても本人が応じない場合、会社としては、そのまま退職勧奨を続けるのか、第三者を交えた解決を目指すのか、あるいは解雇を検討するのかを判断しなければなりません。
重要なのは、先に一つの方法を「正解」と決めるのではなく、それぞれの選択肢にどのようなリスクや負担があるのかを整理し、経営者が判断できる状態にすることです。
私は、本人との合意によって雇用契約を終了する形を目指す退職勧奨を、この事例ではまず最もリスクを抑えやすい選択肢と位置づけました。しかし、退職勧奨を繰り返しても進展しないのであれば、いつまでも同じ対応を続けるのではなく、次の手段を検討する必要があります。
一方、解雇は会社側から一方的に労働契約を終了させるものです。解雇は自由に行えるものではなく、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合には無効となります。

対象企業の情報

  • 所在都道府県:神奈川県
  • 業種:サービス業
  • 従業員規模:10名程度
  • 組織の特徴:専門性の高い業務を行うが、個々の能力差が大きく、配置転換の選択肢が限られている

能力不足の従業員への対応が行き詰まった背景

今回の相談は、本来求められる業務水準に対して、業務遂行能力が著しく不足している従業員への対応についてでした。
会社としても異動などを検討していましたが、専門性の高い業務を行う組織であり、適切な配置先を用意することが難しい状況でした。そのため、社長はすでに2回にわたって退職勧奨を行っていました。

ところが、本人は退職勧奨を受けても「ピンと来ていない」状態で、危機感を持つ様子もありませんでした。会社側は対応の記録を残していたものの、その先に何をすべきなのかを判断できず、対応が止まっていました。
業務遂行能力に問題があり、配置転換も難しい。その一方で、解雇には法的なリスクがあります。会社が困っていたのは、単に退職してもらえないことだけではなく、次の一手をどこまで進めてよいのか判断できないことでした。

退職勧奨・あっせん・解雇をどう比較したか

そこで私は、退職勧奨を続けることだけを前提にせず、退職勧奨、あっせん、解雇という選択肢を並べ、それぞれのメリット・デメリットを経営者が比較できるよう整理しました。
すでに退職勧奨には6か月程度を要していました。本人が応じない以上、同じ方法を続けても解決時期が見通せない状態です。そこで、次の段階としてあっせんを利用する場合と、解雇に踏み切る場合の双方について説明しました。

・あっせんを選ぶ場合の時間と負担

あっせんは、労働問題の専門家である第三者が間に入り、双方の主張を確認しながら話し合いによる解決を促す制度です。都道府県労働局の制度では無料で利用でき、手続きは非公開ですが、相手方に参加やあっせん案の受諾を強制する制度ではありません。

この会社に対しては、あっせんを利用した場合の期間やリスク、負担について具体的に説明しました。退職勧奨だけですでに約6か月が経過していたことも踏まえ、さらに6か月程度を要する可能性もあるという見通しを伝えました。
安全性だけを考えて手続きを積み重ねればよいわけではありません。会社にとっては、その間も問題を抱え続けることになるため、時間も一つの重要な判断材料になります。

・解雇を選ぶなら根拠と記録を整理する

もう一つの選択肢が解雇でした。解雇に踏み切るのであれば、会社側がその法的リスクを理解したうえで判断する必要があります。そこで、これまでの対応経緯や記録、書面を整理し、後からどのような経緯で判断したのかを確認できる状態にしました。
私の役割は、経営者に解雇するかどうかを代わって決めることではありません。どの選択肢を選んだ場合に何が起こり得るのかを見える形にし、経営者自身が判断できる材料をそろえることだと考えています。

経営者が解雇を決断し、1年以上異議申し立てなく経過

選択肢とそれぞれのリスクを整理したうえで、最終的に経営者は「責任は自分が取る」と明確に意思決定し、解雇に踏み切りました。
その後、解雇から1年以上が経過しましたが、本人からの異議申し立てはありませんでした。会社としても、さらに長期化する可能性のあったあっせんを選ばず、業務への影響を最小限に抑えながら問題を終えることができました。
この結果は、解雇であれば問題なく解決できるという意味ではありません。 この会社では、退職勧奨を続ける場合、あっせんへ進む場合、解雇を選ぶ場合を比較し、そのリスクを理解したうえで経営者が意思決定したことに意味があります。

解雇判断で重要なのはリスクの可視化

私は、本人との合意を前提とする退職勧奨は、解雇と比べてリスクを抑えながら労働契約を終了できる方法だと考えています。
しかし、退職勧奨を複数回行っても状況が進まないのであれば、同じ働きかけを続けるだけでは解決しません。あっせんや解雇など、次の段階へ進むことも早めに検討する必要があります。

特に解雇は会社からの一方的な労働契約の終了であり、その判断には法的リスクが伴います。だからこそ、「解雇できるか」だけを見るのではなく、なぜその判断をするのか、その根拠となる事実や記録がどこまでそろっているのかを整理することが欠かせません。
そして最後に決断するのは経営者です。今回、経営者が「責任は自分が取る」と判断できたのも、選択肢ごとのリスクが整理されていたからでした。

社労士がこうした場面で果たせる役割の一つは、答えを一方的に示すことではありません。企業だけでは整理しにくい選択肢とリスクを可視化し、経営者が覚悟を持って意思決定できる状態をつくることにあります。

よくある質問

・退職勧奨に応じない従業員に対し、会社は次に何を検討すべきですか?

退職勧奨を繰り返すだけではなく、現在の状況やこれまでの対応を整理したうえで、第三者を交えたあっせんや解雇なども含めて次の選択肢を検討する必要があります。
どの方法を選ぶかは、個別の事情によって異なります。期間、法的リスク、会社への影響などを比較し、経営者が判断できる材料をそろえることが重要です。

・能力不足を理由に解雇を検討するとき、会社は何を整理すべきですか?

まず、能力不足という評価だけで判断するのではなく、実際にどのような業務上の問題があり、会社がそれまでどのように対応してきたのかを確認する必要があります。
解雇には客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が求められるため、個別事情によって判断は異なります。 今回のケースでも、業務遂行能力、配置転換の難しさ、退職勧奨の経緯などを踏まえ、記録や判断材料を整理したうえで経営者が最終判断を行いました。

まとめ

退職勧奨に応じない従業員への対応では、「何回まで退職を勧めるか」だけを考えても問題は解決しません。
大切なのは、退職勧奨、あっせん、解雇などの選択肢について、それぞれのリスクや時間、会社への影響を整理することです。
特に解雇を検討する場合は、感覚的に判断せず、これまでの経緯や記録、判断根拠を確認する必要があります。そのうえで、どのリスクを引き受け、どの選択肢を取るのかを経営者自身が決める。
その意思決定を支えるために選択肢とリスクを可視化することが、社労士に求められる重要な役割の一つです。

執筆者

岸本 貴久

東京都

BSP社会保険労務士法人
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