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更新日:2026 / 10 / 30
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人事評価制度が組織に合わないときは?成長支援と対話を軸に制度を設計した事例|社労士 矢萩 大輔の解決事例

<編集協力:社労士ナビ編集部>

解決した社労士

  • 社会保険労務士 矢萩 大輔 氏(矢萩経営労務管理事務所/東京都台東区)

※本記事は、実際の対応事例をもとに、企業等が特定されないよう一部内容を調整しています。

この記事を読んで分かること

  • 組織の特徴に合った人事評価制度を考える際の視点
  • 直近の年度決算で要件を満たさない場合の対応方法
  • 昇格ポストが限られる組織で人事制度を設計する際の工夫

人事評価制度は「何のために導入するのか」から考える

人事評価制度を導入するときは、評価項目や評価シートを作る前に、その組織で制度を何のために使うのか、そして、組織が5年後、10年後どうありたいかを明確にすることが重要です。
評価によって差をつけ、その結果を昇給・昇格・賞与へ反映する仕組みが適している組織もあります。一方で、組織の規模や役職数、社員の価値観によっては、それだけでは十分な動機づけにならないこともあります。
今回の事例では、既存の等級や賃金制度だけを見るのではなく、職員の志向や組織の特徴を踏まえ、人事制度を「成長を支援するための仕組み」として設計しました。

対象企業の情報

  • 所在都道府県:東京都
  • 業種:社会福祉法人
  • 従業員規模:30名
  • 組織の特徴:安定指向、年功序列

成長への動機づけにつながる人事制度を作りたい

東京都の社会福祉法人から、人事制度について相談を受けました。
経営側が課題として感じていたのは、日々働く中で職員が成長していくための動機づけが弱いことでした。目標設定、評価、フィードバックを一連の仕組みとして行う体制がなく、個々の努力や工夫を継続的な成長につなげにくい状態だったのです。
また、評価と処遇が連動していなかったため、「頑張っても給与が変わらない」という印象につながりやすく、成長を重視する文化をどのように根づかせるかも経営側の悩みとなっていました。
こうした課題意識の背景には、評価と賃金を結び付け処遇に用いるツールという目的がありました。一方で、職員一人ひとりが自ら考え、周囲と協力しながら成長し動ける組織にしていきたいという経営側の意向もありました。人事制度についても、そうした組織づくりを後押しするものにしたいと考えていました。
一方で、等級制度や賃金制度がなかったわけではありません。会社でも評価制度を作ろうとしていましたが、既存の制度や組織の特徴に合った形まで落とし込むことができずにいました。前者の上司の役割は、上司は査定者です。一方、後者の上司の役割は、部下の支援者の役割です。これからの人事評価の仕組みは、成長支援、対話を軸として制度設計がより大切になってきます。

安定志向の組織に、一般的な評価制度をそのまま当てはめない

制度設計にあたって重要だったのは、「一般的な人事評価制度」をそのまま導入しないことでした。
この法人には安定志向や年功序列の傾向があり、職員の多くもワークライフバランスを重視していました。出世や高収入を強く求める人は相対的に少なく、さらに30名規模の組織であるため、役職や等級上のポストにも限りがあります。
そのため、評価差を大きくして昇格や処遇を競う仕組みを作るだけでは、この組織が抱えている「成長への動機づけ」という課題への答えにはなりにくいと考えました。
どの部分を人事制度にするのか、どのような部分は人事制度に組み込まない方が良いのかは、実際に働く職員自身が分かっていることでもあります。 そこで私は、まず職員側からも意見を聴く機会を設けました。
法人が目指す、職員一人ひとりが自ら考え、周囲と連携しながら動く「自律分散な組織運営」においては、周囲と関わりながら自身のモヤモヤや違和感を対話する機会を通して、自分の視野や成長欲求に気づき、一歩踏み出そうとするときに熱量が湧いてくるもの、という考え方があります。
こうした考え方を人事制度に反映するため、今回のプロセスでは、組織のAIDAマップワークショップという、対話を通じて一人ひとりの考えや組織の課題を整理する手法を用いました。この処遇の側面と成長の側面を一つの人事制度の中にごっちゃにしてしまうのでなく、しっかりと処遇と成長を分けて制度設計することが大切です。どうしても一つの人事制度に二つの側面を入れてしまうと、お金の側面が強い処遇によって成長がバイアスを受けてしまいます。対話の場を重ねた結果、組織目標の達成や処遇さそのものを中心に置くのではなく、職員一人ひとりの成長支援と、協力的な風土を育てることに重点を置くことにしました。

昇格中心ではなく、成長を支える人事制度を設計

今回の人事制度では、評価によって順位をつけることよりも、職員が自分の成長を実感し、上司との対話を通じて次の目標を考えられる仕組みを目指しました。

役職以外にも成長の選択肢を設ける

職員数が多くなく、管理職などのポストも限られている組織では、昇格だけを成長の目標にすると、どうしても機会が限定されます。
そこで、「上へ昇格していく制度」だけではなく、専門称号や資格手当など、役職に就かなくても専門性や成長を評価できる非役職型の仕組みを取り入れました。
役職数そのものを増やすのではなく、それぞれの職員が専門性を高めていくことにも意味を持たせることで、限られた組織構造の中でもモチベーションにつなげることを意識しました。

精緻な評価シートより、定期的な対話を重視

今回、重視したのが、評価制度を上司と部下のコミュニケーションの機会として機能させることです。
人事評価制度というと、細かな項目を設定して点数をつけ、その結果を処遇へ反映する仕組みをイメージしがちです。しかし今回の法人では、緻密な評価シートを作ること自体を目的にはしませんでした。
上司と部下が定期的に対話し、本人の取り組みや成長、今後について話すための仕組みとして評価制度を設計しました。
評価制度を単に給与を決めるためのものではなく、職員の成長を支援するツールであり、日常のコミュニケーションを促すツールとして位置づけたのです。

制度の導入後、成長について話す機会が生まれ始めた

制度を導入してからまだ期間が短く、職員のモチベーションや組織風土がどこまで変化するかを判断できる段階ではありません。
それでも、上司と職員が定期的に話し合う運用が動き始め、これまで曖昧になりやすかった本人の取り組みや今後の成長について、言葉にして確認する機会が生まれ始めています。
また、役職への昇格だけではなく、専門性や資格などを通じた成長の方向も制度として示したことで、限られたポストの中でも「どのように成長していくか」を考えられる土台ができました。
経営側にも制度の内容には満足してもらっています。複雑な評価方法を採用しなかったこともあり、導入当初から大きな混乱なく運用を始めることができています。
大きな成果を評価するのはこれからですが、制度を作って終わるのではなく、成長支援と対話のための仕組みとして実際に使い始められたことが、今回の第一歩となりました。

組織に合う人事制度を考える3つのポイント

評価と処遇の連動だけを目的にしない

人事制度というと、「評価で差をつけ、その結果を昇給・昇格・賞与へ反映するもの」と考えやすいものです。
昇給・昇格・賞与への反映という”お金の分配”のための人事制度と捉えると、議論がお金にまつわるバイアスに引っ張られてしまい、結局は、給与を上げるため・役職につくためという権威や権限に紐づいた人事制度に偏りがちです。
もちろん、そのような制度が適している企業もあります。しかし、**人事制度の目的は組織によって異なります。**制度によって何を実現したいのかを整理せず、一般的な形だけを導入しても、十分に機能しない可能性があります。
今回の事例では、働く一人ひとりの変容度合いに応じたキャリアの歩みかたを意図して制度化し、職員一人ひとりの成長支援と、協力的な組織風土を育てることを大きな目的としました。

組織規模や社員の価値観まで見る

人事制度を考える際には、会社が実現したいことだけではなく、そこで働く人の価値観や、実際に用意できるキャリアの選択肢も重要です。
役職や昇格先が限られている組織で、昇進だけをモチベーションの中心に据えることには限界があります。今回の専門称号や資格手当は、そうした組織の規模や職員の志向を踏まえて選択した方法です。
大切なのは特定の仕組みを導入することではなく、その組織で職員がどのような形なら成長を実感できるのかを考えることです。

制度の精緻さより、実際に運用できるかを考える

細かく設計された制度であっても、現場で継続して運用できなければ、人事制度として十分に機能しません。
今回、評価シートの精緻さよりも定期的な対話を重視したのも、この法人に合った運用を考えたためです。
制度を作ることと、その制度が現場で使われ続けることは別の問題です。誰が、どのように使い、職員の成長につなげるのかまで含めて考える必要があります。

よくある質問

人事評価制度は必ず給与や賞与と連動させる必要がありますか?

必ずしも、評価結果をそのまま給与や賞与へ強く連動させる必要があるとは限りません。
人事評価制度には、処遇を決めるだけでなく、目標設定、能力開発、成長支援、上司と部下のコミュニケーションなど、さまざまな役割があります。どの役割を重視するかは、組織の目的や人員構成、社員の価値観などを踏まえて検討する必要があります。

昇格できるポストが少ない会社では、どのようにモチベーションを高めればよいですか?

役職への昇格以外にも、専門性や成長を評価できる仕組みを検討する方法があります。
今回の事例では、専門称号や資格手当を取り入れました。ただし、同じ仕組みがすべての会社に適しているわけではありません。社員が何を成長と感じるのか、組織としてどのような働き方や能力を評価したいのかを整理したうえで考えることが重要です。

まとめ

人事評価制度を導入するときに重要なのは、一般的な制度を整えることではなく、自社が人事制度によって何を実現したいのかを明確にすることです。
今回の法人では、安定志向や年功序列という組織の特徴、職員の価値観、限られた役職ポストといった事情を踏まえ、成長支援と対話を重視する制度を設計しました。その仕組みが実際に動き始め、職員の成長について話し合う機会も生まれています。
人事評価制度を作ろうとしても自社に合う形にできない場合には、既存の制度だけを見るのではなく、組織の特徴、社員の価値観、キャリアの選択肢、制度を通じて実現したい状態を整理することが重要です。
制度の形から考えるのではなく、目的と組織の実情から設計し、実際に運用できる仕組みにすることが、そして、働く一人ひとりが”ありたい姿や働き方”へと目を向ける機会にすることが、人事制度を機能させる第一歩になります。

執筆者

矢萩 大輔

東京都

有限会社 人事・労務
私達のコンサルティング手法は、人事制度・キャリアの専門技術と30年間で出会った500社を超える社長さんやリーダーの方々の体験、そして人生の成功哲学の3つをベースに編み出した社員満足(ES)を高める弊社だけのオリジナルプログラムです。また、350社以上の導入実績を誇る人事制度・賃金制度設計ソフト「賃金士」は産学共同で開発し、企画・開発した従業員満足(ES)診断ソフト「人財士」は第34回日本経営システム学会でも発表されました。ES(従業員満足)トレーナー制度や社内ルールクリエイターなど組織活性化のための新しい施策の普及活動を目指し高く評価されています。

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