新入社員の指導がうまくいかない製造業で見直した上司の関わり方|社労士 村松 貴通の解決事例
<編集協力:社労士ナビ編集部>
解決した社労士
- 社会保険労務士 村松 貴通 氏(社会保険労務士法人村松事務所/静岡県浜松市)
※本記事は、実際の対応事例をもとに、企業等が特定されないよう一部内容を調整しています。
この記事を読んで分かること
- 新入社員の反発を本人だけの問題と決めつけないための考え方
- 新入社員を受け入れる会社側・上司側に求められる視点
- 本人と管理職の双方に働きかけることが職場定着につながった経緯
新入社員の反発を本人だけの問題と決めつけない
新入社員が上司の指示に反発し、職場でうまくいっていないと、「本人に問題がある」「このまま働いてもらうのは難しい」と考えてしまうことがあります。
しかし、新入社員の言動だけを見て退職の方向へ進める前に、本人がなぜそのような状態になっているのか、受け入れる側の指導や接し方に問題はないのかを確認することも重要です。
本人に改めてもらうべき点があることと、会社側にも改善すべき点があることは両立します。どちらか一方だけを問題と決めつけず、双方を見ることが必要です。
対象企業の情報
- 所在都道府県:静岡県
- 業種:製造業
- 従業員規模:約50名
- 組織の特徴:優し目の2代目社長。新規事業開発に熱心な会社
入社約3か月の新入社員に現場が手を焼き、退職まで検討
相談のきっかけとなったのは、入社してまだ3か月ほどの新卒社員でした。
所属する製造部長の言うことを聞かず反発することが多くなり、先輩社員や上司も対応に困っていました。製造部長が何度注意しても状況は変わらず、現場は次第にお手上げの状態になり、会社は「新入社員を辞めさせたい」と考えるようになりました。
背景には受け入れ体制の不足もあった
一見すると、新入社員本人の勤務態度や人間関係の問題に見えます。しかし背景を確認すると、新入社員を受け入れる会社側の体制や、上司・先輩社員の育成方法にも課題がありました。
会社では、新入社員をどのように受け入れ、育てるかという体制が十分ではなく、上司や先輩社員への教育もできていませんでした。
さらに、今の若い世代がどのような価値観や考え方を持っているのかについて、受け入れる側の理解が十分ではなかったことも、問題の背景にありました。
製造部長は昔ながらの指導スタイルだった
製造部長はいわゆる昔ながらの仕事観が強く、言い方や接し方も厳しいタイプでした。「仕事は先輩の背中を見て覚えるもの」という考えがあり、新入社員に対しても、うまくいかないたびに上から注意するという対応が中心でした。
一方で、本人がなぜ反発しているのか、どのような状態にあるのかに寄り添おうとする姿勢は十分ではありませんでした。
本人と製造部長の双方に話を聞き、問題の見方を変える
新入社員との面談で当初の見方が変わった
会社からの相談を受けた当初、私自身も、正直なところ「どのように退職の方向へ持っていこうか」と考えていました。
そこでまず、新入社員と個別に面談し、仕事の状況や本人の本当の気持ちを聞きました。
話を聞いているうちに、単純に「会社に反抗している問題社員」として整理することに違和感を覚えるようになりました。新入社員は、職場で緊張していたり、先輩社員とどう接すればよいのか分からなかったりすることもあります。
そして私自身の見方も、「新入社員に問題はないのではないか。むしろ会社側に問題があるのではないか」と大きく変わりました。
ただし、新入社員側に何も求めなかったわけではありません。個別面談では、社会人として必要なマナーや考え方について教育し、今後の成長を応援する立場から向き合いました。
製造部長にも接し方と教育方法を指導
製造部長とも個別に面談し、社員、とりわけ新入社員への接し方や教育の仕方について指導しました。
本人と会社側の双方を見ていくと、最終的には、どちらか一方だけを「悪い側」とする問題ではないことが見えてきました。
新入社員には社会人として成長してもらう一方、上司にも人を育てる立場として接し方や指導方法を見直してもらう。私としては「どっちもどっち」という整理で、双方に改善を求める必要があると考えました。
「自分は悪くない」という製造部長にも厳しく伝えた
対応を進めても、製造部長は最後まで「自分は悪くない。新入社員の側に問題がある」という認識を持っていました。
私は、その状態では関係改善は難しいと考え、「どっちもどっちですよ」と、部下指導のあり方について少し厳しめに指導しました。
新入社員の歩み寄りを受け入れられなかった
特に印象に残っているのが、新入社員が「これまでの言動を謝りたい」と申し出たときです。
製造部長は、「本心で言っているとは思えないので信用できない」という反応でした。
新入社員と製造部長には、親子以上ともいえる年齢差があります。若い社員が自分から歩み寄ろうとしているにもかかわらず、それを受け止めようとしない姿勢に対して、私は「製造部長として恥ずかしくないのか」と思うほど強い問題意識を持ちました。
管理職には、部下の不足を指摘するだけでなく、社員を受け入れ、育てる度量も必要です。その点についても、製造部長には厳しく伝えました。
退職ではなく、職場で働き続ける結果につながった
その後、新入社員は気持ちを入れ替え、元気を取り戻して仕事に取り組むようになりました。
先輩社員とも以前よりうまくコミュニケーションを取りながら働けるようになり、製造部長とも前より分かり合えるようになったと聞いています。
当初は「辞めさせたい」という相談から始まったにもかかわらず、最終的には新入社員が職場に残り、生き生きと働ける方向へ進みました。
会社から最初に求められていた方向とは、いわば真逆の結果です。それでも会社からは大変感謝していただきました。
新入社員を採用するだけでなく、育てられる会社であることが重要
受け入れる側にも人を育てる力が必要
優秀な社員を採用できたとしても、それだけで定着し、成長してくれるわけではありません。
新入社員を迎える会社側にも、それなりの受け入れ体制が必要です。既存の社員や管理職に部下を育てる力がなければ、せっかく可能性を持った人材が入社しても、その可能性を潰してしまうことがあります。
新入社員に会社へ適応する努力を求めるだけでなく、受け入れる側にも人を育てる努力が求められます。
「今の若者は」と否定するだけでは解決しない
昔とは学校教育も変わってきています。私は、これから入社してくる社員には、今回のような社員が増えてくるのではないかと考えています。
だからこそ、「今の若者は」と一括りにして否定するだけでは、何の解決にもなりません。受け入れる側の社員も、今の若い世代の価値観や考え方を理解しようとする努力が必要です。
反発しているように見える新入社員も、実際には緊張しているだけかもしれません。先輩や上司とどのように接したらよいのか分からず、うまく振る舞えていないこともあります。
会社には、そうした気持ちも受け止めながら、人を育てていく度量が求められます。
25年の経験で変わった「問題社員」への向き合い方
昔なら退職支援を続けていたかもしれない
私は社労士として開業して25年になります。
これまで、「問題のある社員にどのように辞めてもらえばよいか」という相談を受け、退職に向けた支援をすることも少なくありませんでした。
今回も当初は退職の方向を考えていましたが、本人と面談したことで、その見方が変わりました。
労務管理や面談では、知識だけではなく、場数や経験も判断に影響します。私自身、昔の自分であれば、会社の依頼どおり新入社員の退職を支援していたかもしれません。
その意味では、今回の対応を通じて、私自身も社労士として成長したと感じています。
社員を辞めさせること自体が目的ではない
社労士の仕事の目的は、社員を退職させることそのものではなく、会社の成長や職場の活性化、よりよい職場環境づくりを支えることにあると私は考えています。
今回、新入社員が生き生きと仕事を続けられるようになったことは、本当にうれしい結果でした。私自身、「一人の若者の人生を救えたような気持ちだ」と感じました。社労士として、これほど嬉しいことはありません。
会社から依頼された結論へそのまま進むのではなく、現場を見て、当事者の話を聞き、その会社にとって何が本当に必要なのかを考える。それが、本当の意味での社労士の役割・貢献ではないかと感じました。
これからも、現場主義社労士として、多くの会社の職場活性化を支援していきたいと思っています。
よくある質問
新入社員が上司に反発している場合、すぐに退職を検討すべきですか?
反発しているという事実だけで、本人だけに問題があると決めつけるのは早い場合があります。
今回のケースでは、本人への面談だけでなく、受け入れる側である製造部長の指導方法や接し方も確認したことで、双方に改善すべき点があることが見えてきました。
退職を検討する前に、本人がなぜそのような状態になっているのか、上司との関係や会社側の受け入れ方にも課題がないかを整理することが重要です。
新入社員の指導がうまくいかないとき、会社側は何を見直すべきですか?
本人への指導内容だけでなく、上司や先輩社員がどのように接しているか、新入社員を育てる体制があるかという視点も必要です。
従来の仕事観や指導方法だけでは、若い社員とうまく意思疎通できないこともあります。
新入社員に成長を求めるのであれば、受け入れる側も相手の価値観や状況を理解し、育て方を見直していくことが大切です。
まとめ
新入社員が職場でうまくいかず、上司への反発が続いていると、本人の資質や勤務態度だけに原因を求めてしまいがちです。
しかし今回のケースでは、本人と向き合うと同時に、会社側の受け入れ体制や管理職の指導方法にも目を向けたことで、当初とは異なる解決の方向が見えてきました。
人材を採用し、定着させ、成長してもらうためには、新入社員本人だけでなく、受け入れる側にも人を育てる力が求められます。
問題が起きたときほど、どちらか一方を問題と決めつけず、現場で何が起きているのかを確認すること。その視点が、社員の可能性を生かし、よりよい職場づくりにつながるのではないでしょうか。
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