
【担当者ガイド】休業補償とは?支給期間・計算方法・企業が行うべき対応まとめ
労働者が業務中の事故や通勤途上の災害によって就労が困難になった場合、企業には「休業補償」に関する正確な対応が求められます。
しかし、制度の仕組みや支給要件が複雑であることから、「どこまでが企業の責任なのか」「企業は具体的にどのような対応をしなければならないのか」と不安に感じる担当者の方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、企業の人事・労務担当者向けに、休業補償と傷病手当金の違い、企業として行うべき対応のポイント、さらに支給要件・計算方法・申請手続きの流れまで、実務に必要な知識を網羅的に解説します。
ぜひ最後までご一読いただき、自社の労務対応にお役立てください。
休業補償とは
「休業補償」とは、労働者が業務災害や通勤災害によって働けなくなり、賃金を受けられない場合に支給される、労働者災害補償保険(以下、労災保険)の給付制度のひとつです。
労災保険の給付制度では、正社員・契約社員・パート・アルバイトを含むすべての労働者が補償対象です。
休業が発生した場合、第4日目から労災保険による休業補償給付の支給が始まります。
この章では、「休業補償」に含まれる給付の種類と、混同されやすい「傷病手当金」との違いについて整理します。
休業補償の給付の種類と「休業(補償)等給付」
「休業補償」と一口に言っても、実際には災害の発生状況に応じて、以下の3つに区分されます。
- 休業補償給付(業務災害の場合)
- 休業給付(通勤災害の場合)
- 複数事業労働者休業給付(複数業務要因災害の場合)
これら3種類の給付は、「休業(補償)等給付」としてまとめて位置づけられています。
企業が対応する際は、災害の種類ごとに異なる給付名や支給要件を正しく把握しておくことが重要です。
休業補償と傷病手当金の違い
休業補償と傷病手当金は、どちらも病気やケガで働けない間の収入を補う制度ですが、主に「発生原因」と「利用する保険」が異なります。
それぞれの違いは以下のとおりです。
比較項目 | 休業補償(休業(補償)等給付) | 傷病手当金 |
---|---|---|
対象となる原因 | 業務災害・通勤災害 | 業務外の病気やケガ |
保険の種類 | 労働者災害補償保険(労災保険) | 健康保険 |
根拠法令 | 労働者災害補償保険法 | 健康保険法 |
支給手続き先 | 労働基準監督署 | 全国健康保険協会(支部) 健康保険組合 |
支給開始 | 休業4日目から | 連続する休業4日目から |
1日あたりの支給額 | 給付基礎日額の80% 内訳:給付基礎日額の60%(休業補償給付) +給付基礎日額の20%(休業特別支給金) ※単一事業労働者の場合 |
標準報酬日額の2/3 |
申請者 | 労働者本人 | 労働者本人 |
企業担当者の対応 | 証明欄の記入、賃金証明書類の作成など | 申請書への事業主証明記入 |
なお、労災保険から休業補償給付を受けている場合、同じ病気やケガに対して傷病手当金は支給されません。
企業は、災害の発生原因や状況を正確に確認したうえで、適用される保険制度に応じた証明書類の作成や事業主証明の記入など、必要な手続きを適切に進めましょう。
休業補償の支給要件
休業(補償)等給付を受けるためには、次の3つの要件をすべて満たす必要があります。
【休業(補償)等給付の支給要件】
- 業務災害または通勤災害による病気やケガで、療養している
- 労働ができない
- 賃金が支払われていない
「②労働ができない」の判断は労働者本人の自己判断ではなく、必ず医師による診断と証明が必要です。
これらの要件をすべて満たし、労働者が正しく申請した場合は、休業開始から4日目以降から休業(補償)等給付が支給されます。
休業補償の支給期間
休業(補償)等給付の支給開始と終了については、労働者災害補償保険法およびその施行規則で定められています。
ここでは、実務担当者として知っておきたい支給期間の基本をわかりやすく解説します。
いつから受けられるか
休業(補償)等給付は、前述のとおり一定の要件を満たしている場合に限り、休業開始から4日目以降に労働基準監督署へ申請ができ、審査が通ると支給されます。
一方、初日から3日目までは「待期期間」とされ、労災保険からの給付はありません。
業務災害の場合、この待期期間中は企業が労働基準法第76条に基づき、平均賃金の60%以上の休業補償を支払う必要があります。ここでも、「休業補償」という言葉が使われますが、労災保険法の給付とは別物ですので注意してください。
通勤災害・複数業務要因災害の場合は、企業の補償責任に関しての法律上の規定がないため、休業補償の支払い義務はありません。
いつまで受けられるか
休業(補償)等給付の支給期間は、ケガや病気が治るか、症状がこれ以上改善しないと判断されるまで続きます。
ただし、療養開始から1年6か月を経過すると、「傷病(補償)等年金」への移行が検討されます。この際、医師や労働基準監督署の判断により、以下のすべての要件を満たした場合に「傷病(補償)等年金」へ切り替わります。
- 休業の原因となった病気やケガが治っていない
- 障害等級表に定められる傷病等級(1級~3級程度の重度障害)に該当する状態
なお、傷病(補償)等年金への切り替えに際して企業が行う手続きはありませんが、労働者からの相談に備えて制度の流れを把握しておくことが重要です。
休業補償における支給額の計算方法
この章では、休業(補償)等給付の具体的な計算方法と、その基礎となる「給付基礎日額」について、分かりやすく解説します。
基本的な計算方法
休業(補償)等給付の支給は、「休業(補償)等給付」に「休業特別支給金」が加算され、給付基礎日額の80%が休業1日につき支給されます。
給付の種類 | 支給割合 |
---|---|
休業(補償)等給付 | 給付基礎日額の60% |
休業特別支給金※ | 給付基礎日額の20% |
※休業特別支給金とは、すべての休業(補償)等給付の対象者に対して、一律に上乗せされる特別給付です。この制度は労働者災害補償保険法附則に基づく制度で、休業補償を補完し、労働者の生活保障を目的としています。
したがって、休業1日あたり給付基礎日額の80%にあたる額が補償される仕組みです。
【休業(補償)等給付の計算方法】
1日あたりの休業(補償)等給付額=給付基礎日額×80%
以下、給付基礎日額の算出方法について解説します。
給付基礎日額とは
給付基礎日額とは、原則として「労働基準法における平均賃金と同じ計算方法で算出される1日あたりの賃金額」です。
ここでの平均賃金とは、休業開始直前の3か月間に支払われた賃金(賞与・臨時手当を除く)の合計を、その期間の暦日数で割って計算します。
この給付基礎日額をもとに、実際の支給額が計算されます。以下に、具体的な計算例を紹介します。
【休業(補償)等給付の支給額算出例】
【前提条件】
- 休業開始直前の3か月間の賃金総額:900,000円
- 同期間の暦日数:92日
【1.給付基礎日額の計算】
- 900,000円÷92日=9,782.60円≒9,783円(※1円未満は切り上げ)
【2.支給額の計算】
- 休業(補償)等給付:9,783円×60%=5,869.8円≒5,869円(※1円未満は切り下げ)
- 休業特別支給金:9,783円×20%=1,956.6円≒1,956円(※1円未満は切り下げ)
- 合計:5,869円+1,956円=7,825円(1日あたり)
この1日あたりの支給額(7,825円)に、休業4日目以降の休業日数を乗じた金額が、総支給額となります。
なお、複数の事業所で就業している場合(複数事業労働者休業給付)は、すべての就業先で支払われた賃金を合算して計算する点に注意が必要です。
企業は、労働者から賃金証明の依頼があった場合に、正確な賃金情報を証明できるよう準備しておくことが求められます。
休業補償の申請に必要な書類
引用:休業補償給付・複数事業労働者休業給付支給請求書(様式第8号)
休業(補償)等給付を受けるためには、労働者本人が労働基準監督署に書類を提出して申請します。
ただし、申請書類には企業側が記入・証明する欄が含まれており、賃金や勤務日数などの正確な情報提供が求められます。
ここでは、労働者の種類別に必要な申請書類と、必要となる添付書類について詳しく解説します。
単一事業労働者の場合
一般的なケース(1社のみで働いている労働者)で労働者が休業する場合は、対象となる休業によって必要な書類が異なります。
対象となる休業 | 必要書類 |
---|---|
業務災害 | 休業補償給付・複数事業労働者休業給付支給請求書(様式第8号) |
通勤災害 | 休業給付支給請求書(様式第16号の6) |
なお、業務災害の場合は、同じ「様式第8号」で休業特別支給金の申請も同時に行えます。別途書類を用意する必要はありません。
複数事業労働者の場合
副業・兼業などで複数の事業所で働いている労働者が休業する場合は、「複数事業労働者休業給付」の申請をします。
この場合も、対象となる休業によって使用する申請書類が異なります。
対象となる休業 | 必要書類 |
---|---|
業務災害 | 休業補償給付・複数事業労働者休業給付支給請求書(様式第8号) |
通勤災害 | 休業給付支給請求書(様式第16号の6) |
業務災害の場合は、単一事業労働者と同じ「様式第8号」を使用しますが、申請書の中で「複数事業労働者」であることを記載して手続きを行います。
また、他の事業所に関する情報は、別紙として追加提出する必要があります。
請求書は厚生労働省のホームページからダウンロードができ、e-Govによる電子申請も可能です。記入見本は、厚生労働省「休業補償等給付・傷病補償等年金の請求手続」のパンフレットでご確認ください。
提出に当たって必要となる添付書類
休業(補償)等給付の申請では、基本的な申請書類のほかに、次のようなケースに該当する場合、追加の添付書類が必要です。
該当するケース | 必要な添付書類 |
---|---|
「賃金を受けなかった日」に、一部だけ勤務した日が含まれる場合(時短勤務・部分休業など) | 様式第8号または様式第16号の6の別紙2 |
複数事業労働者であり、申請書に記載した事業所以外にも勤務先がある場合 | 様式第8号または様式第16号の6の別紙1~別紙3(他事業所の情報) |
このほか、申請内容に応じて、労働者から追加書類作成の依頼がある場合もあります。
必要書類の内容を正しく把握し、労働者から依頼があった際は迅速に対応できるよう準備しておきましょう。
休業補償の申請手続きの流れ
休業(補償)等給付の申請は基本的に労働者本人が行います。企業側に求められるのは、申請手続きそのものではなく、「証明協力」です。
以下に、給付申請手続きの流れと、実務担当者が行う対応を表にまとめました。
手続きの流れ | 労働者本人 | 企業が行う対応 |
---|---|---|
①労災事故の発生 | 業務災害または通勤災害で休業 | - |
②申請書類の準備 | 災害の状況に合った申請書類を用意 | 証明欄の記入・賃金情報の提供 |
③労働基準監督署へ提出・申請 | 本人が提出・申請(または代理提出) | 入院や療養で動けないときは、企業が代理で提出・申請を行う場合もある |
④監督署で審査・支給決定 | 審査結果に基づき直接支給される | - |
休業が長期に及ぶ場合、一度の申請で自動的に支給が続くわけではありません。休業の期間ごとに、労働者本人が追加請求を行う仕組みになっており、都度、申請手続きが必要です。
企業側は通常、2回目以降の申請では証明書類の作成は不要ですが、離職前の期間を含む場合などは再度証明協力が求められる可能性があります。
休業補償における企業が行うべき実務対応
労働災害が発生した場合、企業の実務担当者が行うべき対応は大きく分けて2つあります。
以下に詳しく解説します。
①証明書類の記入・書類提出サポート
休業(補償)等給付の申請では、企業による証明や書類提供が不可欠です。具体的な実務内容は以下のとおりです。
-
申請書類(様式第8号など)への署名・必要情報の記入
労働者から提出された申請書(様式第8号など)には、出勤状況や賃金支払い状況を証明するための企業側の署名欄があります。
休業開始前3か月間の出勤日数や賃金支払い状況を、賃金台帳や出勤簿をもとに正確に記入し、内容を確認したうえで署名します。
-
必要書類の提供
通常は企業が証明欄への記入を行いますが、状況に応じて労働者から賃金台帳等の確認資料の提供を依頼される場合もあります。求められた際は、必要な範囲で対応しましょう。
請求書を労働基準監督署へ提出してから支給されるまでには、通常1か月程度かかります。
証明や書類提供が遅れると、労働者への支給も遅れるため、依頼があった場合は迅速に対応しましょう。
②待期期間(初日~3日目)の休業補償の支払い
休業(補償)等給付は、休業4日目から労災保険より支給されます。
一方で、休業初日から3日目までの待期期間については、労災保険からの給付がないため、業務災害の場合に限り、労働基準法第76条に基づき企業側が以下の対応をする必要があります。
- 対象期間の支給:休業開始日から「通算して」3日間
- 支払い額:平均賃金の60%以上
なお、通勤災害は、労働基準法上の「業務上の災害」に該当しないため、企業に休業補償の支払い義務はありません。
このほか、労働者から相談があった場合は、申請は本人が行う制度であることを伝え、企業は証明や書類提供に協力することを説明しましょう。
よくある質問
ここでは、休業(補償)等給付に関して、企業担当者から特に質問の多い内容をQ&A形式で解説します。
Q.1|1日でも会社を休んだ場合、休業(補償)等給付はもらえますか
A.休業初日から通算して3日間は「待期期間」とされ、労災保険の給付対象外です。したがって、1日のみの休業では、支給されません。
なお、待期期間中は、業務災害の場合のみ企業が労働基準法76条に基づき平均賃金の60%以上の休業補償を支払う義務があります。
Q.2|出勤しながら週に1回通院、休業(補償)等給付をもらえますか
A.通院した日に支払われた賃金額によって判断されます。
- 平均賃金の60%未満の場合
その日は「休業した日」として扱われ、通院日も支給対象になります。 - 平均賃金の60%以上の場合
賃金が支払われた日として判断され、支給対象外です。
休業(補償)等給付は、休業が通算3日間以上になった場合にのみ支給対象となり、賃金の支払い状況によって通院日も支給対象になる可能性があります。
企業担当者は、待期期間中の休業補償の支払い義務や支給対象の判断基準について、基本的な仕組みを理解しておきましょう。
まとめ|「万が一」に備え、休業補償制度への理解を深めましょう
本記事では、休業補償制度の基本から傷病手当金との違い、企業が行うべき具体的な対応まで、実務担当者に必要なポイントを整理して解説しました。
休業補償は、休業4日目から給付基礎日額の80%が補償される制度であり、企業は証明書類の記入・賃金情報の提供など、申請手続きにおける重要なサポート役を担います。
労働災害は突然発生するため、休業補償の支払い判断や申請書類の作成など、企業が行うべき対応は日頃から整理しておくことが重要です。
制度対応に不安がある場合は、社労士など専門家と連携し、万が一に備えた実務体制を整えておくと安心です。
休業補償について社労士に相談する
社労士を探す際には、全国6,000以上の事務所(全国の依頼可能な社労士の20%)の社労士が登録する、中小企業福祉事業団の「社労士ナビ」をご活用ください。
この企業と社労士をつなぐ日本最大級のポータルサイトでは、地域や得意分野などを指定して社労士を探せるので、自社のニーズに合った社労士が簡単に見つかります。
初回相談が無料の社労士も多いため、事務所のスタンスや人柄をしっかり見極めた上で依頼しましょう。