静かな退職とは?意味や原因、企業が取るべき対策を解説
「最近、最低限の業務しかしない従業員が増えた」「仕事はこなしているものの、以前より主体性が感じられない」と感じることはありませんか。このような状態は「静かな退職」と呼ばれ、近年、多くの企業で注目されています。本記事では、静かな退職の意味や広まった背景、企業経営に与える影響、予防・改善策、労務管理上の注意点まで、人事・労務担当者が押さえておきたいポイントをわかりやすく解説します。
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静かな退職とは?意味と注目される背景

静かな退職とは、従業員が会社を辞める意思を示すのではなく、雇用契約で最低限求められる業務は果たしながら、それ以上の役割や責任を積極的に引き受けない働き方を指します。近年は働き方や価値観の変化を背景に注目されており、人材マネジメントの観点から理解することが重要です。この章では、静かな退職の意味や広まった背景、誤解されやすいポイントを整理し、企業が適切に捉えるための判断軸を解説します。
静かな退職の意味と「退職」との違い
静かな退職(Quiet Quitting)は、実際に会社を退職することではありません。従業員が就業規則や雇用契約で定められた業務は遂行する一方で、時間外労働や自主的な業務改善、役職以上の責任などを必要以上に引き受けない姿勢を指します。例えば、終業時刻後のメール対応や休日対応を控えたり、担当業務以外の仕事を積極的に引き受けなかったりするケースが挙げられます。そのため、静かな退職と勤務態度不良や職務放棄は区別して考える必要があります。
静かな退職が広まった背景
静かな退職が注目されるようになった背景には、働き方に対する価値観の変化があります。新型コロナウイルス感染症の拡大を契機に、仕事と私生活のバランスを重視する考え方が広がり、「期待以上に働くこと」よりも「契約どおりに働くこと」を選択する人が増えました。また、人手不足による業務負担の増加や、評価への納得感の不足なども要因の一つとされています。企業としては、個人の価値観の変化と組織運営の両面から状況を把握することが求められます。
静かな退職に対するよくある誤解
静かな退職は、必ずしも仕事への意欲がない状態を意味するものではありません。担当業務は責任を持って遂行し、高い成果を維持している従業員も少なくありません。また、「静かな退職をしているから評価を下げる」「退職を勧奨する」といった一律の対応は適切ではなく、人事評価は実際の職務遂行状況や評価基準に基づいて行う必要があります。企業は表面的な印象だけで判断せず、背景や職場環境も含めて総合的に把握する姿勢が重要です。
静かな退職が起こる原因
静かな退職は、従業員本人の意識だけが原因で生じるものではありません。評価制度や人事マネジメント、職場環境など、企業側の要因が影響している場合もあります。そのため、「やる気がない」と決めつけるのではなく、なぜ最低限の業務にとどめる働き方を選んでいるのかを把握することが重要です。この章では、企業が確認すべき主な原因を整理し、改善の糸口となる視点を解説します。
仕事への評価やキャリアへの不満
努力や成果が適切に評価されないと感じると、従業員は「期待以上に働いても報われない」と考え、契約で求められる範囲の業務にとどめる傾向があります。例えば、成果を上げても昇給や昇進につながらない、評価基準が不明確で納得感が得られないといった状況です。また、将来のキャリアパスが見えないことも、仕事への主体性を低下させる要因になります。企業は評価基準の透明性やキャリア形成支援の充実を図ることで、従業員の納得感を高めやすくなります。
過重労働やワークライフバランスの変化
長時間労働や慢性的な業務過多が続くと、心身への負担から「必要以上には働かない」という考え方を選択する従業員が増えることがあります。近年は仕事だけでなく、育児や介護、自己啓発など私生活との両立を重視する価値観も広がっています。そのため、残業を前提とした業務運営や、一部の従業員へ負担が偏る体制では、静かな退職につながる可能性があります。業務量の適正化や適切な労働時間管理は、こうした状況を防ぐうえで重要な取り組みです。
労働時間を適切に把握する方法については、「勤怠管理とは?仕事内容から対象・管理方法まで徹底解説!」もあわせてご覧ください。
また厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」も参考にしてください。
職場環境やマネジメントの課題
上司とのコミュニケーション不足や心理的安全性の低い職場では、自ら提案したり新しい仕事に挑戦したりする意欲が低下しやすくなります。例えば、意見を述べても受け入れられない、失敗を過度に責められる、相談しにくいといった雰囲気がある場合には、従業員は目立たない働き方を選ぶことがあります。また、管理職が業務管理に追われ、適切なフィードバックや面談を十分に実施できていないケースも少なくありません。定期的な1on1ミーティングや管理職研修を通じて、信頼関係を築ける職場づくりが求められます。
静かな退職が企業に与える影響

静かな退職は、従業員が直ちに退職するわけではないため見過ごされやすい一方、組織全体にはさまざまな影響を及ぼす可能性があります。個人の働き方にとどまらず、周囲の従業員や組織文化にも波及することがあるため、企業は短期的な成果だけで判断しないことが大切です。この章では、生産性や職場環境、人材確保の観点から企業への影響を解説します。
生産性や組織パフォーマンスへの影響
静かな退職の状態にある従業員が増えると、組織全体の生産性に影響が及ぶ場合があります。契約上の業務は遂行されるため直ちに問題が表面化するとは限りませんが、業務改善の提案や部門横断の協力、新しい取り組みへの参加など、自発的な行動が減少する可能性があります。その結果、変化への対応力やイノベーションが生まれにくくなり、組織全体のパフォーマンス向上が停滞することも考えられます。
職場のエンゲージメント低下
一部の従業員が最低限の業務にとどめる働き方を続けると、周囲の従業員にも心理的な影響を与えることがあります。例えば、「頑張っても評価されない」という認識が広がると、主体的に行動する意欲が低下し、職場全体のエンゲージメントが下がるおそれがあります。また、積極的に業務へ取り組む従業員へ負担が集中すると、不公平感が生じやすくなります。企業は個人だけでなく、組織全体の意識や職場風土にも目を向けることが重要です。
離職や人材確保への影響
静かな退職は必ずしも離職の前兆とは限りませんが、不満や疲労感が解消されない状態が続けば、転職を選択する可能性は高まります。また、既存社員のエンゲージメント低下は、採用活動にも影響を及ぼすことがあります。口コミサイトや社員紹介などを通じて職場環境が評価される機会が増えているため、働きがいのある職場づくりは採用競争力にも関わります。定着率の向上と採用力の維持を両立するためにも、従業員の声を継続的に把握する仕組みを整えることが重要です。
静かな退職を防ぐために企業が取り組むべき対策

静かな退職への対応では、従業員個人の意識改革を求めるだけでは十分とはいえません。評価制度やコミュニケーション、働きやすい環境づくりなど、組織全体の仕組みを見直すことで、従業員が意欲を持って働ける環境を整えることが重要です。この章では、多くの企業が実践しやすい取り組みを紹介し、継続的な組織改善につながるポイントを解説します。
定期的な1on1やコミュニケーションの充実
静かな退職を未然に防ぐには、従業員の変化を早期に把握できる仕組みを整えることが重要です。定期的な1on1ミーティングでは、業務の進捗確認だけでなく、仕事への不安や将来の希望、職場で感じている課題などを聞き取る機会を設けましょう。また、管理職が一方的に評価や指示を伝えるのではなく、対話を重視する姿勢が信頼関係の構築につながります。小さな変化を見逃さない継続的なコミュニケーションが、意欲低下の予防に役立ちます。
適正な評価制度とキャリア支援
従業員が納得感を持って働くためには、成果だけでなく評価基準や期待される役割を明確に示すことが大切です。例えば、評価項目を公開し、評価結果についてフィードバックを行うことで、自身の課題や成長の方向性を理解しやすくなります。また、研修や資格取得支援、ジョブローテーションなど、将来のキャリア形成を支援する制度を充実させることで、「この会社で成長できる」という実感を持ちやすくなります。
人事評価や人材育成の基準を検討する際は、厚生労働省が公開している「職業能力評価基準」も参考になります。
働きやすい職場環境の整備
働きやすい環境づくりには、制度の導入だけでなく、実際に利用しやすい職場風土を醸成することも欠かせません。例えば、業務量の偏りを定期的に確認して適切に調整することや、有給休暇を取得しやすい体制を整えることは、過度な負担の軽減につながります。また、育児や介護など、多様な事情を抱える従業員にも柔軟に対応できる制度を運用することで、仕事と私生活を両立しやすい環境を実現できます。制度と運用の両面から改善を進めることが、長期的な定着率向上にもつながります。
年次有給休暇を取得しやすい環境づくりについては、厚生労働省の「年次有給休暇取得促進特設サイト(事業主の方へ)」で、制度や具体的な取り組みが紹介されています。
静かな退職と法律・労務管理で注意すべきポイント

静かな退職への対応では、企業の期待と法的な取り扱いを混同しないことが重要です。従業員が契約上の業務を適切に遂行している場合、会社が期待する「自主性」や「積極性」が不足しているという理由だけで、不利益な取り扱いを行うことは慎重に判断する必要があります。この章では、労務管理の観点から企業が押さえておきたい注意点と、適切な対応方法について解説します。
労務管理の基本や企業が注意すべき課題については、「労務管理とは?人事管理との違いから自社運用のコツまでわかりやすく解説」で詳しく解説しています。
静かな退職は懲戒事由になるのか
静かな退職であること自体は、直ちに懲戒処分の対象になるわけではありません。従業員が雇用契約や就業規則で定められた職務を適切に遂行しているのであれば、「期待以上の働きをしない」という理由のみで懲戒処分を行うことは難しいと考えられます。一方で、無断欠勤や職務命令への正当な理由のない拒否、著しい職務怠慢などがある場合は、静かな退職とは別の問題として就業規則に基づく対応を検討する必要があります。事実関係を整理し、感情的な判断を避けることが大切です。
人事評価や配置転換で注意すべき点
人事評価は、あらかじめ定めた評価制度や基準に基づき、公平かつ客観的に実施することが求められます。そのため、「積極性が感じられない」という印象だけで評価を下げるのではなく、実際の業務成果や能力、役割の達成状況を総合的に確認することが重要です。また、配置転換を実施する場合も、本人への十分な説明や業務上の必要性を踏まえて進めることが望まれます。納得感のある人事制度の運用は、労使間の信頼関係の維持にもつながります。
ハラスメントにならない対応方法
静かな退職が疑われる従業員に対して、「やる気がない」「会社に貢献していない」などと人格を否定するような言動は避けなければなりません。繰り返し過度な叱責を行ったり、意図的に孤立させたりする行為は、パワーハラスメントと評価される可能性があります。面談では事実に基づいて業務状況を確認し、本人の考えや困りごとを丁寧に聞き取る姿勢が重要です。改善が必要な事項は、具体的な行動や期待する役割を明確に伝え、継続的なフォローを行うことで建設的な解決を目指しましょう。
指導とパワーハラスメントの違いや企業に求められる対応については、「企業が知っておくべきパワハラ対策|判断基準と法的義務」も参考にしてください。
また厚生労働省の「職場におけるハラスメントの防止のために」をご確認ください。
静かな退職は社労士に相談すべき?自社対応との判断基準

静かな退職への対応は、日常的なコミュニケーションやマネジメントの改善で解決できるケースがある一方、制度設計や労務リスクへの対応が必要になるケースもあります。重要なのは、すべてを専門家へ任せることではなく、自社で対応できる範囲と専門家の支援を受けるべき範囲を切り分けることです。この章では、その判断基準と社会保険労務士へ相談するメリットを解説します。
社内で対応できるケース
静かな退職の兆候が見られても、従業員との対話不足や業務負担の偏りなどが原因であれば、まずは社内で改善を図ることができます。例えば、1on1ミーティングの実施、業務量の見直し、評価基準の説明、キャリアに関する面談などは、企業が主体的に取り組みやすい施策です。また、従業員アンケートやエンゲージメント調査を実施し、組織全体の課題を把握することも有効です。早い段階で原因を把握できれば、離職や組織への影響を抑えられる可能性があります。
社労士へ相談したほうがよいケース
就業規則や人事評価制度の見直しを検討している場合や、従業員への対応方法に法的な懸念がある場合は、社会保険労務士へ相談することをおすすめします。例えば、評価の運用が不公平ではないか確認したい、配置転換や懲戒処分の可否を判断したい、ハラスメントに発展するリスクを避けたいといった場面では、労働関係法令や労務管理の実務を踏まえた助言が役立ちます。問題が顕在化してからではなく、制度改善の段階で相談することで、将来的な労務トラブルの予防にもつながります。
相談することで期待できる支援内容
社会保険労務士は、個別事案への助言だけでなく、組織全体の労務管理体制の整備も支援できます。具体的には、就業規則や人事評価制度の整備・改定、管理職向けの労務研修、ハラスメント防止体制の構築、従業員との面談制度の設計などが挙げられます。また、企業の実情に応じた運用方法を提案できるため、制度だけを整備して終わるのではなく、継続して機能する仕組みづくりを進めやすくなります。静かな退職への対応をきっかけとして、働きやすく納得感のある職場づくりを目指すことが重要です。
企業で起こりやすい労働問題や社労士へ相談する際のポイントについては、「社労士に相談すべき労働問題とは?企業が直面しやすい課題と解決策」もあわせてご確認ください。
静かな退職について社労士に相談する
社労士を探す際には、全国7,000以上の事務所(全国の依頼可能な社労士の23%)の社労士が登録する、中小企業福祉事業団の「社労士ナビ」をご活用ください。この企業と社労士をつなぐ日本最大級のポータルサイトでは、地域や得意分野などを指定して社労士を探せるので、自社のニーズに合った社労士が簡単に見つかります。初回相談が無料の社労士も多いため、事務所のスタンスや人柄をしっかり見極めた上で依頼しましょう。