障害者雇用の基本と企業が押さえるべき実務ポイントを解説
近年、企業における障害者雇用は着実に進んでいます。
国が発表した令和7年障害者雇用状況の集計結果では、民間企業の雇用障害者数は70万4,610人、前年から2万人以上増加して過去最高を更新しました。
一方で、法律で定められた障害者の雇用人数を達成している企業は46.0%にとどまっています。制度として理解していても、実務対応に課題を感じている企業が多いのが実情です。
障害者雇用では、採用だけでなく、雇用率の管理や合理的配慮、雇用後のフォローなど、継続的な対応が求められます。また、2026年7月には法定雇用率の引き上げと対象企業の拡大も予定されており、今後は、より計画的な対応が必要になります。
本記事では、障害者雇用の基本制度を整理し、雇用を進めるメリットや課題への備え方、社労士がサポートできる範囲について分かりやすく解説します。
法令遵守し、制度対応をスムーズに進めたい実務担当者の方は、ぜひ最後までご覧ください。
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障害者雇用とは|企業が知っておくべき基本と責任

障害者雇用とは、「障害者雇用促進法」で定められた「障害者雇用率制度」に基づき、企業が障害のある人を雇用する取り組みです。
企業の自主的な判断に委ねられているものではなく、法律に基づく義務制度として位置づけられている点が大きな特徴です。
ここでは、障害者雇用の基本として、企業が押さえておくべき制度の枠組みや対応すべき義務について整理します。
障害者雇用率制度と対象企業
障害者雇用率制度は、事業主に対し、常時雇用している労働者※の一定割合以上の障害者を雇用することが求められている制度です。この一定割合のことを法定雇用率といいます。
(※常時雇用している労働者とは、雇用形態にかかわらず、週の所定労働時間が20時間以上で、1年を超えて雇用される見込みがある労働者を指します。)
また、法定雇用率は、事業主の区分ごとに以下のように定められています。
【事業主区分と法定雇用率】
| 事業主区分 | 法定雇用率 |
|---|---|
| 民間企業 | 2.5% |
| 国、地方公共団体など | 2.8% |
| 都道府県などの教育委員会 | 2.7% |
民間企業の場合、常時雇用している労働者が40人以上の企業に、法定雇用率の達成と年1回の障害者の雇用に関する状況をハローワークへ報告する義務が課されています。
雇用すべき人数の考え方(例)
- 常時雇用する労働者が150人の民間企業の場合:150人×2.5%=3.75人
この場合、法定雇用障害者数は3人です。(※法定雇用障害者数は、計算結果の端数を切り捨てて算定)
なお、民間企業の法定雇用率は現在2.5%ですが、2026(令和8)年7月に2.7%に引き上げられる予定です。あわせて、法定雇用率の達成義務が課される企業の規模も、常時雇用する労働者が37.5人以上へと変更されます。
この引き上げにより、今まで対象外であった企業が障害者雇用の対象となるだけでなく、雇用すべき障害者の人数が増加する可能性もあります。こうした変化に備えるためにも、制度を正しく理解し、必要に応じて専門家の支援の検討をすることが重要です。
雇用率の対象になる障害者の範囲
障害者雇用率の算定対象となるのは、法律で定められた障害者に限られます。
具体的には、次のいずれかに該当する方が対象です。
- 身体障害者:身体障害者手帳1~6級に該当する方
- 知的障害者:児童相談所などの公的機関で、知的障害者と判定された方
- 精神障害者:精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている方
これらはいずれも、手帳の有無や公的な判定に基づいて判断されます。本人の申告や企業側の判断のみでは、雇用率の算定対象とはなりません。
算定対象を誤ると、雇用率を達成しているつもりでも実際には未達成となり、企業にリスクが生じるおそれがあります。そのため、正しい対象範囲の理解が必要です。
障害者雇用で利用できる支援制度・サービス
障害者雇用を進める事業主向けに、採用前から雇用後までを支援する制度やサービスが用意されています。
採用前の支援では、障害者雇用の事例を紹介するサイトや事例集を通して、具体的なイメージをつかめます。また、セミナーや職場実習、トライアル雇用などを活用することで、実際の仕事に合うかどうかを確かめながら雇用判断を進めることが可能です。
雇用開始後の支援では、ジョブコーチ支援により、作業内容の工夫や指導方法について助言を受けられ、職場定着をサポートしてもらえます。
これらの支援策には、企業の経済的負担を軽減する助成金制度も含まれています。制度ごとに要件や手続きが異なるため、自社の状況に応じて活用を検討することが重要です。
障害者雇用の基本的な流れと企業を支援する機関

障害者雇用は、企業とハローワークや地域障害者職業センター、特別支援学校など各種支援機関と連携しながら進めます。
それぞれの支援機関が事業主に行うサポート内容と、障害者を雇用するまでの基本的な流れは、以下のとおりです。
障害者雇用をサポートする支援機関
障害者雇用のため事業主が支援を受けられる機関は、主に以下の3つです。
公共職業安定所(ハローワーク)
- 求人受理・職業紹介を中心に、雇用管理に関する相談、地域障害者職業センターなど専門機関の紹介、各種助成金の案内や一部助成金の申請受付
地域障害者職業センター(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構)
- 障害者の雇用計画や、職場配置・職務設計、職場での配慮や業務の指導方法についてのサポート、労働者への研修など
障害者就業・生活支援センター
- 雇用管理についての相談、企業訪問による支援
障害者の特性や必要な配慮について、雇用の検討段階から採用活動、雇用後まで、長期的にサポートします。
障害者雇用の手順(一例)
障害者雇用の基本的な手続きの流れは以下のとおりです。
障害者雇用の基本的な流れ
- 障害者雇用への理解促進
・障害者雇用率制度や企業の義務を確認する
・自社が制度の対象となるかを把握する
・ハローワークに相談し、障害者雇用の進め方や支援制度の説明を受ける - 配置部署や任せる業務内容を検討する
・社内で既存業務の棚卸しを行い、切り出し可能な業務を整理する
・受け入れ部署や担当者の決定をする
・地域障害者職業センターなどの支援機関から、業務内容の設定や配慮事項について助言を受ける - 受け入れ体制や労働条件を整える
・雇用形態や就業時間、業務内容を整理する
・職場環境や設備面について確認し、必要な配慮を検討する
・社内の相談窓口やフォロー体制を明確にする - 採用活動を行う(募集から採用まで)
・ハローワークなどを通じて求人を行う
・面接時に業務内容や必要な配慮について丁寧にすり合わせを行う
・利用可能な助成金制度を確認する - 雇用開始後のフォローと職場定着
・業務内容や合理的配慮の内容について定期的に見直しを行い、本人との面談を実施する
・就業・生活支援センター等と連携し、職場定着を支援する
・ジョブコーチ支援を活用し、現場での指導やコミュニケーション面をサポートする
担当する業務内容や受け入れ環境によって求める人材や進め方は異なるため、上記はあくまで基本的な一例です。
いずれの場合も、企業は障害者を雇用して終わりではなく、雇用後も支援機関と連携しながら定着までを見据えて丁寧に進めることが大切です。
障害者雇用が企業にもたらす3つのメリット

障害者雇用は、法令対応や義務という側面だけでなく、企業の評価向上や人材確保、業務改善にもつながる取り組みです。
ここでは、企業が実務の中で実感しやすい3つのメリットを整理します。
①共生社会の実現への貢献
障害者雇用は、障害の有無にかかわらず、誰もが働きやすい環境を整えていく「共生社会の実現」の取り組みのひとつです。多様な事情を持つ労働者が働ける職場づくりは、結果として企業全体の働き方の見直しにもつながります。
また、障害者雇用に積極的に取り組む姿勢は、取引先や地域社会からの信頼、企業の社会的評価にも影響を与えます。理念的な側面にとどまらず、企業姿勢を示す取り組みとして評価されやすい点も、障害者雇用のメリットといえるでしょう。
②労働力の確保と人材の多様化
人材不足が続く中で、障害者雇用は現実的な労働力確保の選択肢です。特に中小企業では、採用の選択肢が多くない中で、障害者特有の特性を活かした新たな人材層に目を向けるきっかけになります。
また、障害のある労働者が加わることで、業務への向き合い方やコミュニケーションの取り方に多様性が生まれ、組織全体の視野が広がるケースも多くの企業で見られます。
こうした変化は、大規模な制度改革を行わなくても、日常業務の中で実感しやすい効果です。
③生産性の向上・業務改善
障害者雇用を進める過程では、「どの業務を任せるか」「どうすれば無理なく働けるか」を検討するため、業務の棚卸しや切り出しを行う必要があります。
業務内容を整理する中で、以下のような効果が期待できます。
- 業務がマニュアル化する
- 業務の属人化が解消される
- 業務手順の見直しが進む
これらの業務改善は、障害のある労働者だけでなく、他の労働者にとっても働きやすい環境づくりにつながります。
障害者雇用に伴う企業のリスクと注意点

障害者雇用は企業にとってメリットのある取り組みです。一方で、制度理解や受け入れ準備が不十分なまま進めると、雇用率の未達成による行政指導や企業の対応負担が増えるケースもあります。
ここでは、障害者雇用に取り組む際に、企業が直面する可能性のあるリスクと注意点を整理します。
障害者雇用率未達成による行政指導
法定雇用率を満たしていない対象となる企業は、ハローワークより雇用状況の確認や、改善に向けた対応を求められることがあります。
未達成が確認された場合、企業には「雇入れ計画」の作成および実施が求められ、その進捗状況が不十分な場合には追加の指導を受ける可能性があります。
行政指導は段階的に進められますが、改善が見られない場合には、一定の要件のもとで企業名が公表される場合があるため、注意が必要です。
また、突然の退職などにより雇用率を下回るリスクも想定し、自社の雇用率を常に把握したうえで、早期の採用活動や職場定着に向けた面談の継続が欠かせません。
納付金の発生
常時雇用する労働者が100人超(101人以上)の事業主には、法定障害者雇用率の達成状況によって、毎年1回の障害者雇用納付金の申告・納付が義務づけられています(障害者雇用納付金制度)。
法定障害者雇用率を達成している場合は申告のみですが、未達成の場合には申告だけでなく、未達成人数1人当たり月額50,000円の納付金の納付が必要です。
納付金制度への対応では、主に次のような実務作業が発生します。
- 障害者の雇用人数や雇用形態の確認
- 雇用率の正確な算定
- 期限内での申告書類の作成・提出
制度の理解が不十分なまま対応すると、申告漏れや記載内容の誤りが生じ、追加の確認や修正対応が必要になる可能性もあります。こうした実務負担を抑えるためにも、早めに対応体制を整え、必要に応じて専門家との連携を進めると安心です。
差別・合理的配慮をめぐるトラブル
障害者雇用では、企業に対して、①障害を理由とする差別の禁止、②合理的配慮の提供義務、③合理的配慮提供の手続き、④紛争解決のための手続きの4つが求められます。
これは、障害のある労働者を特別扱いするという意味ではなく、障害の特性によって生じる不利を解消するために、必要かつ合理的な配慮を求めるものです。一方で、どこまで配慮すべきかの判断は難しく、現場任せや一律対応により意図せずトラブルにつながるケースもあります。
こうしたトラブルを防ぐためには、障害の特性や配慮の考え方を事業主と障害者で話し合い、個々に合った体制を整える必要があります。
安定した雇用と職場定着のためには、障害者本人だけでなく、周囲の労働者や管理担当者にとっても無理のない体制整備が欠かせません。
中小企業における障害者雇用の課題

中小企業の障害者雇用では、人事・労務担当者が限られていることも多く、対応が属人的になりやすい点が課題です。
ここでは、企業の障害者雇用における主な課題を整理します。
現場への理解・共有が進みにくい
障害者雇用を人事部門だけで進めてしまうと、受け入れ部署や周囲の労働者に十分な理解が行き届かないケースがあります。その結果、配慮が必要な場面で適切な対応ができず、職場環境が不安定になる可能性もあります。
受け入れ前に、関係部署へ業務内容や配慮事項を共有し、必要以上の特別扱いにならないよう、対応を慎重に進めていくことが必要です。
業務内容や役割設計が難しい
障害者雇用では、「どの業務を任せるか」「どこまでを業務範囲とするか」の判断が重要です。企業側の業務設計が不十分な場合、本人の負担が大きくなり、現場での混乱につながるおそれがあります。
そのため、採用担当者だけで業務範囲を判断せず、現場と情報共有しながら業務内容や役割設計の実施が求められます。
制度・法令対応が複雑で判断に迷う
障害者雇用には、雇用率制度、雇用状況報告、納付金制度、差別禁止や合理的配慮など、複数の制度や法的ルールが関係します。制度改正も行われるため、常に正しい情報を把握することは容易ではありません。
担当者は、自社に関係する制度や義務を整理し、定期的に内容を確認する必要があります。判断に迷う場合は、専門家のサポートを受けると安心です。
障害者雇用をサポートする社労士の業務

障害者雇用は、雇用率制度への対応をはじめ、採用前の準備、雇用後の労務管理、現場での配慮や体制づくりなど、判断や対応に迷いやすい業務が多くあります。
こうした課題に対し、社労士は以下のような実務サポートが可能です。
法令・制度対応の支援
- 障害者雇用について専門家に相談することで、法令対応に対する不安が減るだけでなく、就業規則や労務管理との整合性を確認しながら進めることが可能です。
職場環境・社内体制の整備
- 社労士は、業務内容や役割分担、評価や指示方法を含めた社内ルールとの整合性を整理することが可能です。そのため、企業は障害者だけでなく、一緒に働く労働者にとっても働き続けやすい職場づくりが進められます。
リスク管理とトラブル予防
- 社労士と連携し事前に対応方針を整理しておけば、トラブルの予防ができるだけでなく、問題が生じた場合も迅速な対応が可能です。
助成金・支援制度への対応
- 社労士に相談することで、利用可能な支援制度の情報提供に加え助成金申請に関する書類作成や手続きの代行など、実務面の支援を受けられます。
このように社労士は、企業が判断に迷うポイントを整理し、制度対応と現場実務をつなぐ役割を担います。
障害者雇用に関する制度対応や実務に不安がある場合は、早い段階で社労士に相談することで、担当者の負担を抑えながら、リスクを最小限にした雇用を進めることができます。
よくある質問

ここでは、障害者雇用の手続きや見直す内容に関して、よくある質問をまとめました。
Q1:障害者の職務内容は、どのように選定すればよいですか?
A:職務内容はできそうな仕事を感覚的に決めるのではなく、業務の棚卸しを行い、本人の特性と職場環境の両面を踏まえて検討することが重要です。
職務内容の選定を誤ると、早期離職や現場の混乱につながるケースもあります。特性を活かした配置については、ハローワークや地域障害者職業センターなどの支援機関へ相談し、社内の仕事の内容や要求されるスキルなど、業務の洗い出しは社労士へ相談するとよいでしょう。
Q2:障害者を雇用する場合、就業規則や人事制度は見直す必要がありますか?
A:障害者雇用にあたっては、雇用形態や就業時間などの就業規則、人事評価制度について、必ずしも見直す必要はありません。ただし、実際の業務内容や配慮事項によっては、既存制度との整合性を確認し、必要に応じて見直しを行うことが望ましい場合もあります。
健康管理制度については、定期的な健康診断やストレスチェックを、全労働者が確実に受けられる体制を整えることが望まれます。あわせて、メンタル面の変化にも日頃から目を配ることが大切です。
まとめ|障害者雇用を進めるには社労士との連携が安心

本記事では、障害者雇用の基本的な考え方や制度の概要に加え、企業が実務の中で直面しやすいリスクと対応の進め方について解説しました。
障害者雇用では、企業規模に応じた法定雇用率が定められており、未達成の場合には納付金が発生するほか、行政指導によって企業イメージに影響が及ぶ可能性もあります。
また、障害者を雇い入れるにあたっては、支援機関と連携しながら理解を深めるとともに、現場の受け入れ体制を整えることが重要です。適切な業務選定や社内調整を進めるためには、社労士などの専門家のサポートも欠かせません。
障害者への差別を防ぎ、合理的配慮を行いながら円滑に雇用を進めていくためにも、社労士と連携し、自社の状況に合った進め方を整理していくと安心です。
障害者雇用について社労士に相談する
社労士を探す際には、全国6,000以上の事務所(全国の依頼可能な社労士の20%)の社労士が登録する、中小企業福祉事業団の「社労士ナビ」をご活用ください。
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初回相談が無料の社労士も多いため、事務所のスタンスや人柄をしっかり見極めた上で依頼しましょう。