退職代行とは?企業が押さえるべき対応判断と労務リスク
近年、退職の意思が本人ではなく第三者から伝えられる「退職代行」を利用した退職が増えています。企業側にとっては突然の出来事に感じられますが、対応を誤ると労務トラブルや法的リスクにつながる可能性があります。本記事では、退職代行の基本的な仕組みを整理したうえで、経営者・人事担当者が押さえておくべき対応判断のポイントと、背景にある労務管理上の課題について解説します。
自社にぴったりの社労士が見つかる!
企業と社労士をつなぐ日本最大級のポータルサイト「社労士ナビ」は、地域や得意分野を指定して、自社のニーズに合った社労士を簡単に見つけられます。
退職代行とは?企業が知っておくべき基本知識

退職代行とは、労働者本人に代わって第三者が退職の意思を企業へ伝達するサービスの総称です。近年、若年層を中心に利用が広がっており、企業の人事・労務担当者にとっても無視できない存在となっています。企業側として重要なのは、感情的に捉えるのではなく、法的な位置づけと実務上の取扱いを正しく理解することです。退職は労働者の権利である一方、手続きや対応を誤ると、不要な労務トラブルに発展する可能性があります。そのため、退職代行の基本的な仕組みを把握したうえで、冷静かつ適切に対応できる体制を整えることが求められます。
退職代行の概要と仕組み
退職代行の基本的な役割は、「退職の意思表示を本人に代わって伝えること」です。多くのケースでは、電話や書面、メールなどを通じて企業へ連絡が入ります。ここで注意すべき点は、退職代行業者の多くは、法律事務の代理権を持たないという点です。単なる意思伝達にとどまる場合と、交渉行為(たとえば、年次有給休暇の取扱いに関する交渉)を伴う場合とでは、企業側の対応も異なります。退職の意思そのものは本人のものであるため、誰が伝えたかに関わらず効力が生じる可能性がありますが、業者の立場を見極めずに対応すると、法的リスクを高めてしまうおそれがあります。
退職代行が利用される主なケース
企業側の実務経験から見ると、退職代行が利用されやすいのは、上司とのコミュニケーションが不足している職場や、相談しづらい雰囲気があるケースです。また、入社間もない従業員や、メンタル不調を抱えている従業員が利用する傾向も見られます。必ずしも企業側に特に法令違反等の落ち度があるとは限らず、「直接伝える心理的負担」を避けたいという理由で選ばれることも少なくありません。そのため、退職代行の利用をもって即座に企業責任と結びつけるのではなく、背景を冷静に分析する視点が重要です。
企業側が誤解しやすいポイント
企業が誤解しやすい点として、「退職代行は違法だから無視してよい」「本人から直接連絡がない限り退職を認めなくてよい」といった認識が挙げられます。しかし、退職の意思表示自体は本人の自由であり、形式だけで一概に無効とは言えません。また、対応を誤ると、退職日や賃金精算を巡るトラブルにつながる可能性があります。重要なのは、感情的に拒否するのではなく、法的観点と実務観点の両面から整理することです。この判断を誤らないためにも、専門家(弁護士や社会保険労務士)の助言を得ながら対応することが企業リスクの低減につながります。
退職代行を使われた場合、企業は拒否できるのか?

退職代行業者等を通じて退職の連絡が入った際、「本人から直接言われていない」「会社として認められない」と感じる企業も少なくありません。しかし、結論から言えば、退職代行を利用されたこと自体を理由に一律で拒否することはできません。企業側が感情的に対応してしまうと、退職日や賃金、社会保険手続きなどを巡ってトラブルが拡大する可能性があります。重要なのは、退職の意思表示の効力と、企業が取るべき実務対応を切り分けて考えることです。
退職の自由と労働契約の基本原則
労働者には「退職の自由」があり、期間の定めのない雇用契約であれば、原則として退職の意思表示から一定期間(民法によれば2週間)を経ることで雇用契約は終了します。退職の意思は、必ずしも本人が対面や電話で伝えなければならないものではありません。第三者を通じて伝えられた場合でも、その内容が本人の真意に基づくものであれば、本人による意思表示として扱われる可能性があります。企業側としては、「誰が伝えたか」よりも、「本人の意思かどうか」を確認する姿勢が重要です。
退職代行業者等からの連絡を無視した場合のリスク
退職代行業者等からの連絡を無視し続けることは、企業にとってリスクとなり得ます。退職日が不明確なまま時間が経過すると、賃金の支払いや社会保険資格の喪失手続が遅れ、結果として労使間の紛争に発展する可能性があります。また、企業側が不誠実な対応を取ったと受け止められると、後の交渉や説明がより難しくなります。連絡を受けた時点で、事実確認と社内対応の整理を進めることが、結果的に企業を守る対応となります。
企業が対応を誤りやすい注意点
企業が陥りやすい誤りとして、「退職届が提出されていないから在職扱いにする」「所定のルールを守っていないことを理由に懲戒処分を検討する」といった判断があります。しかし、これらは状況次第では不適切な対応となるおそれがあります。特に、退職の意思が明確であるにもかかわらず手続きを引き延ばすことは、トラブルの火種になりかねません。法的な原則と実務上の落としどころを見極めることが重要であり、その判断には専門的な労務知識が求められます。
退職代行と弁護士・労働組合の違い【企業側の注意点】

退職代行と一口にいっても、その運営主体によって企業側の対応は大きく異なります。特に重要なのは、「誰が退職の連絡をしてきているのか」を正確に把握することです。民間業者、弁護士、労働組合では、対応できる範囲や法的な位置づけが異なり、同じ対応を取るとリスクにつながる場合があります。企業としては、感情的に一括対応するのではなく、相手方の立場に応じて実務を切り分ける視点が不可欠です。
相手が民間の退職代行業者の場合
民間の退職代行業者は、原則として「退職の意思を伝える」役割に限定されます。つまり、賃金や有給休暇の消化、退職日を巡る代理人としての交渉など、法律事務に該当する対応は弁護士法72条に抵触することになるため、行えません。企業側としては、業者からの連絡内容が単なる意思伝達なのか、それとも交渉に踏み込んでいるのかを冷静に見極める必要があります。万が一、交渉を前提とした要求があった場合には、違法行為への加担を避けるため、そのまま応じるのではなく、適切な専門家への相談を検討することが重要です。
相手が弁護士の場合
弁護士が代理人として関与している場合は、退職条件や未払い賃金、有給休暇などについて法的な代理・交渉が可能となります。そのため、企業側の対応もより慎重さが求められます。書面でのやり取りや期限の設定など、形式的な対応が増えることも特徴です。安易な回答や曖昧な説明は、後の紛争リスクを高める要因になります。事実関係を整理したうえで、社内方針を明確にし、一貫した対応を取ることが求められます。
相手が労働組合の場合
労働組合が行う退職代行は、団体交渉の一環として位置づけられる場合があります。この場合、民間業者とは異なり、組合員の退職に関しては一定の交渉が認められる点が特徴です。企業側としては、団体交渉に該当するかどうかを見極め、法令に沿った対応を行う必要があります。対応を誤ると不誠実な交渉を行ったものとされ、不当労働行為と評価されるリスクもあるため注意が必要です。なお、ここでいう労働組合には、企業や職場の従業員で組織されている企業内労働組合のみならず、個人加入の合同労働組合も含まれますのでご注意ください。
企業対応が変わる判断ポイント
企業が取るべき対応は、「相手が誰か」「どこまでの行為を行っているか」によって異なります。一律に拒否したり、過剰に譲歩したりすることは適切ではありません。主体ごとの役割を理解し、対応レベルを切り分けることが、無用なトラブルを防ぐ鍵となります。この判断は実務経験だけでは難しい場面も多く、労務の専門家と連携することで、企業リスクを最小限に抑えることができます。
退職代行を利用されたときの企業側の正しい対応フロー

退職代行業者等を通じて連絡を受けた際、企業側が最も重視すべきことは「初動対応」です。驚きや戸惑いから対応を先送りにすると、退職日や賃金精算、社会保険の資格喪失などが曖昧になり、結果として労務トラブルへ発展するおそれがあります。退職代行を利用された場合でも、企業として行うべき実務は通常の退職対応と大きく変わりません。感情的な判断を排し、手続きを一つずつ整理して進めることが、企業リスクを最小限に抑えるポイントとなります。
初動対応でまず確認すべき事項
最初に行うべきは、退職代行からの連絡内容を正確に整理することです。誰からの連絡なのか、退職の意思は明確か、希望する退職日が示されているかといった点を確認します。また、本人の意思であることを確認するため、書面での意思表示を求める対応も実務上有効です。重要なのは、連絡を受け取った事実を社内で共有し、対応窓口を一本化することです。複数部署が個別に対応すると、認識のズレが生じやすくなってしまいます。
本人意思の確認と書面対応
退職代行業者等を通じた連絡であっても、最終的には本人の退職意思を確認することが重要です。退職届や退職願の提出を依頼し、退職日や引継ぎの扱いを明確にします。郵送や電子的な方法での提出も認められるため、形式にこだわりすぎない柔軟な対応が求められます。本人の意思を確認できる記録を残すことは、後日のトラブル防止において重要な意味を持ちます。
社内で整理すべき手続き一覧
退職が確定した後は、社内で必要な実務手続きを整理して進めます。対応漏れがあると、企業側の負担が増えるため注意が必要です。代表的な手続きは以下のとおりです。
- 雇用契約の終了日と賃金精算の確認
- 有給休暇の残日数と取扱いの整理
- 社会保険・雇用保険の資格喪失手続き
- 社内システム・アカウントの整理
貸与物・情報管理の対応
- パソコンや社員証など、会社からの貸与物については、返却方法と期限を明確にして通知します。 郵送対応とするなど、現実的な方法を提示することが重要です。また、機密情報の取扱いについても、社内ルールに基づき適切に管理します。
社会保険・雇用保険の手続き
- 退職日が確定したら、社会保険や雇用保険の資格喪失手続きを速やかに行います。手続きの遅れは、従業員本人だけでなく企業側の信用にも影響します。法令に沿った期限管理が重要であり、実務に不安がある場合は専門家(社会保険労務士)のサポートを受けることが有効です。
退職代行が企業に与える影響と労務リスク

退職代行の利用は、単に一人の従業員が退職するという事実にとどまらず、企業全体の労務管理や組織運営にも影響を及ぼします。適切に対応できれば大きな問題に発展しない一方で、初動対応や社内整理を誤ると、労務トラブルや職場環境の悪化につながる可能性があります。企業としては、退職代行を「例外的な出来事」として処理するのではなく、労務リスクの一つとして捉え、冷静に影響を整理する視点が重要です。
職場への心理的・組織的影響
退職代行が使われた事実は、周囲の従業員に少なからず影響を与えます。「直接言えない職場なのではないか」「自分も同じ手段を取るべきか」といった不安や疑問が生じることもあります。企業側が感情的な対応を取ったり、否定的な発言をしたりすると、職場全体の信頼関係が損なわれるおそれがあります。そのため、個別の退職として淡々と処理し、過度に問題視しない姿勢が、組織の安定につながります。
労務トラブルに発展するケース
退職代行をきっかけにトラブルへ発展するケースとして多いのが、退職日や賃金精算、有給休暇の扱いを巡る認識のズレです。企業側が対応を先延ばしにした結果、「退職が認められていない」「賃金が支払われていない」といった主張を招くことがあります。また、書面での記録を残していない場合、後日事実関係を証明することが難しくなります。手続きを形式的にでも整えておくことが、紛争予防の基本となります。
企業イメージ・採用面への影響
近年は、退職代行の利用が珍しいものではなくなり、情報が外部へ広がるスピードも速くなっています。企業側の対応次第では、「対応が不誠実だった」「説明が不十分だった」といった印象を持たれる可能性もあります。これは、将来的な採用活動や企業イメージにも影響しかねません。退職代行を利用された場合こそ、法令に沿った誠実な対応を徹底することが、結果として企業価値を守ることにつながります。
退職代行が増える背景と企業が直面する課題

近年、退職代行の利用が増加している背景には、単なる個人の問題ではなく、働き方や労働者意識の変化があります。企業側が「非常識な辞め方」と一面的に捉えてしまうと、本質的な課題を見誤るおそれがあります。退職代行の増加は、企業の労務管理やコミュニケーション体制を見直すきっかけとも言えます。なぜ退職代行が選ばれるのかを冷静に分析し、組織課題として整理する視点が重要です。
働き方の変化と労働者意識の変化
終身雇用を前提としない働き方が一般化し、転職や退職に対する従業員の心理的ハードルは以前より下がっています。一方で、対面でのやり取りや強い引き止めを負担に感じる労働者も増えています。こうした背景から、「直接言わずに手続きを進めたい」というニーズが生まれ、退職代行の利用が選択肢の一つとなっています。企業側としては、価値観の変化を前提にした労務管理が求められます。
コミュニケーション不足が招く問題
退職代行が利用される職場では、日常的なコミュニケーションが不足しているケースも少なくありません。上司等との相談の機会が限られていたり、不満を伝えにくい雰囲気があったりすると、退職の意思も第三者を介して伝えられがちです。必ずしも違法行為や重大な問題がなくても、「話し合える関係性」が築けていないこと自体が課題となります。
企業側に求められる管理体制の見直し
退職代行の増加は、企業に対して管理体制の見直しを促しています。退職手続きのルールが曖昧なまま放置されていると、対応の属人化や判断ミスが起こりやすくなります。退職時の対応フローを明文化し、誰が対応しても同じ判断ができる体制を整えることが、企業課題への現実的な対応と言えます。
退職代行対応を含めた就業規則・社内体制の整備

退職代行を巡るトラブルを防ぐためには、場当たり的な対応ではなく、あらかじめルールと体制を整えておくことが重要です。特に就業規則や社内フローが未整備の場合、担当者ごとに判断が分かれ、結果として企業リスクを高めてしまいます。退職代行の利用そのものを想定外とせず、通常の退職対応の延長線上にあるものとして整理しておくことが、安定した労務管理につながります。
退職に関する規定の整備ポイント
就業規則においては、退職の申出方法や時期、退職届の提出方法などを明確に定めておくことが重要です。対面での提出に限定せず、郵送や書面による対応も想定しておくことで、実務上の混乱を防げます。また、即時退職を希望された場合の考え方についても、法令に沿った整理をしておくことが望まれます。規定があるだけでなく、実務で使える内容になっているかがポイントです。
実務対応を想定した社内フロー作成
退職代行業者等から連絡が入った場合の対応フローを、あらかじめ社内で共有しておくことも有効です。誰が窓口となり、どのタイミングで本人確認を行い、どの部署が手続きを進めるのかを明確にしておくことで、対応の属人化を防げます。特に、人事担当者が不在の場合でも対応できる体制を整えておくことは、企業にとって大きなメリットとなります。
外部専門家を活用するメリット
就業規則の整備や退職対応フローの構築は、法的な視点と実務的な視点の両方が求められます。自社だけで判断することが難しい場合、外部の専門家を活用することで、判断ミスや対応漏れを防ぐことができます。日常の労務管理と退職対応を一体で見直すことが、結果として退職代行を巡るリスクの低減につながります。
退職代行対応に不安がある企業こそ社会保険労務士へ相談を

退職代行への対応は、法令知識だけでなく、労務管理に関する実務判断や社内調整も求められる分野です。「この対応で問題ないのか」「拒否と受諾の線引きはどこか」といった判断を現場だけで行うことに、不安を感じる企業も少なくありません。退職代行は突発的に発生するケースが多いため、事前に相談先を確保しておくことが、企業リスクを抑える現実的な対策となります。
企業側の立場を踏まえた実務支援とは
社会保険労務士は、労働関係法令と労務管理実務の両面から、事業主等に対する助言・サポートを行う専門家です。退職代行業者等からの連絡に対して、どこまで応じるべきか、どのような対応がトラブルを招きにくいかを整理し、企業の対応につき支援します。感情論ではなく、法令に沿った冷静な対応を取るための伴走支援が受けられる点は、大きなメリットです。
就業規則・労務管理を一体で整える重要性
退職代行への対応だけを切り出して考えると、その場しのぎの判断になりがちです。退職時のルール、日常の労務管理、相談体制を一体で見直すことで、退職代行を巡るトラブルそのものを減らすことができます。就業規則の整備や運用状況の確認を通じて、企業に合った実務ルールを構築することが重要です。
継続的な顧問契約によるリスク予防
突発的な退職代行への対応は、事前準備の有無で結果が大きく変わります。社会保険労務士と顧問契約を締結し、継続的に関わることで、日常的な労務相談から退職時対応まで、一貫したサポートを受けることが可能です。問題が起きてから対応するのではなく、予防の視点で労務管理を整えることが、安定した企業運営につながります。
退職代行について社労士に相談する
社労士を探す際には、全国6,000以上の事務所(全国の依頼可能な社労士の20%)の社労士が登録する、中小企業福祉事業団の「社労士ナビ」をご活用ください。
この企業と社労士をつなぐ日本最大級のポータルサイトでは、地域や得意分野などを指定して社労士を探せるので、自社のニーズに合った社労士が簡単に見つかります。
初回相談が無料の社労士も多いため、事務所のスタンスや人柄をしっかり見極めた上で依頼しましょう。