社労士から見た中小企業のカスタマーハラスメント対策実態調査2026
2026年10月1日から、カスタマーハラスメント(カスハラ)の防止措置がすべての事業主に義務付けられました。中小企業福祉事業団は義務化直後の10月13日~22日、日常的に中小企業の労務管理に関わる会員社会保険労務士(社労士)を対象に調査を行いました。
調査で浮かび上がったのは、相談窓口や基本方針の整備が先行する一方、発生時の判断・報告・従業員へのフォローには課題が残るという状況です。本記事では、社労士が関与先の中小企業について回答した調査結果についてご紹介します。
中小企業のカスハラ対策実態調査2026|結果の主要4項目
| 主要4項目の回答抜粋 | 回答割合 |
|---|---|
| 過去1年間にカスハラ相談機会が増えた | 43.6% |
| 対象企業群で相談窓口・相談先を明確化していると回答 | 67.9% |
| 判断の難しい事案に「迷う・対応困難な企業が多い」と回答 | 76.9% |
| 中小企業に使いやすい判断基準が必要と回答 | 56.4% |
※いずれも社労士の回答割合です。全国の中小企業を直接調査した企業割合ではありません。設問によって対象となる関与先企業群が異なります。
カスハラ相談が「増えた」とする回答43.6%、対策の浸透はなお途上
過去1年間のカスハラに関する相談機会は、「大きく増えた」14.1%、「やや増えた」29.5%で、合計43.6%でした。「あまり変わらない」40.4%、「相談を受けたことがない」16.0%で、「減った」との回答はありませんでした。
一方、現在関与する中小企業全体で、何らかの対策を行っている企業の割合が「2~3割程度」「1割以下」「ほとんどない」とした社労士の回答は計54.5%でした。対策の広がりには差があると社労士がみていることがうかがえます。
相談窓口・基本方針を挙げた回答67.9%、報告・対応手順26.9%
カスハラの相談・対応を行った対象企業群について、現在行われている対策を複数回答で尋ねたところ、「相談窓口・相談先の明確化」と「会社としての基本方針」はいずれも67.9%でした。対して、「問題発生時の報告・対応手順」は26.9%、「事案を記録する仕組み」は21.8%、「被害従業員のフォロー」は17.9%でした。
■対象企業で現在行われている対策

図1 対象企業群で現在行われているカスハラ対策(複数回答/社労士の回答割合)。出典:中小企業福祉事業団「社労士から見た中小企業のカスタマーハラスメント対策実態調査2026」
窓口の設置や方針の策定だけでなく、判断担当者、報告先、従業員への配慮まで決めておくことが実務上の課題と考えられます。
グレーゾーン事案の対応力|判断に迷う・対応困難との回答76.9%
仮に判断の難しいカスハラが明日起きた場合の対応力について、「一部対応できるが、判断に迷う企業が多い」40.4%、「かなり対応に迷う企業が多い」25.6%、「ほとんど対応できない企業が多い」10.9%で、合計76.9%でした。これは社労士が対象企業群の対応力をどうみているかを示す結果です。
社労士が見るカスハラ対策の段階|「始めたばかり」が46.2%
対象企業群の対策段階を尋ねると、「対策を始めたばかりの企業が多い」は46.2%、「ほとんど対策できていない企業が多い」は30.8%でした。「必要な対策がおおむね整っており、運用もできている企業が多い」は3.2%にとどまります。これらは企業の直接集計ではなく、社労士による関与先企業群の評価です。
■カスハラ対策は現在どの段階か

図2 カスハラ対策は現在どの段階か(社労士による関与先企業群の評価)。出典:中小企業福祉事業団、同調査
対策を進めるうえでの最大の障害は、「カスハラか正当な苦情かの判断が難しい」28.2%が最多で、「経営者の問題意識が不十分」15.4%、「発生件数が少なく、優先順位が低い」14.7%が続きました。
カスハラに当たる行為と正当なクレームの違い、2026年10月1日からの義務化の具体的内容については、カスハラとは?クレームとの違い・判断基準と2026年10月1日からの義務化で解説しています。
社労士が必要と考える支援|判断基準56.4%、規程ひな形55.1%
中小企業の対策を進めるために特に必要な支援を最大3つ選んでもらったところ、「中小企業でも使いやすい判断基準」が56.4%、「対応マニュアル・規程のひな形」が55.1%、「実際の事例を使った対応事例集」が46.8%でした。
■中小企業の対策を進めるために必要な支援(上位8項目)

図3 中小企業のカスハラ対策に必要な支援(最大3つ選択/社労士の回答割合)。出典:中小企業福祉事業団、同調査
自由記述では、正当なクレームとの線引き、業種・取引形態ごとの違い、顧客側への啓発、経営者の優先順位、マニュアル作成後の運用などが挙がりました。現場で判断に使える具体的な材料へのニーズが示されています。
カスハラ事案の発生状況と影響|精神的負担が64.6%
相談・対応を行った対象企業群について、過去3年間にカスハラに該当する、またはその可能性がある事案が「複数回ある」は30.1%、「1回ある」は11.5%で、報告書に示された合計は41.7%でした。「わからない」も21.8%でした。
事案による影響では、「従業員が強いストレスや精神的負担を感じた」が64.6%で最多でした。ほかに、管理職・経営者の対応時間の増加や欠勤・休職なども回答されています。
調査概要
| 調査主体 | 中小企業福祉事業団 |
|---|---|
| 調査期間 | 2026年10月13日~10月22日 |
| 調査対象 | 中小企業福祉事業団の会員社会保険労務士 |
| 調査方法 | インターネット調査 |
| 有効回答 | 205名 |
※割合は小数第2位を四捨五入し、小数第1位まで表示しています。複数回答の設問は合計が100%を超える場合があります。また、四捨五入のため内訳の合計と報告書記載の合計が一致しない場合があります。
まとめ|カスハラ対策は「窓口の整備」から「判断・対応の運用」へ
今回の調査では、カスハラの相談・対応を行った対象企業群について、社労士が「実施中の対策」に挙げたのは相談窓口・基本方針が各67.9%で、問題発生時の報告・対応手順は26.9%、被害従業員のフォローは17.9%でした。中小企業のカスハラ対策では、方針や窓口を設けるだけでなく、実際に事案が起きた際に判断・対応できる体制を整えることが課題といえます。
自社の対策を点検するときは、「カスハラと正当な苦情をどう判断するか」「誰に報告し、どのように記録・対応するか」「被害を受けた従業員をどうフォローするか」を具体的に確認するとよいでしょう。
判断基準や対応手順の整備を自社だけで進めるのが難しい場合は、労務管理の専門家である社会保険労務士への相談も選択肢です。社労士ナビでは、地域や相談分野などの条件から社労士を探せます。