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更新日:2026 / 10 / 28
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能登半島地震で業務停止した企業が雇用調整助成金を活用して雇用を維持した事例|社労士 岸本 貴久の解決事例

<編集協力:社労士ナビ編集部>

解決した社労士

  • 社会保険労務士 岸本貴久氏(BSP 社会保険労務士法人/東京都千代田区)

※本記事は、実際の対応事例をもとに、企業等が特定されないよう一部内容を調整しています。

この記事を読んで分かること

  • 災害で一部地域の事業が停止した際に、雇用調整助成金を検討する視点
  • 全国展開する企業でも、被災地域を区分して制度を検討できる場合があること
  • 雇用維持と会社の財務を両立するために、制度と雇用判断をどう整理するか

災害時の雇用維持では、全国一律ではなく被災地域の状況を確認することが重要です

大規模災害によって一部地域の事業が突然停止すると、企業は売上への影響だけでなく、そこで働く従業員の雇用をどこまで維持できるかという判断を迫られます。
今回の事例では、能登半島地震によって現地の業務が停止しました。一方、全国規模で事業を展開する企業だったため、会社全体の売上で見ると雇用調整助成金の要件を満たさず、当初は制度を利用できないと考えられていました。
しかし、災害時には会社全体の数字だけで結論を出すのではなく、被災地域に適用される特例や、申請上どの単位で状況を整理できるのかまで確認する必要があります。今回の事例では、能登地域の拠点を区分して制度を利用できる形を整えることで、解雇を急がず雇用を維持する選択肢を残すことができました。

対象企業の情報

  • 所在都道府県:石川県
  • 業種:販売(アパレル)
  • 従業員規模:500人
  • 組織の特徴:全国の百貨店で販売代行を行う多拠点型企業

能登半島地震で業務委託が突然停止し、現地従業員の雇用が課題に

能登半島地震により、取引先である能登地域の百貨店が被災し、同店で受託していた販売業務が突然停止しました。全国の百貨店で販売代行を行っていた企業にとって、能登地域で働く従業員の仕事が一気に失われる状況となりました。
現地では正社員やパートが働いており、多くの従業員が地域に根付いて生活しています。急な解雇となれば、その生活への影響は大きくなります。その一方で、会社としても雇用を維持するために際限なく資金を使えるわけではなく、内部留保を守りながら、できる限り現地の雇用も維持したいという課題を抱えていました。

ところが、全国規模で売上を見ると10%の減少要件を満たさず、会社は雇用調整助成金を使えないと考えていました。地震直後の混乱もあり、能登半島地震に伴う特例措置を把握できておらず、従業員への説明会を早く開くことや、解雇を進めることも検討し始めていました。
そこで、現地従業員の雇用をできるだけ維持するために制度を利用できないか、解雇を検討する場合に雇用調整助成金へどのような影響があるのか、説明会をいつ行うべきかという点も含めて相談を受けました。

能登地域を区分し、雇用調整助成金を利用できる形を整理

この事例で最初の大きなポイントとなったのが、全国の売上だけを見て「雇用調整助成金は利用できない」と結論づけなかったことです。

能登半島地震の特例と事業所非該当承認の取扱いを活用

私は、令和6年能登半島地震に伴う雇用調整助成金の特例措置を確認するとともに、能登地域の拠点について事業所非該当承認の取扱いを活用し、能登地域分を区分して申請できる形を整理しました。
雇用調整助成金は原則として雇用保険の適用事業所単位で申請しますが、雇用保険上の非該当承認を受けるなど、所定の条件を満たす施設については、施設単位で申請できる取扱いがあります。 すべての支店や店舗を自由に切り分けて申請できるという意味ではありません。

今回の事例では、この取扱いを踏まえて能登地域を区分し、その地域の売上高等の生産指標を確認した結果、雇用調整助成金を活用できる形を整えました。
つまり、事業所非該当承認そのものが「能登特例」なのではありません。能登半島地震に伴う雇用調整助成金の特例措置と、非該当承認施設単位で申請できる取扱いを組み合わせ、能登地域の実態に即して制度を利用できるよう整理したことが、この事例でのポイントです。

解雇を急ぐ前に、雇用調整助成金との関係を整理

もう一つ重要だったのが、解雇を検討する時期です。
雇用調整助成金では、解雇予告を受けた労働者や退職を申し出た労働者、事業主による退職勧奨に応じた労働者は、その事実が生じた後、原則として対象労働者から外れます。これは能登半島地震の特例だけに設けられた考え方ではなく、雇用調整助成金における対象労働者の基本的な取扱いです。

そのため、この事例では「解雇をすれば会社への雇用調整助成金がすべて止まる」と考えるのではなく、解雇予告等を急ぐことで、その従業員について雇用調整助成金を活用した雇用維持ができなくなる点を踏まえて、判断の順序を整理する必要がありました。
また、取引先百貨店での受託販売業務が実際に再開し、休業の必要性が変われば、助成対象となる休業の前提も変わり得ます。ただし、「事業再開の見込み」そのものが独立した助成金の停止要件というわけではありません。
今回の事例では、今後の受託販売業務の再開見通しも確認しながら、現時点でどのように休業と雇用維持を進めるかを企業と整理しました。

従業員説明会のタイミングを調整し、雇用維持できる期間を確保

企業は当初、従業員への説明会を急いで開催しようとしていました。しかし、説明会の内容や、その後に解雇予告等へ進むかどうかによって、雇用調整助成金を活用できる対象にも影響します。
そこで、まず制度を利用してどこまで雇用を維持できるのかを整理し、そのうえで説明会のタイミングを調整しました。
先に解雇の方向を固めるのではなく、利用できる制度と雇用維持の可能性を確認してから、従業員への説明と次の判断へ進む形にしたことで、雇用調整助成金を活用して雇用を維持できる期間を確保しました。

説明会の時期そのものが雇用調整助成金の支給期間を決める制度要件というわけではありません。この事例では、解雇予告等を急がず、制度を利用できる状態を維持しながら雇用判断を進めたことに意味がありました。
あわせて、正社員からパートまでを含む休業計画を作成し、会社と連携して現地従業員への説明内容を整理しました。雇用調整助成金そのものの対象となるのは雇用保険被保険者ですが、会社としての休業計画と従業員への説明は、それだけに限定せず現地の雇用全体を見ながら進めています。
さらに、雇用調整助成金の申請書類を整え、必要な手続きを速やかに進められる体制も構築しました。

雇用調整助成金を活用し、解雇を急がず現地の雇用を維持

一連の対応により、この事例では能登地域を区分して生産指標を確認した結果、要件を満たす形となり、雇用調整助成金を活用して現地従業員の雇用を維持することが可能になりました。
解雇を急がずに済んだことで、従業員の生活を守りながら対応を進めることができました。また、説明会や雇用判断のタイミングを調整したことで、雇用調整助成金を活用しながら雇用を維持できる期間を確保することができました。

会社にとって重要だったのは、単に助成金を受給できたことだけではありません。雇用維持に必要な会社負担を制度によって抑えることで、内部留保を守りながら、現地の雇用も維持するというバランスを実現できました。
また、今回の経験によって、災害時にどのような制度情報を集め、どの順序で雇用判断を行うかという労務対応のノウハウも社内に蓄積されました。

社労士が制度と雇用判断をつなぐことで、雇用維持と会社の財務を両立

今回、企業が当初見ていたのは「全国売上では雇用調整助成金の要件を満たさない」という状況でした。そのまま判断していれば、制度を利用できないものとして、解雇を早める方向へ進む可能性がありました。
そこで私は、能登半島地震に伴う特例措置だけを案内するのではなく、能登地域をどの単位で申請できるのか、解雇を検討する時期と助成対象の関係、従業員説明会の時期、休業計画、申請手続までを一つにつなげて整理しました。

その結果、現地従業員の雇用を維持する期間を確保しながら、会社側も内部留保を守ることができました。今回の事例では、社労士が制度と実際の雇用判断を結び付けて整理したことが、雇用維持と会社の財務を両立する具体的な結果につながっています。
助成金制度を知っているだけでは、この両立はできません。会社が置かれている状況を確認し、どの制度を、どの単位で、どのタイミングで利用するのかまで実際の雇用判断につなげることが必要です。

災害時は、会社全体の数字だけで制度利用を諦めない

今回の事例から企業にお伝えしたいのは、災害が起きたときに通常の状況だけを前提として「制度は使えない」と判断しないことです。
令和6年能登半島地震では、通常の雇用調整助成金に対して、生産指標の確認期間短縮をはじめとする特例措置が設けられました。また、対象地域については助成率や支給限度日数などにも特例措置が設けられています。
さらに今回のような多拠点企業では、会社全体の売上では要件を満たさなくても、各拠点の雇用保険上の取扱いなど所定の条件を確認することで、被災地域を区分して制度を検討できる場合があります。

どの企業でも自由に拠点単位へ切り分けられるわけではないため、まず自社の事業所・施設が制度上どのように扱われているのかを確認することが重要です。
また、解雇や従業員への説明を先に進めると、その後に利用できる雇用維持策へ影響する場合があります。大きな雇用判断を行う前に、どの制度が利用できるのか、どの程度の期間雇用を維持できるのかを整理する必要があります。
日本企業にとって、災害時の労務対応は平時から備えておくべき実務知識だと私は考えています。制度について事前に理解しておくことが、災害発生時に従業員の生活を守りながら事業を継続するための選択肢につながります。

よくある質問

全国展開している企業でも、被災地域だけを区分して雇用調整助成金を申請できますか?

一定の条件を満たす場合には可能です。
雇用調整助成金は原則として雇用保険の適用事業所単位で申請しますが、雇用保険上の非該当承認を受けている施設などについては、施設単位で申請できる取扱いがあります。
ただし、全国展開しているというだけで、任意の支店や店舗を自由に切り分けられるわけではありません。自社の各拠点が雇用保険上どのように扱われているのかを確認したうえで、制度を利用できるか判断する必要があります。

解雇を検討している場合、雇用調整助成金との関係で何に注意すべきですか?

雇用調整助成金では、解雇予告を受けた労働者などは、その事実が生じた後、原則として対象労働者から外れます。
したがって、雇用調整助成金を活用して雇用を維持することを検討している段階で解雇予告等を先に進めると、その従業員について制度を利用できる範囲が変わります。
今回の事例でも、解雇を急ぐのではなく、まず制度を利用してどこまで雇用を維持できるかを整理したうえで、従業員への説明やその後の雇用判断を進めました。

災害時の労務対応は、制度と経営判断を一体で考える

災害によって事業が突然停止すると、企業は短期間のうちに従業員の雇用、会社の資金、今後の事業継続について判断しなければなりません。
そのような状況だからこそ、解雇などの大きな判断を急ぐ前に、利用できる特例や申請方法を確認し、従業員の雇用と会社の財務を一体で考えることが重要です。
今回の事例では、全国売上だけでは利用できないと考えていた雇用調整助成金について、能登地域を区分して申請できる形を整えました。そして、制度の利用可能性だけでなく、解雇を検討する時期、従業員説明会、休業計画、申請までを一連の判断として整理したことで、現地従業員の生活を守りながら、会社の内部留保も守るという両立を実現しました。
制度を知っているだけでなく、自社の状況に合わせて利用できる条件や申請単位を確認し、実際の雇用判断につなげておくことが、災害時の選択肢を広げます。

執筆者

岸本 貴久

東京都

BSP社会保険労務士法人
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もちろん、適正な労務の実現が目的です。
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