ケアハラとは?定義・具体例と企業が講じるべき防止策を解説
「介護休業を取るなら、重要な仕事は任せられない」などと、介護休業等の利用を申し出た労働者に対して、制度の利用を思いとどまらせるような言動をしていないでしょうか。
介護休業や介護休暇などの利用に関する言動によって、労働者の就業環境が害される場合は、ケアハラスメント(以下、ケアハラ)に該当します。
ケアハラを放置すると、経験豊富な中堅人材の離職や、必要な両立支援の遅れにつながるおそれがあります。企業には、ケアハラを防ぐための取り組みと、発生した場合の適切な対応が欠かせません。
この記事では、ケアハラの定義や具体例、業務上必要な対応との違い、企業が講じるべき防止策について、人事労務の視点から解説します。ケアハラを防ぎ、介護を担う労働者が働き続けられる職場づくりに向けて、自社の体制を見直すきっかけにお役立てください。
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ケアハラ(ケアハラスメント)とは?

ケアハラは、法律上の正式名称ではありません。厚生労働省が「職場における妊娠・出産等、育児・介護休業等に関するハラスメント」と整理するもののうち、介護休業等に関するハラスメントを、一般にケアハラと呼びます。
具体的には、介護休業などの制度・措置の利用に関する上司や同僚の言動によって、労働者の就業環境が害されるものを指します。
対象となる制度・措置は、介護休業と介護休暇だけではありません。所定外労働の制限(残業免除)、時間外労働の制限、深夜業の制限、介護のための所定労働時間の短縮等の措置も含まれます。
たとえば「介護のために残業の免除を申請したことで、繰り返し嫌味を言われる」といったケースもケアハラの一例です。
こうしたハラスメントを防止するため、育児・介護休業法では、企業に方針の明確化や周知、相談体制の整備、発生後の迅速かつ適切な対応などを義務づけています。
なお、妊娠・出産や育児休業等をめぐるハラスメント「マタハラ・パタハラ」については、以下の記事でくわしく解説しています。あわせてご覧ください。
関連記事:マタハラ・パタハラとは?定義・具体例と企業ができる対策を解説
次章では、ケアハラに該当する具体的な言動を見ていきます。
ケアハラの具体例

厚生労働省では、介護休業等の利用をめぐって問題となる言動を、以下の3つに整理しています。
- 解雇や降格などをほのめかす
- 制度の利用を妨げたり、あきらめさせたりする
- 制度を利用したことを理由に嫌がらせをする
それぞれ、具体例を挙げて解説します。
解雇・降格などの不利益な取扱いをほのめかす
上司が、介護休業等の相談・申出や利用を理由に、解雇や降格、減給、評価の引下げなどを示すケースです。
たとえば、以下のような言動が当てはまります。
- 介護休業を相談した労働者に、「休むなら昇進はあきらめてもらう」と伝える
- 介護休暇を申し出た労働者に、「そんなに休むなら評価を下げざるを得ない」と伝える
- 介護休業を取得した労働者に、「今後も休むなら今の役職には置いておけない」と伝える
このように、ケアハラに当たるのは、不利益な取扱いを「示唆する言動」です。上司から労働者に直接行われた場合、1回でもケアハラに該当します。
一方、企業が介護休業等の申出や利用を理由として解雇や降格、減給などを「実際に行った場合」は、ケアハラとは別に「不利益取扱い」として育児・介護休業法で禁じられています。
制度の利用を妨げる・あきらめさせる
上司や同僚が、介護休業等を利用しないよう求めたり、すでに行った申出を取り下げるよう迫ったりするケースです。
たとえば、以下のような言動が挙げられます。
- 介護休業を相談した労働者に、「今は忙しいから申請しないでほしい」と伝える
- 介護休業を取得しようとする労働者に、「ほかの家族で対応できないのか」と取得をあきらめるよう促す
- 介護休暇を申し出た労働者に、「介護休暇は認めないので、有給休暇を使ってほしい」と伝える
なお、単に言動があっただけでは該当せず、客観的に見て、一般的な労働者であれば制度の利用をあきらめざるを得なくなるような言動が対象です。
また、上司による言動は1回でもケアハラに該当することがあります。一方で、同僚による言動は、原則として繰り返し・継続的に行われるものが対象です。
制度を利用したことを理由に嫌がらせをする
介護休業や介護休暇などを利用したことを理由に、上司や同僚が嫌がらせをするケースです。
たとえば、以下のような言動が挙げられます。
- 介護休暇を取得する労働者に対して、「また休むのか」「周りが迷惑している」と繰り返し言う
- 介護休業から復帰した労働者に対して、「長く休んで楽だっただろう」などと繰り返し嫌味を言う
- 介護のための制度を利用した労働者に対して、必要な業務情報を渡さない状態を続ける
このケースは、上司・同僚のいずれによる言動でも、原則として繰り返し・継続的に行われ、就業するうえで看過できない程度の支障が生じるものが対象です。
なお、介護に関する嫌がらせのすべてがケアハラに当たるわけではありません。
たとえば、介護休業等の相談・申出・利用とは関係のない場面で「親の介護なんて自分で何とかしろ」というケースです。こうした介護そのものへの言動は、内容や状況によってパワーハラスメント(パワハラ)に該当する可能性があります。
パワハラの判断基準については、以下の記事をご覧ください。
関連記事:パワハラとは?指導との違い・判断基準と企業に求められる対策を解説
ケアハラと業務上必要な対応の違い

介護休業等の利用に関する言動であっても、業務上必要な確認や相談であれば、ケアハラに該当しないことがあります。
厚生労働省でも、客観的に見て「業務上の必要性に基づく言動」は、ハラスメントに該当しないとしています。
たとえば、以下のような確認・相談が挙げられます。
- 業務の引き継ぎを進めるため、介護休業の取得予定を確認する
- 業務体制を調整するため、制度の利用時期について本人に相談する
- 休業中の業務分担を調整するため、引き継ぎの方法について本人と相談する
ただし、制度の利用時期や取得日などの変更を本人に強要したり、利用をあきらめさせたりすると、ケアハラに当たる可能性があります。
業務上の調整が必要な場合も、企業側の都合だけで決めるのではなく、理由を説明したうえで本人の意向を確認しましょう。
参考:厚生労働省|あかるい職場応援団|妊娠・出産、育児・介護休業等に関するハラスメントとは
ケアハラが起きる背景

介護休業等の制度への理解不足や、制度を利用しにくい職場風土は、ケアハラにつながる要因です。
ここでは、主な背景を見ていきます。
介護休業等の制度が十分に周知されていない
介護休業や介護休暇について、対象となる労働者や利用できる場面が職場で十分に周知されていないと、上司や同僚が制度の利用を正しく受け止められないことがあります。
たとえば、本来利用できる労働者に対して、「その程度では休めない」「介護休暇は使えない」などと誤った認識で対応すると、制度の利用を妨げる言動につながります。
企業は、介護を担う労働者だけでなく管理職や周囲の労働者にも、誰がどのような場合に制度を利用できるのかを周知しておくことが大切です。
参考:厚生労働省|介護休業制度
制度を利用しにくい職場風土がある
「介護で休まれると迷惑だ」「制度を使う人だけ特別扱いされている」といった、制度利用に関して否定的な言動がある職場では、労働者が介護休業等を申し出にくくなります。
介護休業等の利用を特別扱いと捉えず、利用者を責めたり制度の利用を妨げたりしないという認識を、職場全体で共有しておくことが重要です。
参考:厚生労働省|事業主が講ずべきハラスメント対策パンフレット
ケアハラを放置した場合の企業リスク

ケアハラを放置すると、労働者が介護休業等の利用や相談をためらうだけでなく、人材の離職や両立支援の遅れなど、企業にも影響が及びます。
ここでは、企業が押さえておきたい主なリスクを見ていきます。
経験を積んだ中核人材の離職につながる
介護を担う労働者には、管理職や職責の重い業務を担当するなど、企業の中核を担う人材も少なくありません。厚生労働省も、こうした人材が仕事と介護の両立に悩んで離職することは、企業にとって大きな損失になるとしています。
ケアハラによって介護休業等を利用しにくくなれば、労働者が仕事との両立をあきらめ、離職を選ぶ可能性があります。
経験や知識を持つ人材の離職を防ぐためにも、介護休業等を利用しても不利益や嫌がらせを受けない職場環境を整えることが重要です。
介護の状況を把握できず、必要な支援や業務調整が難しくなる
ケアハラへの不安から労働者が介護について相談をためらうと、企業は本人の状況や制度利用の意向を把握しにくくなります。
たとえば、介護休業や介護休暇の申出が遅くなると、引き継ぎや人員配置の調整が間に合わなくなる可能性があります。周囲の労働者に急な業務負担が生じるほか、介護について相談しにくい状況が続けば、企業への不信感にもつながりかねません。
企業は、労働者が早い段階で介護について相談できる環境を整え、相談があった際に制度の案内や業務調整をスムーズに進められるよう準備しておくことが大切です。
法令違反として指導・勧告を受ける可能性がある
育児・介護休業法により、介護休業等に関するハラスメントを防止するための必要な措置を講じることは企業の義務です。
相談体制の整備や、ハラスメント発生後の適切な対応などを行っていない場合は、法令違反として行政による助言・指導・勧告の対象となる可能性があります(育児・介護休業法第56条)。
さらに、勧告に従わない場合はその旨が公表されることもあるため、企業は法令上の義務を確実に果たすことが重要です(同法第56条の2)。
具体的な対策は、次章でくわしく解説します。
参考:e-Gov法令検索|育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律
企業が講じるべきケアハラ対策

ケアハラを防ぐには、相談しやすい体制を整え、制度の利用を妨げない対応の徹底が欠かせません。また、介護休業等を法令に沿って案内・運用できるようにしておくことも大切です。
職場のハラスメント対策全般については、以下の記事でくわしく解説しています。
関連記事:職場のハラスメント対策とは?企業が整えておきたい予防・対応のポイントを解説
ここでは、ケアハラ対策として企業がとくに意識したいポイントを見ていきます。
相談しやすい環境を整え、周知する
企業は、ケアハラについて相談できる窓口を設けるか、既存の相談窓口で対応できるようにして、労働者に案内しましょう。
相談の対象は、実際にケアハラが起きている場合だけではありません。判断に迷うケースや、本人以外に向けられた介護休業等に関する否定的な言動についても、幅広く相談できる体制を整えておくことが重要です。
あわせて、相談者や行為者等のプライバシーを保護し、相談したことを理由に不利益な取扱いをしないことも明確にしておくと、安心して相談できる窓口づくりにつながります。
制度の利用を妨げない対応を徹底する
介護休業等の相談や申出を受けた際は、上司が担当者が制度の利用を思いとどまらせるような言動をしてはいけません。
たとえば、「今は忙しいから休まないでほしい」「介護休暇の申出を取り下げてほしい」など制度を利用しないよう働きかける行為は、ケアハラに該当する可能性があります。
管理職には、制度の内容だけでなく、どのような確認・相談なら問題がなく、どこからが制度の利用を妨げる言動になるのかという判断の目安まで共有しておきましょう。
育児・介護休業法に沿った運用になっているか確認する
ケアハラを防ぐには、ここまで紹介した対策に加え、介護休業や介護休暇などを育児・介護休業法に沿って案内・運用できる体制を整えておくことも重要です。
社内制度や運用が古いままだと、本来利用できる労働者に「対象外」と誤って案内するなど、不適切な対応につながりかねません。
介護関係では、令和7(2025)年4月1日から、以下の5つの改正事項が施行されています。
- 介護休業・介護両立支援制度等を利用しやすい雇用環境の整備
- 介護に直面した旨の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置
- 介護に直面する前の早い段階(40歳等)での情報提供
- 介護休暇を取得できる労働者の要件緩和
- 介護のためのテレワーク等の導入の努力義務化
就業規則や育児・介護休業規程を整えるだけでなく、法改正の内容を実際の案内や制度運用にも反映できているか確認することが大切です。
ケアハラが起きたときの企業対応

ケアハラの相談を受けた場合は、事実関係を確認したうえで、相談者への配慮や行為者への対応、再発防止を進める必要があります。
ハラスメント対応の基本的な流れについては、以下の記事でくわしく解説しています。
関連記事:職場のハラスメント対応の進め方とは?相談から再発防止までの5ステップを解説
ケアハラへの対応にあたっては、とくに以下の3点を押さえておくことが重要です。
制度の利用と問題となった言動の関係を確認する
ケアハラに当たるかを判断するには、問題となった言動が、介護休業等の相談・申出・利用とどのように関係しているかを確認することが欠かせません。
まず、どの制度に関するものなのか、相談・申出・利用のどの段階で言動があったのかを整理します。あわせて、誰が、いつ、どのような言動をしたのかも確認します。
企業は、相談者と行為者の双方から事情を聞き、必要に応じて関係者にも確認したうえで、事実関係を客観的に判断しましょう。
不利益取扱いがないかも確認する
ケアハラの相談では、嫌がらせの言動だけでなく、介護休業等の申出や利用を理由とした不利益な取扱いが行われていないかも確認しましょう。
介護休業等の申出や利用を理由に、企業が解雇、減給、降格、不利益な配置の変更などを行うことは禁止されています。こうした取扱いは、ケアハラとは別に、育児・介護休業法上の「不利益取扱い」にあたります。
相談を受けた際は、人事評価や配置、待遇に不利な変更がなかったかもあわせて調べ、不利益取扱いが認められた場合は、速やかに是正することが大切です。
介護に関する情報を慎重に扱い、必要に応じてフォローする
介護に関する相談では、家族の健康状態や家庭の事情など、プライバシーに関わる情報を扱うことがあります。
事実確認に必要な範囲にとどめ、相談で得た情報が必要以上に社内へ共有されないよう慎重に取り扱いましょう。
また、対応後も職場で嫌がらせが続いていないか、相談者が不利益な取扱いを受けていないかなど、必要に応じて状況を確認することが大切です。
参考:厚生労働省|事業主が講ずべきハラスメント対策パンフレット
ケアハラ対策に迷ったら社労士に相談を

ケアハラ対策では、ハラスメント防止だけでなく、育児・介護休業法に沿った制度や運用の整備も必要です。
どこまで対応すればよいのか判断に迷う場合は、専門家である社労士への相談も検討しましょう。
- 就業規則や育児・介護休業規程が、現在の法令に対応しているか確認したい
- 介護休業等の申出を受けた際の社内ルールや管理職の対応方法を整えたい
- ケアハラを防ぐための研修や相談体制を見直したい
こうした場面では、社労士と一緒に自社の課題を整理することで、法令に沿った対応を進めやすくなります。制度を利用しやすく、ケアハラが起きにくい職場づくりにも、専門家の支援が役立ちます。
まとめ|ケアハラを防ぎ、制度を利用しやすい職場をつくろう

本記事では、ケアハラの定義や具体例、業務上必要な対応との違い、企業が講じるべき対策について解説しました。
ケアハラは、介護休業等の制度・措置の利用に関する言動によって、労働者の就業環境が害されるハラスメントです。ケアハラを放置すると、中核人材の離職や、必要な支援・業務調整が難しくなるほか、法令違反として指導・勧告の対象となる可能性もあります。
企業は、相談体制の整備や管理職への周知を進め、ケアハラについて相談しやすく、介護休業等を利用しやすい職場環境を整えることが大切です。
自社だけで判断や対策を進めるのが難しい場合は、社労士などの専門家にも相談しながら、ケアハラのない職場づくりを進めましょう。
ケアハラについて社労士へ相談する
社労士を探す際には、全国7,000以上の事務所(全国の依頼可能な社労士の23%)の社労士が登録する、中小企業福祉事業団の「社労士ナビ」をご活用ください。
この企業と社労士をつなぐ日本最大級のポータルサイトでは、地域や得意分野などを指定して社労士を探せるので、自社のニーズに合った社労士が簡単に見つかります。
初回相談が無料の社労士も多いため、事務所のスタンスや人柄をしっかり見極めた上で依頼しましょう。